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夢戻リダイアル  作者: やまは
現実七日、夢六日
32/63

二章 3夢 立ち位置

 ユミの客人としての部屋。

 二つある部屋のうち、一つを『寝室』。もう一つの部屋に名前をつけるなら、『客室』というのがしっくり来る。


 頭を抱えて項垂れたユミだが、それはゆっくり上がりを見せてコウと目が合う。申し訳なさそうな表情で待っていた。

 アルメリアの不可解な性格を受け入れつつも、慣れるまでには時間が掛かりそうだと、改めて思う。言葉の意が反転しているというのは、あまりにも突拍子もなくて――。


「……ねぇ、コウ。『ジジョ』ってなに?」


 聞きなれない言葉ついて問いかける。コウの意図から次女――姉とか妹とかのそっちの意ではないのは分かる。それはアルメリアの態度からも垣間見えていた。兄妹――姉弟であの主従関係のような態度は流石にあり得ない。


「侍女っていうのは、身の回りの世話する仕事につく者の名称だ」


 『侍女(じじょ)』。

 基本的に、女主人を補佐するのが仕事である。

 メイドや女中とは一線を画す。雇用という点では、それらと同じであるが、ある程度の地位が与えられている。


「と言っても、アルは女中の仕事もできるから、そこは心配しなくていい」


「そうなんだ。一人で何役もこなせるってこと?」


「そう思ってくれればいい。他の侍女や女中との兼ね合い――って訳じゃないが……」


「……何か隠してない? コウ」


 言葉を詰まらせたコウに、ユミは詰め寄った。ドキンと反応したのが、それを裏付ける。

 侍女と女中。その両方を兼ね備えた少女がアルメリア。彼女一人ならば、何人もの手を煩わせなくていいという判断なのだろう。それだけ、優秀だということも、コウが指名するほどだ――その信用度は高い。だが、一人なら当然、負担がのし掛かるのもまた事実。

 アルメリアはまだ少女。見た目は十二、三歳ほど。決め手が何であれ、裏があるのだとすればユミには具合が悪い。

 コウ達を信頼しているだけに、隠させるのは嫌なのだ。


「……何も隠してない」

「ウソ。なら、こっち向いてそう言ってよ」

「俺は外が見たいだけだ」

「そっちはベッドしかないよ。――寝ぼけてるの?」


「……ぶっ。はっははは。何だ、その解釈は」


 畳み掛けるラリー応酬も、コウの吹き出しにより、それは終わりを告げた。そっぽを向いてうつ向く彼は、片手で顔を覆っている。今もなを笑いを堪えようと必死だが、微かに笑い声は漏れ出ている。ピクリ、ピクリと体は笑いの反応で震えている。


 ――――そんなに笑うとこ!?

 ユミは呆れながら、それが収まるのを待つしかなかった。だが、自然とその時間は悪くない。

 コウが笑っているのだから――。


「その……なんだ……悪い。別に笑うつもりはなかった」


 冷静さを取り戻したコウの第一声は、謝罪から始まった。若干、顔を火照らせて――それは羞恥の心を表すには十分。「変なツボでも、持ってるの?」と、ユミのからかいの油がそそがれて、新たな火照りとなって、コウに現れた。


「――ゴホン。ま、まぁ、俺のことはいい。ユミの言うとおりだが、アルをお前につけるのにはちょっと理由がある」


 咳払いで火照りを静め、これから真面目な話だと場の空気は変化した。ユミも、背筋を伸ばして聞き入る準備を整える。


「……お前には何の非もない。それだけは最初にいっておく」


 落ちた声色で、コウは前置きというなの確認をしだした。これから綴る言葉が、ユミにとって何ら問題がないこと。だが、避けては通れない、ということを意味している。

 ユミは首を縦に振って、身構える。前置きをするほどのことだ。否が応でも構えてしまう。

 自分の立ち位置を履き違えてはならない。第二王子の客人といえど、身分もない。位もない。教養もない。

 ――――自分には何もないということを。


「酷な話をするが、ユミのその髪色は目立つ。城で生活する以上、それはすぐに広まる。――まさか、ずっと部屋で生活するなんていうのは、嫌だろ?」


「うん。そこまでするなら、出ていくよ」


 あてはないが、異世界で引きこもっていてどうするのか。そこまで面倒をかけるつもりはない。

 乗り越えればいいだけのこと。壁は高いが、今は一人じゃない。


「出ていかれるのは困る。まだ何も返せていないし、『約束』もあるからな」


「具体的に、コウはどうすれば『甘えて』くれるの?」


「うーん。それは難しい質問だなぁ。俺はまだ、ユミのこと全然知らないし、ユミも俺のこと全然知らないだろ? ――『約束』はまだ先だな」


「そだね。――ごめん。話の腰折った」


「別に構わんが一つだけ、改めて腰を折るが――謝るな。俺は何回お前から、ごめんを聞けばいい」


 コウの要請に、「ご……」と羅列しそうになった口を、手で覆ってそれを防いだ。「……ぶっ」とそれを見て、またコウは笑う。だが、それも瞬時に治まり、話は続けられた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一通りの説明され、ユミの心は激しく波打つ。

 苦しさに苛まれながらも、表にそれは出さずに、


「……分かった。私やってみせる」


 コウへとはっきりとそう伝える。穏やかな表情に変化した彼は、「俺もできる限り、お前といる」と、微笑んだ。


 予想していたこと。考えればすぐに分かること。いずれはばれること。

 『赤髪』を持つ、得体の知れない客人。それをよく思わない人物が、王城の中にいる。だから、納得させるしかない。

 波打つ心をゆっくりと、深い呼吸一つで静めて、


「コウって朝食まだ?」


 自然体で朝食へとお誘いする。いつの間にか、準備している音が途絶えている。と、いうことは――トントンと、ユミの背後で、扉の奏でられた音が鳴り渡り出した。


「コウ王子、ユミ様。()()のお時間です」


 アルメリアの現在の時刻と相反する言葉に、「は、はい!」と、振り返って反応はするが、ワンテンポ遅れて今しがたそれを理解した。――朝食だと。


「これ、昼食だったらどうなるの?」


「確か、昼食は()()だったかな。――これから何回も聞くことになる。行くか」


「そうだね。どんな料理か楽しみだよ」


 それぞれ立ち上がり、客室を目指して歩み行く――といっても、振り返ればもう扉。歩み行くほど距離はない。


「足は平気か?」


「大丈夫。お陰さまで、すっかりこのとおり――わぁ!?」

「――ユミ!」


 コウへと足の心配などないと言わんばかりに、クルリと半回転。振り返って見せるが、勢い余って足がもつれる。

 ――――床へとこんにちは……。

 などという思考は、瞬く間に消えた。何故なら、駆けたコウによってユミは包容されたのだから。

 コウの全てが近い。鼓動が聞こえる。匂いがする。

 ――――近い。近い近い近い。


「ご、ごごご、ごめんコウ」


 紅潮したユミは慌てながらに、その包容から離れた。見上げることができず、目を背けていると――バシッと、頭にチョップが下された。


「な、何するの!?」


 赤いものはそれ一つで、見事に冷めた。ずきずきと軽く頭が痛む中、見上げると、コウは笑みを浮かべていた。


「謝るな。――忘れたか?」


「さっきのとは意味が違う。迷惑掛けたら謝るのが普通じゃないの?」


「真面目か、お前は! ……まぁ、そこはいい。だが、無茶だけはするな。これだけは、忘れないでくれ。いいな!」


 コウの忠告に、「わ、分かった」とまた新たな事柄を心に残す。

 迷惑掛けっぱなしという事実。これから始まる王城生活でも、それは止められないだろう。

 コウが甘える日はいつになるのやらと、ユミは包容をほどいたことを少し後悔していた。

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