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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
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一章 23夢 信頼と信用

 カイのルックスを全身に受けるユミ。それはカイも同様――それだけにユミは、ある箇所の異様な豊かさに堪えた。


 ――――ま、負けた……あ、あり得ない……。

 そのスラリとした風貌からは微塵もそうだと感じさせないのだ。その出で立ちでは、ユミよりない。

 だが、触れてみてよく分かった。サラシでも巻いてるわけではあるまいに――それは、確実にユミよりある。


「な、なんで、そんなにあるんですかぁ」


 カイを見上げたユミは、怒りを露にした。それは半ば逆ギレに近い。

 相手からすれば、何に怒られているのか分からないだろう――ユミの場違いな、嫉妬の赤。


「何となく分かるけど……それどころじゃないでしょ? ユミ……」


 冷静に対応を見せたカイだが、その目は蔑みを通り越して呆れていた。

 そんな戯れも、信頼関係を作り上げる一つになる。

 それはここから、そしてこれからに繋がる一つの楔。


「た、確かに、そうですね」


 冷静さを取り戻し、カイとの包容を解くユミ。


「ユミのことは一応、信頼する。一応だから」


 傍らに落ちた剣を納めながら、カイはその言葉を強調した――一応と。

 それもそうだろう。いきなり百パーセントの信頼など生まれない。

 それでも、


「一応でも構わない。ゼロよりは一。一つあれば、増えるんだから!」


 ユミにはその一応という濁し言葉でさえ、嬉しかった。だから、声高らかにその『一』の喜びを伝えた。

 ゼロが一。進化、進歩、発展の過程では最も大きな一歩だ。ゼロからは何も生めない。生めないからこそ、その一に向かってひた走る。

 その結果、一はカイへと、一応紡がれたのだ。


「だけど、信頼はするけど信用はしてないから」


「う、うん。それは分かってる」


 改めて向かい合う形となったユミとカイ。

 小さな信頼を勝ち得たユミだが、カイが信用するかどうかはまた別のことだ。それはユミも重々承知している。


 例えば、ある情報サイトがあったとする。そこに載せられている情報が、信用に値するかどうか。

 信用できるサイトだと思う者もいる。できない者もいる。それは、

 ――――個人の問題なのだ。


 ユミはカイを信頼、信用している。むしろ、彼女がこの世界で、その二つに当てはめられないのは、今のところ一人しかいない。それは、彼女を絶望の淵へと叩きつけた人物。


 ユミの握る情報が、限りなく百に近い信用度であったとしても、カイが信用しなければ、それはゼロになる。

 だから、根拠を示さなければならない。牢屋にコウがいると、信用させなければならない。


「コウ殿下のこと……信用できる何かがあるの?」


「残念ながら、目に見えて示せるものがありません!」


 敬礼を交えて、自信満々にその根拠のアイテムが無いことを示す。

 ユミが持っているのは記憶だけ。それも中途半端に欠けたものだ。

 絶望に打ちひしがれ、虚ろであったがために、その牢屋の正確な位置は覚えていない。それでもコウがそこにいるというのは知っている。


「……その自信は信用してあげる。――全くいらないけど」


 カイの蔑視に耐えられなくなったユミは、その敬礼を解除した。それはひどく冷たいもの――氷点下さえも超えるほど、場の空気が凍えたのを感じた。


「一つ気になったことがあるけどいい?」


「は、はい。何でしょうか?」


 蔑視のために背筋を正され、声色も真面目にならざるを得ない。


「ユミはどうして、私がコウ殿下のことで悩んでいると分かったの?」


 カイは不思議そうに投げ掛けた。だが実際、それは疑念以上に警戒している、といったところか。

 核心の一言。初対面の相手が、最も痛いところを突いたのだ。それを抱くのは当然だ。


「……」


 ユミはその答えを出せなかった。示せば自ずと、『リダイアル』の説明は必須になってしまう。突拍子もないことを信用するだろうか。今でさえも信用されていないというのに。

 しかも、都合の悪いことにその答えはカイが示したのだ。

 カイはコウの側近であり、彼との接触を禁じられているということを。


「言えないならいいよ。ただ、一人で抱え込むなって言ったのはユミだよ。忘れた?」


 そっくり言い返されて、ぐうの音もでない。

 今この状況が一人で悩んで、抱えて、足掻こうとしている。

 こうなってはもう、アツリに伏せさせた条件の一つが無駄になってしまうが、それは致し方なかった。


「忘れてないよ。ただ、こればっかりは本当に信じてもらえるか分からなかったから、伏せてたの」


 真剣な表情を作り上げ、覚悟を決める。

 一切の迷いを消し、それを告げるために視線は外さない。


「そこまでのこと……何だね」


「うん……私は『魔女』だから」


「……確かにそれは、信じられないね」


 そう冷静に綴るが、態度は違っていた。

 腰の鞘を地に置き、片ひざをついて身を低く構えた。それはまるで、立場の違いを見せる行為。


「……もし、本当に魔女様なら、これからする私の非礼をお許しください。何なりと罰は受けましょう」


「……えっ。カイ、さん。――!!」


 ユミはカイの行動を捉えきれなかった。それは、捉える前に目をつむったというほうが正しい。

 ――――恐怖から。


 あまりにも卓越した速さで鞘から剣抜き去り、ユミの首もとめがけてそれは振りかざされた。

 が、それは首もと数センチで止まる。その勢いから発生したなびきが、ユミの赤をはためかせた。


「……ハッタリだって知ってる。知ってるよ。だけど、怖いものは怖いのよ」


 試したのだろうか、ユミはそれに答えられなかった。そして起こった静寂の中、彼女は目に光を入れた。

 左側には剣の輝き。正面には真剣な表情のカイがいる。その双眸に迷いなどない。咎められても構わないという強い意思を感じる。


「何で黙ってたの?」


「……そういう関係になりたくなかった」


「そういう関係って?」


「私が魔女だって知ったらみんな、態度を変えるの。それが嫌なの。だけど、私は魔女であって魔女じゃない。ただ、魔女の証を持ってるだけ。変な誤解を与えて、ごめんなさい」


 ユミは頭を下げて、魔女という言葉の真意を説明する。


「それじゃあユミは魔女様ではないの?」


「正確にはそう……です。コウ殿下に会えば、すぐにわかります。私からは魔女の匂いがしないって、言ってたから」


「……そのことまで知ってるのね」


 声色は変わっていないが、驚きを隠せていない。ゆっくりと剣はもとの鞘へと戻っていった。

 頭を下げ続けるユミに、それを見下ろすカイ。

 暫しの静寂の中、それは突如として激動する。


「ここで何をしている、カイ」

「「――――!!」」


 淡とした声を持つ者の来訪に、二人揃って視線はその方角へと向けられた。

 ユミはそれと共に、心拍数が急上昇を見せた。その来訪者がユミの最も危惧していた人物であったのだから。

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