一章 21夢 他愛もない時間
ユミからの指名で、今回はアツリが呼びに行くことと相成った。それにはいくつか条件を付けて――。
「では、しばらくお待ち下さいユミ様。探して参ります」
アツリはそうとだけ言い残し、門を潜っていった。そして、二人っきりとなったユミとサムヤ。
門の前で立ち、その時を待つ。
「アツリさんに何て言ったの? ユミ」
突然、フレンドリーのプレゼント。コソコソとユミとアツリのやり取りが、サムヤは気になるようだ。
このフレンドリーさは、ユミから二人に対しての計らい。どちらかと言えば頼み込んだことだが――アツリはそれでも生真面目さが残り、サムヤはすぐに順応している。それが同上の発言の所以だ。
「ヒ・ミ・ツ」
「え~、アツリさんだけズルいなぁ……そうだ!」
サムヤは突如、身につけていたマントを脱ぎ出した。そして膝をつき、それをユミへと羽織らせる。
ユミとサムヤでは約十センチほどは離れているだろうか――そのために、ユミが歩けばきっと、裾が引きずられることだろう。それほど、サムヤの体格でもそのマントは丈長気味なのだ。
「……どうしたの? 急に」
「そのみすぼらしい格好じゃあ、目立ちすぎてよくない。――よしっ! これで完了」
最後の仕上げ――首もとでマントを留めて、気付けの完了。サムヤなりの粋な計らいのようだ。
ユミの見映えも、多少なりとも異世界に馴染む。今まで彼女は、ある人物も言っていたが、『家出少女』。
草木に身を隠し、藁に包まれ、荷台から飛び降りた。砂まみれ、泥まみれなのだ。水色が色褪せてしまうほどに。
ただ、隠せていない箇所がもう一ヶ所あった。
「……髪はどうしようか?」
「これはダメだ、ダメ! 流石に怒られる」
深々と帽子を押し込んでそれを阻止する構えを見せたサムヤ。
ユミもそこまで図々しくはない。少しからかったのだ。
「ふふっ、冗談だよ。――ありがとね、サムヤさん」
「――――!! へ、兵として当然のことですから」
また、そっぽを向いてしまった。
布地の温もり以上に、サムヤの心の温かさが身に染みる。芳しい香りがする。
「そ、それで、アツリさんに何て言ったの?」
「それは、秘密って言ったよね?」
「私は貸しをすぐに返して欲しいだけです、魔女様」
改まったサムヤの懇願に、まんまと一杯食わされた形となったユミ。
これでは、返さなければならない。それが魔女だ。
ニヤニヤして、今にもそれを心待にしているサムヤがいる。
「はぁ……カイさんを呼んできてって頼んだの」
そんな表情に半ば呆れながらも、ユミは条件の一つを教える。
王城での知り合いは、コウとカイしかいない。厳密にはもう一人いるが、会った時点で終わりだ。
コウがあのような状況ならば、自ずと頼れるのは一人になる。それがカイ。
ユミは城の内部構造を知らない。だからこそ、あの牢屋がどこにあるか知らない。それに、一人で動くより断然、城内での勝手が利くというもの。
「カイさんって……あの、『カイ・スミレア』殿のことですか!?」
カイの名に心当たりがあるのだろう――テンションが跳ね上がったサムヤが、ユミにズームアップ。顔が近い。
この口の軽さというのがユミの、サムヤに懸念していたところだ。ただそれは、雰囲気としかいいようがない。彼から漂うそんな雰囲気――ふいんき。
「う、うん。そうだよ」
「カイさんと言えば、あのただならぬ雰囲気がいい。冷ややかな目と声で、詰め寄られたら……堕ちちゃうよね」
「……なら、今すぐ落としてあげようか――その首を」
ユミとサムヤ。その双眸と双眸の間に、割って入ってきた銀色に光り輝く刃。
言葉の冷たさが、より一層冷え切っていたのはサムヤのせいだろ――彼だけ壁へと詰め寄られていった。それは彼が望んだことだ。きっと夢心地に違いない。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってください、カイ殿。それはないかと……仕舞っていただきたい」
――――夢心地とは程遠いようだ。
サムヤは慌てふためき、カイの行為を止めている。剣を突き付ける――その行為を。
「……話し過ぎ。その口――抑えられないの?」
「は、はい。精進しますので、お許しを……」
「……フッ。分かればいい」
サムヤを鼻で笑い、颯爽と剣を仕舞う仕草には、惚れ惚れしてしまう。金色の髪をなびかせ、彼に背を向ける。
――――勝負あり。
そんなところだろう。それは、一方的な蹂躙であった。
「はぁはぁ……た、助かったぁ」
「お待たせしましたユミ様。――何があったのでしょうか?」
遅れてきたアツリは、辺りの様子が呑み込めていない。
赤髪のみすぼらしい魔女は、衛兵のマントを羽織っている。
仲間の門番は、壁にもたれかかって尻をつく。
呼び出した人物は、颯爽と魔女へと近づく――そんな光景が、門の前で広がっている。
「……この子が私を呼んだの? 全く知らない子だけど」
「ですがユミ様は、知っているご様子です」
「ふーん。――借りるよ、この子」
「……えっ?」
カイの不思議そうなものを見る視線が、ユミを襲った。
――――その時、ユミの手を取り、門の中へと連れ進んだ。ユミは訳も分からず、それに従うしかなかった。
送り出すアツリのお辞儀と、サムヤの土下座のようなお辞儀。それだけがユミの身勝手な足とは違い、自分の意思で振り返り、その光景を見た。
「ど、どこに行くの? 話したいことがあるんですけど……」
「私もあるの。――時間は無いけど、あなたのその髪は目立ちすぎるから、場所を変えさせて」
少しずつ足早になる中、ある場所でその足は止まった。
その場所で、ユミは壁へと追いやられる。マントの裾が引っ掛かり、壁にもたれるように転けた。
「……どういうつもり?」
蔑みの目と共に、ユミの眼前には剣が向けられる。
「時間がないの。邪魔をするなら――」
「――コウ殿下のこと……じゃない?」
「――――!!」
ユミの一言に、剣先は地を着いた。それほどに、その言葉はカイの核心を突いている。
――――知ってる。知ってるから、大丈夫だよ。
「私を信じて欲しい! カイさん!」
カイとの関係修復のために、ユミは声を張ってそう要求した。




