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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
22/63

一章 21夢 他愛もない時間

 ユミからの指名で、今回はアツリが呼びに行くことと相成った。それにはいくつか条件を付けて――。


「では、しばらくお待ち下さい()()()。探して参ります」


 アツリはそうとだけ言い残し、門を潜っていった。そして、二人っきりとなったユミとサムヤ。

 門の前で立ち、その時を待つ。


「アツリさんに何て言ったの? ()()


 突然、フレンドリーのプレゼント。コソコソとユミとアツリのやり取りが、サムヤは気になるようだ。

 このフレンドリーさは、ユミから二人に対しての計らい。どちらかと言えば頼み込んだことだが――アツリはそれでも生真面目さが残り、サムヤはすぐに順応している。それが同上の発言の所以だ。


「ヒ・ミ・ツ」


「え~、アツリさんだけズルいなぁ……そうだ!」


 サムヤは突如、身につけていたマントを脱ぎ出した。そして膝をつき、それをユミへと羽織らせる。

 ユミとサムヤでは約十センチほどは離れているだろうか――そのために、ユミが歩けばきっと、裾が引きずられることだろう。それほど、サムヤの体格でもそのマントは丈長気味なのだ。


「……どうしたの? 急に」


「そのみすぼらしい格好じゃあ、目立ちすぎてよくない。――よしっ! これで完了」


 最後の仕上げ――首もとでマントを留めて、気付けの完了。サムヤなりの粋な計らいのようだ。

 ユミの見映えも、多少なりとも異世界に馴染む。今まで彼女は、ある人物も言っていたが、『家出少女』。

 草木に身を隠し、藁に包まれ、荷台から飛び降りた。砂まみれ、泥まみれなのだ。水色が色褪せてしまうほどに。

 ただ、隠せていない箇所がもう一ヶ所あった。


「……髪はどうしようか?」


「これはダメだ、ダメ! 流石に怒られる」


 深々と帽子を押し込んでそれを阻止する構えを見せたサムヤ。

 ユミもそこまで図々しくはない。少しからかったのだ。


「ふふっ、冗談だよ。――ありがとね、サムヤさん」


「――――!! へ、兵として当然のことですから」


 また、そっぽを向いてしまった。


 布地の温もり以上に、サムヤの心の温かさが身に染みる。芳しい香りがする。


「そ、それで、アツリさんに何て言ったの?」


「それは、秘密って言ったよね?」


「私は貸しをすぐに返して欲しいだけです、魔女様」


 改まったサムヤの懇願に、まんまと一杯食わされた形となったユミ。

 これでは、返さなければならない。それが魔女だ。

 ニヤニヤして、今にもそれを心待にしているサムヤがいる。


「はぁ……カイさんを呼んできてって頼んだの」


 そんな表情に半ば呆れながらも、ユミは条件の一つを教える。

 王城での知り合いは、コウとカイしかいない。厳密にはもう一人いるが、会った時点で終わりだ。

 コウがあのような状況ならば、自ずと頼れるのは一人になる。それがカイ。

 ユミは城の内部構造を知らない。だからこそ、あの牢屋がどこにあるか知らない。それに、一人で動くより断然、城内での勝手が利くというもの。


「カイさんって……あの、『カイ・スミレア』殿のことですか!?」


 カイの名に心当たりがあるのだろう――テンションが跳ね上がったサムヤが、ユミにズームアップ。顔が近い。

 この口の軽さというのがユミの、サムヤに懸念していたところだ。ただそれは、雰囲気としかいいようがない。彼から漂うそんな雰囲気――ふいんき。


「う、うん。そうだよ」


「カイさんと言えば、あのただならぬ雰囲気がいい。冷ややかな目と声で、詰め寄られたら……堕ちちゃうよね」


「……なら、今すぐ落としてあげようか――その首を」


 ユミとサムヤ。その双眸と双眸の間に、割って入ってきた銀色に光り輝く刃。

 言葉の冷たさが、より一層冷え切っていたのはサムヤのせいだろ――彼だけ壁へと詰め寄られていった。それは彼が望んだことだ。きっと夢心地に違いない。


「ちょ、ちょちょちょっと待ってください、カイ殿。それはないかと……仕舞っていただきたい」


 ――――夢心地とは程遠いようだ。

 サムヤは慌てふためき、カイの行為を止めている。剣を突き付ける――その行為を。


「……話し過ぎ。その口――抑えられないの?」


「は、はい。精進しますので、お許しを……」


「……フッ。分かればいい」


 サムヤを鼻で笑い、颯爽と剣を仕舞う仕草には、惚れ惚れしてしまう。金色の髪をなびかせ、彼に背を向ける。

 ――――勝負あり。

 そんなところだろう。それは、一方的な蹂躙であった。


「はぁはぁ……た、助かったぁ」


「お待たせしましたユミ様。――何があったのでしょうか?」


 遅れてきたアツリは、辺りの様子が呑み込めていない。

 赤髪のみすぼらしい魔女は、衛兵のマントを羽織っている。

 仲間の門番は、壁にもたれかかって尻をつく。

 呼び出した人物は、颯爽と魔女へと近づく――そんな光景が、門の前で広がっている。


「……この子が私を呼んだの? 全く知らない子だけど」


「ですがユミ様は、知っているご様子です」


「ふーん。――借りるよ、この子」


「……えっ?」


 カイの不思議そうなものを見る視線が、ユミを襲った。

 ――――その時、ユミの手を取り、門の中へと連れ進んだ。ユミは訳も分からず、それに従うしかなかった。

 送り出すアツリのお辞儀と、サムヤの土下座のようなお辞儀。それだけがユミの身勝手な足とは違い、自分の意思で振り返り、その光景を見た。


「ど、どこに行くの? 話したいことがあるんですけど……」


「私もあるの。――時間は無いけど、あなたのその髪は目立ちすぎるから、場所を変えさせて」


 少しずつ足早になる中、ある場所でその足は止まった。

 その場所で、ユミは壁へと追いやられる。マントの裾が引っ掛かり、壁にもたれるように転けた。


「……どういうつもり?」


 蔑みの目と共に、ユミの眼前には剣が向けられる。


「時間がないの。邪魔をするなら――」

「――コウ殿下のこと……じゃない?」

「――――!!」


 ユミの一言に、剣先は地を着いた。それほどに、その言葉はカイの核心を突いている。


 ――――知ってる。知ってるから、大丈夫だよ。


「私を信じて欲しい! カイさん!」


 カイとの関係修復のために、ユミは声を張ってそう要求した。

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