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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
21/63

一章 20夢 一から始める修復活動

 ユミはようやく顔見知りを発見した。

 王城――門番の二人。『アツリ・アザウェル』と『サムヤ・リリメイス』。

 ユミは内心、出会えたことにホッとしながらも、築き上げた小さな関係性が崩れているという事実は、どうしても消せない。

 何故なら、二人にとってヒイラギ・ユミは、初対面なのだから。


 息急ききらせるユミは、二人の目の前で止まった。膝に手を当て、今しがたゴールテープを切った彼女は、荒れる呼吸を整えている真っ只中。

 二人はそれを、困惑の表情を浮かべ、眺めている。


 ――――どうしていいものか……。

 そんな言葉が聞こえて来そうだ。

 それもそのはずで、突如寝巻き姿の裸足の少女が、赤髪を引っ提げてやって来たのだ。

 門番として、人として、今脳内を二つの天秤にかけているところだろう――不審者か、保護すべき者か、と。

 だが、ユミはその天秤をぶち壊せる者である。その物を持ち合わせているのだから。


「……はぁはぁ」


 未だ正常に呼吸をすることができない。しかし、ゆっくりと二人へとポケットから取り出した物を見せる。

 陽の光を反射し、光沢する指輪が一。


「はぁ……これ、はぁ……みて」


 荒らぐ隙間を練って、言葉を紡ぎ出す。差し伸ばされたそれを二人はじっくりと観察して、


「――――!!」


 一人がそれに反応を示し、姿勢を正す。その姿は先程までとは一転――衛兵の規律性と、緊張感を持った表情へと変貌を遂げていた。


「アツリさん、どうしたんですか? これはいったい……」


 皆目見当もつかないのか、もう一人はユミのそれを指差し、アツリへとそう問いかけた、

 ――――次の瞬間。


 アツリの拳が一発落とされた。

 あの時は天罰であったが、今回はそうではない。ただ、罰なのは間違いないなく、


「……うぐぐっ、な、なにするんですか!?」


 突然の暴力と痛みからか、殴られた門番は、ユミを見る視線をアツリへと向けた。

 被っている厚みある帽子は、少しへこみを見せ、そこを手当てしている。


「お前こそ、この国の衛兵としてどうなんだ。――申し訳ありません『魔女様』。『サムヤ』がとんだご無礼を……どうかお許しください」


 膝をついて謝るアツリ。その姿は忠義を誓うがこどく。

 それに遅れること数秒――頭を押さえていたサムヤもそれに倣う。だが、アツリと違い、それには震えを伴っていた。


 ――――『魔女』。

 それがこの国でどういう立ち位置なのかは、今だ定かではない。ただ、ここプラノ王国は『親魔国(しんまこく)』。魔女を信仰し、崇拝する国だ。

 もしかすると、王に匹敵していてもおかしくはない立ち位置。それだけに、今のサムヤの震えも頷ける。


 そして、その名を語り――偽る罪の重さを、ユミは身をもって体験している。


「いいの、いいの。私、全然怒ってないから。――顔を上げて」


 呼吸も元通り。半ば強制的ではあるが、二人を見下ろすこととなったユミ。

 二人へと優しく語りかけ、それを解除させようとしたが、


「し、しかし、私達は見苦しいやり取りをお見せしてしまいました……」


「そ、そうです。私は……わたしは……」


 内に秘めた生真面目さが全面に飛び出すアツリ。今にも泣き崩れてしまいそうなサムヤ。

 聞き入れてくれる素振りは無さそうだ。


「話を聞いて!!」


 突如として発せられたユミの怒号。

 それに二人の顔は釣られるように彼女へと向かう。そんな中、彼女は膝を曲げて、目線を合わせる格好を取った。


「許してあげるから、私の言うこと聞いてくれない?」


 コソコソと、二人だけに聞こえるようなトーンで話を始めた。それはいわば、小さな作戦会議。小さくまとまって、顔を向かい合わせている。そんな状況だ。


 この二人は、ユミにとって大事な人物達。曲がりなりにも名を交換した仲。ましてや、フルネームを最初に教えたのは、実を言うとアツリだ。もちらんサムヤも同様――ここで縁切り、はい、さようならでは悲しすぎる。

 そして、ユミのたどり着いた結論で、重大な鍵を握っていると言ってもいい人物達でもある。

 ――――第一王子を回避するための。


「……ん? ど、どうしたの? アツリさん、サムヤさん」


 突拍子もない言動だったのか、二人ともキョトンとした表情をしている。


「あ、い、いえ……魔女様が私達の名を……と」


「名前? 忘れるわけないよ。二人とも私の赤と繋がってるんだから――にこっ」

「「――――!!!!」」


 満面の笑みで答えたユミから、二人はそっぽを向いた。しかし、息があったかのように、二人はそれぞれの顔を確認しあった。

 ――――紅潮を遂げたその表情を。


「いたっ! またぶちましたね! なにするですか!?」


「……いや、何となく」


「酷くないですか!? 魔女様? 何となくで殴るなん……うぉっ!?」


「――魔女様に告げるな、サムヤ」


「ま、また……くぅぅ!?」


「ふふっ。やっぱり二人は見てて面白いね」


 ユミは笑った。その光景を純粋に笑った。

 ――――楽しい。

 このやり取りが、アツリとサムヤの関係を象徴するものであると、すぐに分かる。


「――ユミでいいよ。ユミ・ヒイラギ。よろしくね、アツリ・アザウェルさん。サムヤ・リリメイスさん」


「「はっ!! ユミ様!!」」


 ふざけ合いながらも、ユミから――魔女からの呼び掛けには、息ピッタリに答えを出した。


 そして、ユミの気分はやっぱりよかった。

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