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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
20/63

一章 19夢 Re:Re:夢物語

 三度目の正直。『リダイアル』したからには、選択肢はもう、


 ――――やるしかない。


 すでに、ユミは駆け出していた。

 脳がそのことを理解するよりも。

 体のこわばりが残されていようとも。

 開かれた双眸がその地の光景を――現代とは一線を画す光景であっても。

 あの人物たちがいる国――『プラノ』の王都へと。陽の出方角にある王都『ゼネリア』に、赤は駆け出していた。


 体は異様に軽く、足はその緑をダイレクトに受け、陽の光と風のなびきは、時刻と相反している。


「……やっぱり、時間は合ってないよね。そりゃそうか。当たり前よね」


 草原を駆ける中、ユミはポケットから取り出したスマホで時刻を確認した。


 ――――スマホの時刻は六時二十分。

 現代では、まだ薄暗い夜明けの時間帯のはずだ。

 しかしここ異世界では、すでに太陽が昇っており、朝をとっくに迎えている時刻と、断定できる。

 日差しが眩しく照りつけ、風もそれに伴い熱気を少し含む。


「……はぁはぁ。足いたっ」


 走ることを一時止め、思いの外蓄積した足の裏のダメージ。それでも、歩みは止めない。止める時間すら惜しい。

 服装すら、前回、前々回とはまるで違う。


 水色のパジャマ姿のユミ。よりにもよって赤が一層映える服であった。

 そして、持ち物はスマホと指輪の二つだけ。


「行くんだ! なんでか知らないけど、時間ができてる」


 パジャマの袖を捲って、気合いをいれる。そして、また走り出す。


 前回よりも、約二時間以上早く『リダイアル』している。それが現状、どういう意味なのかは知るよしもない。『リダイアル』すら意味不明なのだ。考えるだけ今は損。今やるべきこと、考えること、それは、

 ――――戦争を止める。

 それだけを胸に宿して、ユミは街道と出くわした。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 メトンはこの舗装された石畳の街道――『フェリアル街道』と、呼んでいた。

 草原に突如として現れる人工物は、王都への道を確かに繋いでくれるのだ。

 『バドラ』が数匹、それを操るは商人だろうか、荷台に荷物を積んで、街道を進み行くのが見える。


「ムリムリ! 流石にムリ! こんな格好であそこを歩くなんてムリ! あり得ないから」


 ユミはフェリアル街道と出くわすや否や、その場に伏せて、バドラの過ぎ去るのを待った。

 木一本ないのだ。起伏はあっても、目立って、目立って仕方ない。


 王都『ゼネリア』への道。

 行くこと事態は訳ないはずだが、そうだと断言できないのは、『メトン』がいないからだ。何が起こるか分からない。


 ――――状況がまるで違うのだ。

 下手な異世界人との遭遇は、タイムロスの要因になりかねない。

 それで済めばいいのだが――全員が全員、善人とは限らない。


「……はぁ、行ったみたい」


 ホッと一息ついて、フェリアル街道か離れようとした矢先――、


「おぉ! あれは!?」


 ユミから歓喜の声が自然と上がった。

 咄嗟に伏せて、ゆっくりと腹這いで街道へと近づく。少しでも距離を詰めるために。

 ゼネリア方面へとやってくるバドラの荷台には、『藁』が大量に積まれているのだ。


「あれに乗れれば……」


 藁を載せてるためか、バドラの速さを考えれば非常に低速。

 時間短縮以上に、体力の消耗を抑えられるこの上ないチャンスだ。逃すわけにはいかない。


「……よし――ゴーッ!」


 過ぎ去ったバドラと商人の死角から、ユミは飛び出した。

 草と土の温かみから、石畳の冷たい感覚が敏感に足から伝わる。アスファルトとはまた別の――ヒタヒタと、踏みしめれば、踏みしめるほど転がる小石が突き刺さる。

 ――――痛い。痛いけど……安いのよ!


 荷台の角を掴み取り、颯爽と体を藁へと飛び込む。

 縛られた藁はびくともせず、それでもユミを優しく受け入れて――異常無し。前の二人にそう告げた。告げたことすら人も魔獣も、気づきもしない。


「ふぅ~やったね。成功!」


 あとは揺られるだけ。安堵をついて、藁の中へと入り込む。

 今からゼネリアまで、約二時間の旅。


「……あとは、指輪。――よしっ! あるね」


 ポケットから指輪を取り出して、存在を確認する。

 これがないと話にならない。

 揺れが激しいのがたまに傷――、


「……うぇっ。な、なに……この……ゆれ」


 乗った早々、グロッキー状態に陥り、藁から顔を出さずにはいられなかった。外の空気を堪らなく欲してしまう。


 体験したことのない揺れがユミを襲う。車のそれとも、船のそれとも、訳が違う。上下左右に揺れ動く世界がそこにはあった。

 ――――これが約二時間も続く。


 藁の中から飛び出した赤が、まだ目立たなかったのは、藁からの少しばかりのお助けがあったからだろう――頭に藁を乗せたまま、体力は歩くよりも消耗してしまった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それはもう地獄の時であった。ただ、人とは凄いもので、眠ってしまえば耐性が多少なりともついていた。


 カタカタと揺れるバドラ車は、もうすぐ王都へと侵入を開始しようとしていた。


「お、降りないと……」


 荷台と石畳との間に少しばかり恐怖を抱きながらも、意を決して飛ぶしかなかった。

 このバドラ車がゼネリアのどこに行くか、皆目検討もつかないためだ。王都で飛び降りなんて、間違いなく目立つ。ただでさえ赤で目立つのに、拍車をかけてどうするのか。


「……せーの!」


 できるだけ身を乗り出して、尻から落ちた。足からなんてとてもとても――足が死ぬ。


「いったいなぁ!!」


 誰にぶつけるわけでもなく――ただ痛い。それだけだった。それでも、乗せてもらったバドラ車のあとを追いかけるように、走り出した。

 気力、体力共々、まだ余裕がある。まだ始まってもいないのだ。ここからが、重要。


「……待ってて、『コウ』。絶対あなたを助けてあげるから」


 覚えていないだろう約束をその手に宿し、ユミは進む。

 王都ゼネリアへと、確かに入国したのであった。


 足早に、分け目も触れずにユミは、王城の門を目指す。

 辺りの視線が痛いのは分かっている。だが、そんなことなどお構い無しにと進む。メトンに連れられた道を右に左にと、


 ――――バシッ。

 後ろから振っていた右手を不意に掴まれ、ユミの動きは止まった。


「ちょいまち、お嬢さん。そんなに急いで、どこ行くんだ?」


 青年の声色であった。そして、軽い口調なのが印象悪い。

 現状、捕まっているという事実は部が悪い。振りほどいて逃げられない。

 ユミは振り返って、その人物を見やった。捕まえられた手の感触から『亜人種』出はないのは確かだ。


「……何?」


「おっと……これは嫌われたよ――ちょい、ちょい!」


 蔑みの目で振り返ったユミに気圧されたか、手がほどかれた瞬間――ユミは走り出した。

 制止する声など無視して走った。


「……おいおい。それはないだろ?」

「――――!!」


 ユミはまたしても捕まえられた。進めた距離は僅か五十メートルほど。

 意表を突いたはずなのに、息一つ乱さず――この男の身体能力の高さが窺える。


 つり目が目を引く青年であった。

 上背はユミよりやや高く、短い黒髪は見慣れた髪色であるため、違和感はない。

 身軽そうな服装で、上着だけ腕捲りを見せ、短くまとめている。


「元気あるってことは、家出少女か何かか?」


 づかづかと土足で人の事情に付け入るラフさが危うい。それはいい意味でいい距離感。だが、悪い意味でいうと、隙を与えてしまうほど、飄々としている。


「そうだとしたら? 養ってくれるの?」


 冗談混じりにユミは強気に打って出たが、冷や汗を一つかかされた。

 向かい合いながらも、腕が外せない。完全に力負けしている。細身ながらも、やはり男ということか。

 絡んできたということは、つまり――。


「いいね、あんた。いいところ紹介してやるよ」


「あいにくだけど、もう間に合ってるよ」


「なら、断れ。傷つけたくはないんでね。――そこの路地までゆっくり行け」


 首もとに、ひんやりとする鋭利な刃物が突きつけられる。これ以上の冗談は通じないとの警告だろうか――路地行ったら最後、終わりだ。

 ユミは一つ唾を飲み込んで、ゆっくりと後ろ向きに歩きながらに、


「きゃあああ!! 衛兵さん、助けてー!!」


 甲高い声をその場に轟かせた。

 尻目に衛兵の姿を捉えたためだ。


「……ちっ、肝据わってるとかと思えば、ここまでやるか!?」


「人さらいに同情する価値なんてない!」


 注意を奪われた人物の腕をほどき、少し距離を取る。

 駆けつけている衛兵の足音がするために、逃げなくてもいいと判断したためだ。


「その赤髪、忘れないからな!」


 捨て台詞を吐いて、その人物は身軽にその場から路地へと消えていった。


「……はぁ。助かった……」


 胸を撫で下ろし、一息つく。

 変なイベントであったが、予習のお陰で何とか切り抜けられた。


 時刻は八時半。それなのに太陽は、もう頂点に達していてもおかしくないくらいに――ユミの頭上で、その光景を嘲笑う。

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