表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
16/63

一章 15夢 最後の欠片

 シギリと似ても似つかない。

 髪色、双眸、その他――そのほとんどが、どこかシギリを彷彿とさせるものがあるが、まるで違う。

 ――――笑顔が似合う。

 そんな第一印象を抱くほど、清爽なる青年であった。


 軽装な服が汚れているのはきっとこの部屋のせいだろう。それでも、やんちゃな一面とそれは捉えられる。

 匂いでさえ、この現状では優雅とは言いがたいが、どこか落ち着くものがある。


 そこに淡とした冷徹さはない。あるのは温もり。

 親身になって、ユミへと接するのその態度に向かって、


 ――――バチン。

 と、静寂の薄暗い闇の中に一閃が走る。それはユミから飛び出したものであった。

 嫌悪からではない。それだけは断じて違う。ただ、ユミにとって、その人物は、とてもとても――待ちに待ち焦がれた人物であったのは確かで、それだけに、その人物へと与えた第一印象は、最悪と捉えられてもおかしくはない。

 その覚悟以上に、ある感情があった。


「……おぉ、いって~」


 唐突な一閃を受け、バランスを崩して尻餅をつくコウ。頬を擦りながら、何が起こったのか――現実に着手している様子。


 ユミを襲った鈍い痛みは先程と同様。だが、それに高揚感はなく――。

 ただ、


「……はぁはぁ。やっと……見つけた。――バカ王子」


 今できる精一杯の無愛想な対応と、紡ぎだした言葉の凄みをお見舞いする。

 それでも、それには覇気などまったくといっていいほど、備わってはいなかった。

 涙をぬぐい去りながら、二本の足で立ってコウを見下ろす。


 あったのは、そう――やっと会えたという、『安堵感』。

 そして、思い描いていた通りの人物という、『安心感』だった。


 一人、異世界で孤独感を味わわされ、頼る術を無くし、力を失くしたユミは牢へと繋がれた。

 そんなユミにひとときでも、安らぎを与えたのは、同じ牢に入っていた一人の青年である。

 しかし、ユミはその行為を蔑ろにし、その人物を今や見下ろしている。


「……やってくれたな、赤髪」


 当然の報いといわんばかりに、今度はコウから発せられた凄みに当てられるユミ。軽やかに立ち上がったコウに、ユミは壁際へと追いやるように詰め寄られた。

 壁を震わす音。逃げ道を封じられた前後の壁。手の柵。

 先程、シギリにやられたことの再来であるが、今度のユミは目を開いてコウを見上げていた。

 そこにあったのはシギリと違い、温もりがあることをその表情が伝えてくれたためだった。


「……何があった? 泣くなんて、よっぽどのことだぞ」


 その優しい問いかけと、にこやかな表情に、ユミは抑えていたものが止まらなくなり、ただただ慟哭する。


「……ばかぁ。ばかばかばかばか……」


 そして、懐へと忍び込み、罵詈雑言と暴力をお見舞いする。

 それでもコウはびくともしない。何度も――何度も――それらを浴びせられても、


「あぁ、俺はバカだよ。大バカだ。――だから、こうしてやることしかできない。わるい」


 自分を卑下して包容で返した。ユミの闇を全て包み込むコウがいる。


 ――――八つ当たりだって分かってる。分かっているのに、歯止めが聞かない。止まらない。

 負わされた傷の深さに比例し、薄暗い闇の中でユミの慟哭は今だ続く。

 赤髪の彼女――ユミを、コウは黙って受け入れていた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「……っ、ご、ごめん。私……」


 落ち着きを取り戻し、状況判断を行った結果――突き放すという選択肢をユミは自然と行った。目を合わせられずにうつむく。

 頬が紅潮し、無様にも泣きついたという事実を、思い返せば思い返すだけ、その赤は髪をも越える。


「い、いや、いい。そういうときもあるだろ」


 頬を掻きながら、コウもまた目を背ける。

 しばし、静寂がその場を支配する。


「と、とりあえず――何があった? それと合わせて、外の状況も知りたいんだが……」


「う、うん。――――」


 ユミは起こったことを事細かに説明した。会談のこと。決裂したこと。魔女のこと。そして、シギリとのことも――。だが、『リダイアル』のことだけは話さなかった。話しても、意味がないためだ。

 余計な情報の提示は、混乱を招くだけだからだ。


「――なるほどな。はぁ、くそ兄さんめ」


 お互いに牢屋の床へと座っている。ユミは正座で、コウはあぐらをかいて――汚い言葉で罵るが、コウはうなだれて頭を掻きむしる。

 それは、己の未熟さを悔いての行為だというのが見てとれる。


「あと……すまない。ユミを傷つけた兄に変わって俺から謝る。――本当にすまない」


「いや、いいの。私が……悪いから」


 今度は、両ひざへと手をついて頭を垂れるコウ。

 慌ててその行為を止めさせるが、ユミの声はか細くなっていた。

 シギリが脳裏を過る度に、胸を締め付けられてしまい、苦しい。その行為をどこか望んでいたユミが少なからずいる。


「……私が、魔女だって偽ったことが原因だし……コウが謝る必要なんてないよ」


 だが、それでもコウにそれをさせる所以などない。

 その行為を否定し、自分の非を認めるユミ。


「まぁ、確かにそうだが……ユミも、そこまでして身体張って、兄さんに何を進言したかったんだ?」


「……戦争を止めて欲しいって。でも、聞く耳なんてなかった」


 ――――何も出来なかった。

 その心情と、押し寄せてくる歯痒さに、涙は再び溢れてきそうになる。


「そうか……だけど、改めて言う――ユミ、本当にすまない」


 コウは再び、頭を垂れた。「え?」と、ユミは渾身のハテナが飛び出す。


「……俺がこんなことになってなければ、ユミに辛い思いをさせずに済んだ。今の俺はこんなことでしか罪を償えない。俺の不甲斐なさを笑ってくれ」


 真剣なコウがそこにはいる。先程見せたものとは少し意味合いが違う。

 どちらにもこもってはいるが、『誠意』の度合いが違うのだ。

 そんなコウの誠意を受け取らないわけにもいかずに、それをしっかりと受け取った。

 だが、


「……笑え、ないよ。だって、コウは悪くないんだもん。私が選んだの……わたしが。わたしがじぶんでそうしたいって……でも、けっきょくできなくて……コウにあたって、なきわめいて――わらわれるのはわたしのほうだよ……」


 コウの要望に、応えることはできなかった。


 ――――戦争を止める。

 そう、『リダイアル』した後にあった数ある選択肢。その中からそれを選んだのは、紛れもなくユミ自身だ。コウのせいではない。


 紡ぎ出せば、紡ぎ出すだけ、感情の抑えが利かずに零れ落ちる。

 何度拭ってもそれは止めどなく――くしゃくしゃになった表情など、見せられない。


「笑わなくてもいい。だけど、泣かないでくれ」


 コウの手がユミの赤髪に乗せられ、ゆっくりと撫で上げる。不意の出来事に、くしゃくしゃのままにその表情は上がってしまう。


「あっはっはは。顔まで赤いぞユミ、アハハハ」


 いっそ清々しいほどに笑い声を上げるコウに、ユミの涙は止まった。

 釣られるように――少しずつ笑えた。笑えたのだ。


「おっ! ――そっち顔の方がユミには似合ってるよ」


 爽やかに綴られた雑じり気のない言葉に、ユミの顔は別の意味で紅潮し出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ