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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
14/63

一章 13夢 進言地

 門をくぐり、城内――そして、一つの部屋へとユミは通された。


 白を基調とした、シンプルな部屋が現れた。

 中心を陣取る、一つの丸いテーブル。それを囲むように四脚のイスが独立して置かれている。

 半楕円形の窓ガラスが等間隔に三つ。そのお陰か、壁に飾られた燭台は今、必要なさそうだ。

 そして、この部屋には普段ないであろう――一人の衛兵が部屋の片隅にいる。ユミが入るや否や、すぐに頭を下げたあたり、魔女だと認識されているのは確かだ。


 謁見の間――というより、控室のような。そんな印象をユミに与えた。


 カイは何も発することなく、一つのイスに座るように促す。間取りからいうと上座に当たるそのイス。一つしかない部屋の出入り口を正面に見るイスだ。


 ユミはただ促されるままに、そのイスへと腰かけた。上座、下座のマナーなどユミの頭には皆無。考えたこともない。


「暫しお寛ぎを。ただいま『殿下』をお呼び致します」


「……えっ」


 ユミは驚愕のまま、そのイスから立ち上がり、部屋を出ようとするカイへと、


「――ちょっと待って、カ……」


 呼び止めようと、カイを名前を呼ぼうとした矢先――カイは振り向いて、人差し指を口元で立てた。

 ユミに見えるか、見えるか――そんなギリギリを攻めた『話すな』のポーズ。

 そしてそれを瞬時に解いたカイの双眸が、部屋の端にいる一人の衛兵に向いて、


「では、失礼致します」


 と、その視線さえも瞬時にユミへと戻し、その言葉だけを言い残して部屋を後にした。

 瞬く間の攻防にユミは、「察して」というそんなカイの要望を受け取った気がした。

 ――――どういう意味なのか。

 そんな思考の中、イスへと舞い戻る。


「くれぐれもお部屋からはお出になりませんように、お願い致します魔女様。――では」


 その衛兵もカイに続いて部屋を出た。

 カイの動作を一連にヒモ付けにすると、考えられるのは『見張られている』だ。しかし、それにしては衛兵の『後をつける』行動は、実行するにしては速いタイミングであったために、それはないと判断する。


 ――――部屋の外で別の衛兵がそれらを行っているのなら、話は別だが。


 衛兵に念押しされたがために、ユミはこの部屋を出れない。出来ることといえば、せいぜい部屋から外の様子を窺い知ることぐらいだろう。

 イスから立ち上がり、扉の向こう側に耳を澄ませる。聞こえてくるのは、衛兵の呼吸の音だけだ。

 ――――二人の。


「って! 私なんでこんなことしてるんだろう」


 自分自身の不可解な行動に突っ込むユミ。

 カイのことは気になるが、実際問題出来ることは無い。そもそもカイの同行を探るために城に来たのではない。


 ――――伝書を渡して、戦争について問いただす。

 それがユミの――自分自身で決めた、この世界で成すことの一つだ。

 カイ自身も動いているはずと信じて。


「カイさんとは初対面ってことにした方がいいのかな?」


 部屋をうろうと徘徊する中、最終的に至る思考に足は止まった。

 ほんの数時間前に知り合ったとはいえだ――会話どころか、目すら合わせてはくれなかった。合ったのは先程のやり取りの時だけ。


「そういえば、カイさん……殿下って言ってたっけ。『コウ』が見つかったってことかな?」


 殿下と聞いて思い出されるのは、『コウ』と『ノイ』だ。

 プラノはノイの国ではない。となると必然的にコウということになる。


「……これは、そうね――囚われのお姫様……なんて。あはは」


 妄想は膨らむ。

 城の一室。今や格子に見える窓から、外の庭園の景色を羨ましく望むユミがいる。助けを求める赤髪の少女。雰囲気は最高である。


 言ってしまえばコウは、ようやく登場する『メインヒロイン』だ。

 謁見する心もどこかゆとりを持って迎えられそうだったが、


「……でも、これから戦争が始まるなんて――そんな事知らないくらい、あり得ないほど落ち着いてるのよねぇ」


 それでも、気持ちはふと現実へと引き戻される。

 王都の住人。城の門番。城の衛兵。日常な風景なのを感じるほど、そこに非日常は生まれていない。


 ――――伝書をまだ渡していないから。

 というのもあるがしれないが、曲がりなりにも戦争を吹っ掛けた国。それにしては妙に静寂。

 城内でもそれは顕著で、衛兵とはすれ違うどころか、部屋にいた衛兵との接触が、最初の遭遇であった。


 ――――トントン。

 静寂を覆すほど、大きいようで小さなノックの音がこだまする。

 ユミの返事を待たずして、開かれた扉に否が応でも視線は注がれる。


 ――――目を見張るような青年であった。

 端正な顔立ちで、碧眼を有する双眸。白金に近い髪。

 そのすらりとした長身を一瞥しただけで、その凛々しい風貌に当てられる。

 仕立てられた白が特徴の服装。襟が立てられており、その気高さを一層にも増して引き立てる。


「はじめまして、魔女様」


 その淡とした声色で、ユミの心のゆとりなど刹那に消えた。

 跳ね上がるように、心拍が急上昇。極度の緊張感に体が固まった。

 たった一言。それだけで、『違い』を決定付ける何かがあった。


「どうしましたか。こんな青二才のわたしにまさか、緊張でも? そうだとしたら、私もこの国の『第一王子』として、魔女様の御眼鏡に適ったという、自慢話が一つできましたよ。はっはは」


 ユミの様子を窺った双眸は、言葉と反して温かみはない。謙遜の言葉などではない。断じて違う。

 子馬鹿にしたものであると、ユミは受け取った。ユミ自身がその『違い』を知り得ているのだから、第一王子はそれ以上に


「さ、どうぞ。お掛けください」


「……っ、ええ、そうね」


 それでも下った言葉遣いなのは、とりあえずの体裁のためであろう。曲がりなりにも『親魔国』の王子なのだから。


 優しく促された言葉に、精一杯の抵抗とばかりに強がりを見せることしか、今のユミはできなかった。


 ――――憐れでしかない。

 目を奪われ――心を掴まれ――体を弄ばれた。それほどに、対する相手が大きすぎる。

 だが、


「……お茶の一つもないの?」


 ユミとしても、引くに引けない事情がある。上座のイスに腰掛けるや否や、不愛想な態度でそう問いかける。――一瞬面食らったような第一王子の表情が垣間見えたが、それは引き戻され、


「はははは。なかなかに面白い魔女様だ。――おいっ!」


 下座に腰かけている第一王子の笑い声が鳴り渡った。そして、引き戻した淡とした声が扉へと投げ掛けられる。

 ノックの音に、「失礼致します」と、一人の女中メイドが、ティーセットを持って入ってきた。

 お茶の滴り落ちる音が、一先ずの休戦を意味している。

 五分と五分といったところだが、ユミはそんな気など微塵もない。


 ――――先手を取られた。

 それだけで負けている。見ただけで、声を聞いただけで、竦み上がったという事実。


 歯痒い思いの中、膝の手を強く握りしめてユミは、お茶の音がいつまでも続くように願った。が、それは叶わず、女中は部屋を出ていく。

 そしてまた、二人だけの空間となる。


「では、メトン殿からの伝書というのを受け取ろうか」


「これは、王に……」


「王は体調が優れない。そのため、今は未熟ながら私が王の代理を努めている。――それでも、我が父にそれをお渡しになりたいのであれば、後日。また改めて、訪ねていただきたい」


 徐に第一王子はイスから立ち上がった。


「ま、待って!」


 ユミも立ち上がり、この場から去ろうとする第一王子を一時食い止めた。

 今、この場から第一王子を帰したら、強制的にユミも帰される。

 伝書を渡し損ねた挙げ句、王都へとほっぽり出される。それだけは避けるべき事柄だ。

 その後日まで、ユミが城に入れる機会はないといってもいい――もとい、この異世界で、その時まで生きていける保証など、どこにもない。

 赤髪が多少なりとも知れ渡ってしまっているのだから。


「……分かった。あなたにお渡しします」


「――賢明なご判断で。確かに受け取りましたよ、魔女様」


 ユミは不服ながら、その伝書を第一王子へと差し出す。


 ――――してやられている。

 第一王子の言葉からもそれは読み取れる。

 切れ者。付け入る隙が全くない。それどころか、ユミは付け入られているのが現状。


 第一王子はそれを受けとると、イスへと再び腰かける。

 だが、中身を確認することなく、その伝書はテーブルの上へと乱雑に投げ捨てられた。


「これでお互いに、大事な用は片付いたはず。ここからは、王と魔女。そんな肩書きなど捨てて、少し話しませんか?」


 足を組み、立ち上がっているユミを見上げる。

 これもまた、断ることのできない一つだ。


 何もかもが相手のペースで進んでいることに、ユミは深呼吸を一つして、


「あなた……いったい何者なの? コウじゃないでしょ」


 はっきりといい放った。

 ユミの想像と、これまでの人達との会話から想像するコウの人物像とは、あまりにもかけ離れすぎている。


「はははは。私とあの『実弟』を間違えないで欲しい」


「じ、実弟!? ……ってことは、まさか!?」


「『第二王子』――『コウ・ゼネリア・プラノ』は、私――『シギリ・ゼネリア・プラノ』と、血を分けた兄弟だ」


「……ええっ!! コ、コウの、お兄さんってこと!?」


 ユミの驚愕の姿になのか、その単語になのか、それはシギリにしか分からない。ただ、シギリの笑い声が、その部屋に響き渡っていたのは確かであった。

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