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夢戻リダイアル  作者: やまは
夢と現実の一日
12/63

一章 11夢 夢の王都

 きっかり二時間後。王都ゼネリアは姿を表した。


 石畳で舗装され、その縫い目であみだくじでも出来そうなほど、造りは精巧ではない。それでもそれは味ともいえる。アスファルトとはまた別の意味での舗装といえるためだ。

 建物一つ一つが現代日本とは駆け離れており、どちらかといえば西洋風。

 そんな中でも人目につくのはやはり王城であろう。全てを見下ろすほどにそれは高位。

 そんな王都を駆けるのは、ウマゴンこと『バドラ』。何匹ものバドラの列は圧巻だ。砂埃を上げながら、規則正しく大通りを駆ける。


「さすが異世界……ファンタジーって感じね」


「では、ユミ殿。私はこの辺で」


 そんな王都の光景に見とれるユミに、別れのイベントが発生した。


「ま、待って。せめて、城の前まではお願いしたいんだけど……リスクは避けたいのよ」


 辺りを一見し、フードを深々と改めて押し下げ懇願する。

 王都へ入場する前から、ユミはフードを被っていた。それはユミなりの防衛策。

 それでも隠しきれないものには、好奇の眼差しが向けられている。

 珍妙さでいえば、この場の二人に勝るものはない。それでもメトンは気にする素振りなどまるでない。


 ――――だからこその、リスクは避けたい発言。

 メトンのその屈強さに手を出す輩などいるはずもなく――狙われる可能性で言えば、ユミの方が高確率。

 少なからずそういう輩との接触は避けたいもので――一人になればますます危険なのだ。


「すぐそこなのですが……まぁいいでしょう」


「ありがと~メトンさ~ん」


 気落ちしていたユミの心は、棲みきった異世界の青空のように晴れて、感謝の言葉を口にした。本当は抱きつきたいほど嬉しい回答であったが、流石にそれは自重し、感激の声と表情でそれを表現した。


「では、着いてきてくださいユミ殿」


「は~い」


 その屈強な背中を前に、ユミは王都の風景を堪能しながらに思う。


「……染めればよかったかな」


 今や、ユミの持ち物はスマホとハンカチとポケットティッシュと指輪。ポケットに収まる類いのものだけになっている。

 少しでもその珍妙さを消すためにと、世にも珍しい白いレジ袋と共に、お買い上げの品々は、街道沿いの木の下に埋めた。

 役には立たないと判断したためでもあり、手荷物になっていたのもあったためだ。

 だが実際は、赤髪の方が珍しいというのが現実。辺りの『人』や『亜人』とは、ユミの髪色はだいぶ駆け離れている。

 青や緑や金色。ましてや黒まで――しかし、赤はどこを取ってもいなかった。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――王城の門が姿を表した。

 見るからに門番なのだろう――二人の男性が、遠目にもそこにいるのが分かる。

 閑静としていて――暇そうなのが見て取れる。

 ――――あ、今あくびした。


「今度こそ、ここでお別れですな。お気をつけてユミ殿」


「う、うん……ありがとメトンさん」


「そう身構えなくとも大丈夫ですぞ。――その伝書を持っているうちならば」


 優しく緊張をほぐしたかと思えば、付け加えたかのような条件に、ユミはさらにも増して緊張する。


 ――――じゃあ伝書を渡したら。

 なんて、怖くてユミは聞けなかった。

 曲がりなりにも王へと渡す伝書。魔女の何かしらの力で守られているのだろう。そう解釈するしか――それを絶ったユミに方法はない。


「王に私のことはくれぐれもよろしくと、お伝えください。――それでは、またお会いしましょう魔女ユミ殿」


 悠然と去っていくメトンの背中に小さく手を振りながら、ユミは気持ちを切り替えて、門へと進み出した。


 まず、門は開かれていない。それに伴い、門番もとい衛兵との接触は免れない。堂々と通過、とはいかないようだ。

 城の回りを囲う城壁――とまではいかないが、侵入者防止策は徹底され、格子は人の何倍もの高さで張り巡らされている。その先端は鋭く尖っており、刺さったのなら、出血は免れない。


「……本当に行けるのかな?」


 進む度、だんだんと不安は募る。それに合わせて、うつむく姿勢となって行くユミ。

 たった紙切れ一つで身分すらないユミが、一国の王との謁見とはあまりにも話が上手すぎる。

 メトンを信用していないわけではない。それでもつきまとうものはどうしてもあるもので――。


「どういったご用件でしょう」


 不意を突かれてユミの足は思わず止まる。

 ユミの見上げた先――それはすでに、二人の衛兵がこちらを認識するほどの、距離であった。


「身分証はお持ちで?」


 ユミから見て、左側の衛兵がそれとなく問い質してきた。


 二人とも同一の格好なのは、衛兵としての制服なのだろう。

 厚みのある帽子には、まるでカーテンのように、顔以外の頭部を覆い隠す布地を伴っている。

 軽装な水色と黒の制服。その上に厚着のマントを羽織る。胸元でしっかりと止められており、背中からくるぶし辺りまでのロングタイプ。

 一目で衛兵だと認識できるほど、シンプルながらも、特徴的な風貌であった。

 王都の入り口――その他、見回りの人物も同じ格好をしていたのを思い出す。


 衛兵としてはまず真っ先に聞くことなのだろう――それは、ユミにとって後にも先にも答えられない問いであった。


 ――――持ち合わせていないのだから。


「え? み、身分証……ですか?」


 当然ながら知らない――とは言えないわけで、知った風な口調で、ユミは道化を演じさせられる。


 あたふた身をひっぺがすように探すも当然、あるわけない。


「あはは……忘れちゃったみたい……です」


「……では、お引き取りを。身分の分からない方を城にお通しすることは出来ませんので」


 呆れ果てた口調で後ろの帰り道を差し出した左の衛兵。

 何もされないというのは、この衛兵の器量の大きさなのか、ユミのような変人がたくさん来るからなのか、それは衛兵になって見ないと分からない。


「それじゃあ……どうも」


 本当はこのままそそくさと逃げ出したいが、そうもいかない。不審者だと思われたのは確かで、ゆっくりとユミは振り返った。徐に考えを巡らせ、歩幅を小さく歩む途中、


「ちょっと待った、お嬢ちゃん。その頭の布地を取って顔を見せてくださいよ。――『アツリ』さんも、さっさと追い払ってどうするんですか。怪しすぎるでしょ、あの格好。それに――」


 間髪いれず、詰め寄ってきた右の衛兵に、ユミのフードは掴まれた。


「ちょ、ちょっと、なにするのよ!? 助けて、兵士さん」


 咄嗟に身を守ろうと、その取った手を握り返し、抵抗を見せるユミ。力を込めて精一杯の抵抗を見せるが、相手はびくともせず、


「俺が兵士だ。残念だが、助けられない。それにな、見えたんだよ。その下の髪色が――」


 綴られた言葉の意味を理解し、ユミは恐怖を覚え、表情は強ばりを見せ出した。


 その光景はただ、男と女の力比べに他ならない。男の力に任せた強硬は、女にとって厳しいものであった。

 ユミの抵抗虚しく、そのフードは捲られ赤を露呈させられる。


「……っ、いたた」


 その際に生じた反動により、ユミは石畳へと尻餅をつかされた。


「――やっぱ、赤だったか。そんな物珍しいお嬢ちゃんが城に何のよう……」


 恐怖におののく中、その言葉にハッとしたユミの見上げた先――襲っていた衛兵の表情が苦痛に歪んでいた。それは、厚みある帽子までもがそうであったのだ。

 言ってしまえばそう――裁きの一撃が下ったのだ。


「いたっ! なにするんですか!?」


「助けてって言われたから助けた。俺も兵士だからな」


 下したのは、傍観していたもう一人の衛兵だ。

 衛兵の傍らにある武器。それは『槍』と呼べるものである。

 人の背よりわずかに長いその槍の矛先が、振り落とされて、ユミを襲った衛兵に見事命中。それが真相だ。


「だからって……うおぉ!?」


「いちいち騒ぎを起こすな『サムヤ』」


 戒めるのような二発目の裁きにより、その衛兵はその場に頭を抱えてうずくまった。


「去るものは追わなくていい。それに相手は女性だ。兵として恥ずかしいとは思わんのか?」


「……は、はい。すみませんでした」


 諭すような『アツリ』の言葉に、反省したのかユミへと頭を下げて謝る『サムヤ』。

 その関係は、まるで上司と部下といったところか。気だるげな上司と、真面目な部下。そんなところだろう。


「お嬢さん、お怪我は?」


「は、はい。大丈夫です……一応は」


 助けられたことに一応の感謝を述べるが、心拍はまだ収まらない。

 一人で立ち上がったが、もう立ち直れないほどに、このまま引き下がれなくなってしまった。

 衛兵とのやり取りは、特に問題視されることはないのだろう――民のやり取りは日常と変わりない。ただ、ユミの赤を露呈させられてからは、民のざわめきの声が一層にも増してユミの耳に伝わってきたのだ。


 ――――どうしよう……どうしよう。

 焦る気持ちと、恐怖の感情に冷静な思考など今は皆無。

 ――――身分。身分。と考えれば考えればほど、ある一つが頭を支配した。


「魔女……」


 小さく呟いたユミの言葉に、衛兵の目付きが変わった。アツリの槍の矛先がユミの喉笛に突きつけられる寸前で止まり、遅れること数秒。サムヤの槍もそれに倣った。

 また別の意味の恐怖でユミは支配され始めた。それは、

 ――――『死』の恐怖だ。


「その言葉……この国でどれだけの意味を持っているのか知ってての発言か?」


「冗談では済みません。返答次第では、死んでもらいます」


 二人の衛兵の態度は、先程までとまるで違う。

 魔女と名乗りを上げてしまったがために陥った状況。忠告の言葉を無視した結果ではあるが、こうなってしまってはもう、とことんやるしかない。


「……わ、たしは、魔女『メトン・ジャルバ』から王へと伝書を預かってるの」


 一つ一つ丁寧に言葉を紡ぎだし、伝書をゆっくりと体から取り出して、差し出す。

 アツリは槍を傍らに立て置き、ユミのそれを取り上げて見せつけながらに、


「もし仮に、この伝書が『メトン様』直々のものであっても、我々では確認できない――その意味ぐらい、分かりますよね?」


 アツリの言葉に、ユミはただ頷くしかなかった。

 それが封書であるが故に、開封済みというのはその中の効力を無くす。流石にその事もユミは知ってはいるが――示すには開くしかないのは確かで、それ以外の方法が、


「……これ、じゃあ……ダメ?」


 一つだけあった。


 突きつけられている矛が一つ、減ってはいるがそれでも恐怖は終わらない。

 ユミが徐に取り出したもの――――そう、指輪だった。


 サムヤは指輪を取り、それをアツリへと渡す。アツリが隈無く確認する中、見つけた何かに血相を変えて、


「こ、この方は『魔女様』である。サムヤ、槍を戻せ」


「え? どういう……」


「いいから、頭を下げろ!!」


 サムヤの頭を掴み、二人揃って頭を下げ始めた。サムヤは半ば強制的であったが――それは見違えるほど急変した態度であった。


 魔女という存在が、この国ではまた別の意味を持ち合わせているのだと、ユミは思った。

 頭を垂れる二人の衛兵からの完全に脅威は去り、ユミは一先ず、フードを被り、一息呼吸を整えた。

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