二幕 8話「副軍長」
女かと思った。そう思えるほど、その兵士は細く小柄だった。そのことを気にしているのか、男らしくこんがりと焼けた肌を、茶色いこの国の軍服なるものからこれでもかと言うほど見せびらかしている。その焼けた肌が、手に持ったランプにぼんやりと照らされていた。
「賊が捕まったと聞いてな」
そう言いながら、男は薄暗い牢屋の中を睥睨した。細く小さな目が、タケルたちを舐めるように見る。小さな舌先で、分厚い唇を舐め回すと、いやらしく細い声を出した。
「少年とは聞いていたが、これは中々可愛らしいではないか。あの小娘より随分いい」
その視線は、明らかにサトシに向いていた。ランプの灯りが、気持ちそちらに向いている。吐き捨てるような表情で、サトシは視線を反らした。それを良く思わなかったのか、男は強く鉄の柵を蹴りつけた。
「あまり偉そうな態度を取るなよ‥‥ 俺は、キグヌスみたいに優しくない、いつでもお前を好きにできるんだからな」
ムッとした表情は、すぐに柔らかく破顔した。ふふふ、と笑みを声に出しながら、気味悪く男は目でサトシ撫でる。好きにできるという言葉は、殺す以外のひどく恐ろしいものに聞こえた。
衝撃で揺れたランプが、ぶらりぶらりとオレンジの灯りを壁に走らせている。それをタケルは無意識に追いかけた。
「貴様は、誰だ?」
臆さないのは、アルの悪い癖かもしれない。と、タケルはこの時、初めて気がついた。話す鳥に、少しは驚いたようだったのだが、フェートンはそれでも平静と返す。
「俺の顔を知らないのか? ‥‥ 副軍長のフェートンだ。覚えておいたほうが良い」
「なるほど、覚えておこう。女のような見てくれの副軍長様‥‥」
「貴様‥‥!」
ガシャン、と鉄柵が激しい音を立てた。フェートンの拳が、激しく柵を叩いたのだ。逆なでしていると分かっているにもかかわらず、アルは白々しく目を細めたまま、じっとフェートンを睨む。
「無礼な鳥だぁぁ!」
フェートンは、声を荒げた。柵を握った手に力が込められる。錆びた薄い鉄が、剥がれ落ちた。
「大きな声を出すな、耳に響くであろう」
「聞こえないように潰してやろうか?」
ランプの灯りが、眉尻辺りに浮き出た静脈を照らす。今にも切れてしまいそうなほど、興奮したフェートンの後ろに二人の兵士が現れた。
「フェートン様‥‥」
「何だぁぁ!」
勢いよく振り返ったフェートンに、尻込みする兵士は、深く頭を下げながら言った。
「例の段取りが整いました‥‥。すぐにでもお連れ出来ます」
「‥‥そうか。はぁはぁ。それで、誰が相手をするんだ?」
肩で息をして急に、彼は落ち着きを取り戻す。それと同時に、フェートンの声は穏やかになった。
「キグヌス様が、直々になされるそうです」
「あいつがか? おいおい、ヌルい見世物は誰も望んじゃないぞ」
「しかし、御本人様が希望した、とお聞きしました」
「自ら勧んでか‥‥。珍しい。だが、それなら少しは見れることをしてくれるだろう」
そう言うと、フェートンの口端がぐっと上がるのが横目に見えた。フェートンは、兵士から鍵を受け取ると、鉄柵を開いた。
「ほら立て」
「フェートン様、我々がお連れいたします」
「いや、こいつは俺が連れて行こう」
フェートンは、サトシの腕の縄を掴むと、ぐっとサトシの身体を引き上げ、無理やり立ち上がらせた。小柄なフェートンの顎先ほどにサトシの頭が上がる。少し屈んだフェートンは、その細い舌先で、サトシの頬をぺろりと舐めた。
「汚れていたぞ、ハハハ」
胸元に抱きかかえるように、サトシを自分の方に寄せる。サトシの青色のマントが、地面を擦った。小鼻を額に当てると深く息を吸い込む。ご機嫌な笑い声が、冷たく狭い廊に響いた。
サトシは、目にぐっとシワを寄せたまま、フェートンを睨みつける。
「さぁ、お前もだ。立て」
奥から兵士の腕が伸びてきて、タケルの腕を掴んだ。無理あり立ち上がらされて、廊の外へと引きずり出される。
「どこに連れていくんだよ」
「すぐに分かるさ」
タケルの方を、振り返りながらフェートンが答えた。狭い階段を無理やり上がらされる。振り返ると、アルはもう一人の兵士に鷲掴みにされていた。
次回は水曜日の19時頃更新予定です!よろしくお願いします!




