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獣と英雄のイクノス  作者: 樫谷 和樹
第一章 暖かさの欠片
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第一章 幕間




 そこは酷く暗く、日の光が届かず辺りを照らしているのは松明の火しかない、しかしその松明に照らされている付近の内装だけを見れば、さながら宮殿のような場所だった。その空間は暗いせいでどこまで広がっているのかわからない程広く、同じく天井も見上げてもそこには闇しか広がっていない。


 しかし、唯一その暗さに飲み込まれず異彩を放っているものが二つ存在している。


 一つは木製の円卓と等間隔で置かれている九つの椅子、そしてその奥に小さい段差があり、上った先に武骨で無駄な装飾は一切ない玉座があった。


 そしてどちらも席を埋めるのに必要な要素、人がそこにはいなかった。空白の円卓と玉座、しかしそこに近づいていくものが一人、軽快な足取りで近づいていく。

 

 「まったく、今日も誰もいないのですか……」


 声音はまだ若い男の物で黒のローブに身を包み、頭にはフードが被せられている。相貌は窺えないが、わずかにのぞき見える唇はまるで死人のように血色が通っていないと分かるほど青白い。その男は円卓に近づき、一つの席の前に立ち、円卓へ手を置いた。


 「ストリーゴがやられました」


 一言、言葉を発すると誰も座っていなかったはずの席に黒い炎が灯る。その内、円卓の席を埋めているのは六つ、五つを黒い炎、一つをフードの男が埋めているが、しかし他三つが欠けていた。


 黒い炎は揺らめき、それは徐々に人の形へと変わる。一つ一つの形に違いはなくマネキンのような形をしていた。そこから声が響いてくる。

 

 『ギャハハハ! あの男、そのうち自殺でもするんじゃねぇかと思っていたんだがな、先にやられちまったか!』


 ある者は愉快だと言わんばかりに笑い


 『ストリーゴ? 誰だそれは?』


 ある者はその名すら知らず


 『第九席でしょ、まったくあんたは何も興味無いのね。それにしても死んでくれてよかったわ、あいつ気持ち悪かったのよねー」


 ある者はその死に唾を吐き


 『……』


 ある者はその心情すら垣間見えず


 『そんな……友よ!! 何故!? ああぁ……ストリーゴォ……」


 そしてある者は友の死に心の底から悲しんでいた。


 「さて、皆さま由々しき事態です。我らクリフォトからまた欠員が出てしまいました。これではこれからの行動に支障が出ます」


 『といっても、たしか調査をあいつに命じたのはお前じゃなかったか?もしかしてお前がこうなる様に仕組んだ……とかじゃねえよな?いや、一応あんな奴でも同じ志の仲間ってやつだったからな……仲間って俺の柄じゃねえ! ギャハハハハ!!』


 「それこそ彼を失うのは私にとっても不本意です。貴方たち私の命令なんてまともに聞かないでしょう。その点、彼は優秀でしたよ」


 『といっても皆お互いの思惑なんてどうでもいいでしょ。結局は同じところに行きつくんだし』


 『それでその……ストリート? ステテコ? ……第九席は誰にやられたんだ?』


 その質問に騒いでいた者たちが静まり返る。どうやらストリーゴを殺した人物に興味津々といったところなのだろう。

 フードの男はやっとかと言わんばかりにため息をつく。


 「……的確な質問ありがとう。王国領の小さな村の近くに黒い獣が出現したのは知っていますよね? それの調査を頼んだんですけれども、どうやら彼はそこで何かを見つけたらしく、調査を独断で行っていたそうなのです」


 『あいつが独断って珍しいわね。狂ってる奴だけど命令には忠実だったのに……』


 「そう、つまりストリーゴが独断で動くほどの物がそこにはあった。しかも、ストリーゴはなぜかダンジョン内で何者かに殺害された。ならばダンジョンに行くような人種と言えば──」


 『──冒険者か騎士団のどちらか、ってわけね』


 ダンジョンは一般人は入ることはできない。ダンジョン自体が魔力を発し、魔獣がそこから生まれる事もある。故に危険が伴うため入ることができるのは騎士団か、冒険者に限られてくる。


「ええ、なので調査をまたお願いしたいのですが──」


 すかさず、黒炎の一つが勢いよく立つ。それはストリーゴの凶報を一番悲しんでいた人物だった。この場ではわからないが、現実の彼は涙を流しているのが手にとって分かる程の悲壮感をにじませている。


『ならば私にお任せを! もし、調査の段階で友の仇が判明すれば、その時は……」


「その時は貴方に任せましょう。しかし、相手はストリーゴを倒すほどの実力者、くれぐれも油断せぬこと、いいですね?」


『了解しました――導師代行』


 そう言い残し、ふっと蝋燭の炎に息を吹き掛けたときのように黒炎は掻き消える。それに続いて他の参加者も用がすんだと言わんばかりに消えていき、そして円卓には導師代行と呼ばれた男一人が残るのみであった。


「誰かは知りませんが、我らの邪魔をするなら容赦はしませんよ……」


 そして最後の一人も陽炎のごとき揺らめきを見せ、その姿も掻き消えた。









 ―――――――――――――――――――――









 「おおー久しぶりの王都だ、いつ見てもでけぇなぁ!」


 「まったく子供じゃないんだからー、あまりはしゃがないでよねー!」


 グリュプス・ダンジョンの西側に王都が一望できる小高い丘があり、そこに二人の人物が立っていた。


 一人は百九十はありそうな高身長の男、無精ひげが似合う彫の深い顔つきで焦茶の頭髪がそれを強調している。傍から見ても引き締められた筋肉を身にまとい、腕はそれを惜しげもなく見せつけ、それ以外の上半身から下半身は苔色のノースリーブコートに身を包んでいる。

 その男の背には折りたたまれている、複雑な機構を備えた弓の様なものがあった。


 もう一人は誰が見ても可愛らしいと言えるような、小柄でまだ幼く見える少女だった。灰色の髪を肩まで伸ばし、青を基調としたローブを身に着けており、それが翡翠色の瞳とよく合っていた。男と比べると最早、親とその子供と呼べる程の身長差がある。そんな可愛らしい見た目とは裏腹に、その少女の背に異彩を放つ武器が存在した。

 分類的には大剣と呼べるものだが、その剣身は少女の身長ほどあり、垂直に立てれば小柄な少女なら隠れられるぐらいに幅がある。大の大人でさえ持ち上げるのに苦労しそうなほどに巨大で重いはずなのだが、少女はそれを涼しそうな顔で背負っていた。


 「いやー懐かしくって興奮が止まらねぇんだ。そういう先輩だって笑ってるぜ」


 男が少女の方を見ると、少女も目を細め、口元には笑みを浮かべていた。どこか哀愁を感じさせるところは外見相応とはとても言えないが。


 「まあ、確かに帰ってきたーって感じは分からないでもないからねー。ほらグズグズしないで早く行くよ後輩!」


 そういって先輩と呼ばれた少女は王都に向かう道を小走りで駆けていく。それを見ていた男は小さく噴き出し、少女に聞こえないように呟いた。


 「……やっぱり先輩も嬉しいんじゃねぇかよ……」


 「ほらーっ! はやく、はやくーっ!」


 離れたところから手を振り、男を急かす。男もそれに応えるように少女に追いつこうと小走りで道なき道を進んでいく。

 少女の隣に追いついた男は一番大事な事を少女に問いかけた。


 「――クロア君は元気かねー?」


 「六年も前だからねぇ、今は十六歳かー、多分カッコよくなってるだろうねー後輩と違って!」


 「何をっ! これでも昔は女の子にモテモテだったんだぜ先輩! 街を歩けばそこら中から黄色い悲鳴が聞こえてきたもんだ!」


 「嘘はよくないよー後輩。あんた昔は誰も寄ってくるなよってぐらい周りに睨み効かせてじゃない。そういう意味では悲鳴が聞こえてきそうだけどー」


 「あーあれは若気の至りというか、そういう先輩だって――」


 そして二人は王都に向けて歩き出す。この二人が王都で何を成すのかはわからない。しかし、これから起こる動乱の兆しが徐々に、この王都を中心に広がっていた。







 クリフォトメンバーとクロアの過去を知る謎の二人組。次話より動乱の第二章をどうかよろしくお願いします。

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