↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/23

第六話「月曜日のリュバン」

■リュバン

月曜だった。店を出る時間は決まっている。

タマユラ遺跡までの道は、足が覚えていた。石畳が土に変わる。土の先に草がある。その向こうに、石の入口がある。

外縁に入る。空気が変わった。石の匂い。時間が少し薄くなる感じ。

今日は、少し湿っていた。いつもより。手の甲で感じる空気が、少し重かった。

書棚区画へ進む。足元は覚えている。どこに段差があるか。どこで天井が低くなるか。

棚が見えてきた。

止まった。

違う。棚の並びが、違っていた。来るたびに少し変わることは知っていた。でも今日は、違う変わり方だった。

奥に、暗がりがある。今まで壁だった場所に。

足が一歩前に出た。手が伸びるより先に。

奥から、湿りが来た。

水の区画だとわかった。そこから先へ入ったことはなかった。でも今日は、湿りが強い。

進んだ。

湿気が濃くなる。水はない。でも湯気が抜けたあとの壁みたいな匂いが残っていた。露天風呂を作った時の感触に、少し似ていた。

その先に、石が落ちていた。

黒い。小さい。表面に細かい文様がある。

拾いかけた手が、止まった。

まわりだけ埃が払われていた。石に向かって、浅い擦れた跡がある。自分より先に、誰かがいた。

先に、遺跡が静かになった。

湿気の気配がふっと引く。遠くのかすかな音も、一緒に消えた。自分の呼吸だけが、少し浮いた。

顔を上げた。

柱の向こうに、何かがいた。黒くはない。でも光を返さない。立っているのに、影のように見えた。

「それを、持ち帰ったのはお前か」

低い声だった。静かで、本気だった。

「何の話だ」

「自覚がないのか」

少し間があった。

書のことか。鳥居のことか。わからなかった。

でも相手は、自分が何かを持っていると思っている。それだけはわかった。

逃げる前に、手が動いた。

腰の短刀を抜く。戦士じゃない。でも、立っているだけは違うと思った。

踏み込んだ。

その瞬間、足元の感覚がずれた。石の感触が一瞬消える。距離がわからなくなった。身体の向きが、思った方向と少しずれた。

遺跡の何かが、動いた。

影の奥から別の気配が来た。大きい。速い。

音が先に聞こえた。痛みは、少し遅れた。

倒れた。腹の下が温かい。血だとわかった。声は出さなかった。

引きずられた。

遺跡の奥へ。暗くなる。でも意識はまだある。

小さな部屋があった。石の壁。石の床。扉のような形をした何かで、閉じられた。

静かだった。

痛い。でも静かだった。

ツムギが十八時に部屋へ戻る。今日の月曜は、終わらない。

それだけを思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。