第六話「月曜日のリュバン」
■リュバン
月曜だった。店を出る時間は決まっている。
タマユラ遺跡までの道は、足が覚えていた。石畳が土に変わる。土の先に草がある。その向こうに、石の入口がある。
外縁に入る。空気が変わった。石の匂い。時間が少し薄くなる感じ。
今日は、少し湿っていた。いつもより。手の甲で感じる空気が、少し重かった。
書棚区画へ進む。足元は覚えている。どこに段差があるか。どこで天井が低くなるか。
棚が見えてきた。
止まった。
違う。棚の並びが、違っていた。来るたびに少し変わることは知っていた。でも今日は、違う変わり方だった。
奥に、暗がりがある。今まで壁だった場所に。
足が一歩前に出た。手が伸びるより先に。
奥から、湿りが来た。
水の区画だとわかった。そこから先へ入ったことはなかった。でも今日は、湿りが強い。
進んだ。
湿気が濃くなる。水はない。でも湯気が抜けたあとの壁みたいな匂いが残っていた。露天風呂を作った時の感触に、少し似ていた。
その先に、石が落ちていた。
黒い。小さい。表面に細かい文様がある。
拾いかけた手が、止まった。
まわりだけ埃が払われていた。石に向かって、浅い擦れた跡がある。自分より先に、誰かがいた。
先に、遺跡が静かになった。
湿気の気配がふっと引く。遠くのかすかな音も、一緒に消えた。自分の呼吸だけが、少し浮いた。
顔を上げた。
柱の向こうに、何かがいた。黒くはない。でも光を返さない。立っているのに、影のように見えた。
「それを、持ち帰ったのはお前か」
低い声だった。静かで、本気だった。
「何の話だ」
「自覚がないのか」
少し間があった。
書のことか。鳥居のことか。わからなかった。
でも相手は、自分が何かを持っていると思っている。それだけはわかった。
逃げる前に、手が動いた。
腰の短刀を抜く。戦士じゃない。でも、立っているだけは違うと思った。
踏み込んだ。
その瞬間、足元の感覚がずれた。石の感触が一瞬消える。距離がわからなくなった。身体の向きが、思った方向と少しずれた。
遺跡の何かが、動いた。
影の奥から別の気配が来た。大きい。速い。
音が先に聞こえた。痛みは、少し遅れた。
倒れた。腹の下が温かい。血だとわかった。声は出さなかった。
引きずられた。
遺跡の奥へ。暗くなる。でも意識はまだある。
小さな部屋があった。石の壁。石の床。扉のような形をした何かで、閉じられた。
静かだった。
痛い。でも静かだった。
ツムギが十八時に部屋へ戻る。今日の月曜は、終わらない。
それだけを思った。




