↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/26

第四話「リュリュア、二度目」

■メルセミュ

次にパン屋に来たのは、三日後だった。

理由は単純だ。またあのパンが食べたくなった。今度は別のやつを試してみたい。

「こっち」

フィロニィを引っ張るように路地に入る。

「メルセミュ様、少し速いです」

「すぐそこだから」

石畳の角を曲がる。看板が見えた。リュリュア。

扉を押す。鈴の音がした。

匂いが来る。甘い、焼きたての匂い。やっぱりいい匂いだ。

カウンターに少女がいた。目がトロンとしている。私を見ている。でも、見ていないような気もする。

「いらっしゃいませ」

「また来た。あんぱんってある?」

「はい」

前と同じだった。


■フィロニィ

店内に入りました。

窓際だけ、光がやわらかい。木の棚は艶があります。手入れが行き届いています。パンくずが床に落ちていない。清潔にしている人間の店でした。

棚にパンが並んでいました。丸いもの。螺旋のもの。細長いもの。見たことのない形ばかりです。

「フィロニィも選んでいいよ」

メルセミュ様が振り返らずに言います。

棚に近づきました。細長い螺旋のパン。先端が尖っていて、中が空洞になっているようです。

「これは何ですか」

カウンターの少女に聞きます。

「チョココロネです」

「中に何か入っているのですか」

「チョコレートが入っています」

チョコレート。聞いたことのない名前でした。


■メルセミュ

フィロニィがチョココロネを手に取っていた。

真剣な顔で見ている。フィロニィが食べ物をそんな顔で見るのは珍しい気がした。

私はあんぱんを手に取る。丸くて、表面につやがある。真ん中に黒い点がついていた。

なんだこれ。

二人分の代金を払う。テーブルに座った。

あんぱんをかじる。

甘い。でも、メロンパンとは全然違う甘さだ。中にぎっしり何かが詰まっている。やわらかくて、ねっとりしていて、豆みたいな味がする。

なにこれ。また知らない味だ。

その時、奥の扉が開いた。

店主が出てきた。

棚に近づいて、パンの並びを確認している。一つ手に取って、位置を少し直す。補充でも掃除でもない。ただ、確かめに来た、という動きだった。

目が少し止まった。私の方を見た。覚えていたらしい。でも、何も言わない。

私も店主を見ていた。さりげなく、のつもりだった。

フィロニィがチョココロネを食べながら、何も言わなかった。

店主が棚を整えながら、ふとこちらを見た。

「また来たのか」

低い声だった。静かな声。

「メロンパン美味しかったから。今日はあんぱんにした」

店主は少し間を置いた。

「口に合ったか」

「うん。豆なのに、こんなに甘くなるんだ。なんか、他にない味だと思う」

少し考えてから、続けた。

「また来る」

店主は何も言わなかった。でも、小さく頷いた。

また奥に消えようとする。

「名前、聞いていい?」

店主が振り返った。

「リュバンだ」

「私はメルセミュ。こっちはフィロニィ」

リュバンは二人を一瞬見た。軽く右手を上げる。それから、奥へ消えた。

低い声が、まだ耳の中にあった。嫌いじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。