第二十五話「ヴィロアム」
■メルセミュ
夜のヴェレフェーヌを走った。
走れているのが不思議だった。
魔力を使いすぎていた。腕が重い。指先まで感覚が薄い。普段なら火球ひとつ出す前に、今日はもう空に近かった。
でも止まれなかった。
石畳が足の下を流れていく。夜のヴェレフェーヌは白い。昼と同じ石なのに、灯りを受けた色が違う。もっと冷たくて、硬い白だった。
依頼所へ向かった。閉まっていた。窓の向こうに灯りが見える。扉を叩いた。
「ヴィロアムという呪術師を知っているか」
「名前は聞いたことがありますが、居場所は」
「わからないか」
「申し訳ありません」
走った。
酒場の灯りが見えた。中から声が漏れてくる。押し開けて入ると、煙草の煙と酒の匂いが来た。
「ヴィロアムなら見たことあるぞ。でも最後に見たのは半月前だな」
「今どこにいる」
「わからん」
また走った。
腕が震えていた。走るたびに、何かが少しずつ抜けていく感じがした。魔力ではない。ただの、力だった。
路地を抜ける。通りを横切る。また路地。
間に合わないかもしれない。
そう思った瞬間、後ろから静かな声がした。
「その顔色で、まだ走るのか」
振り返った。
路地の陰に、人が立っていた。細い。背が高い。いつからそこにいたのか、わからなかった。
探しに走り回っていたのに、向こうはずっとここにいたのかもしれない。そういう立ち方をしていた。
目が違った。何かを見通しているような、静かな目だった。
「体内に異物を抱えた人間がいるな。かなり近くに」
「なんでわかる」
「流れが読める。魔力の動きは隠せない」
男が私を見た。
「ヴィロアムだ。探していたなら、丁度いい」
「本当にヴィロアムか」
「疑うなら別の人間を探せばいい。ただ、時間はあるか」
「ない」
「なら案内しろ」
私は走り始めた。ヴィロアムがついてくる。足音が後ろで続いた。速い。




