第二十四話「リュリュアへ
■フィロニィ
二階へ運びました。
リュバン様を寝台に横たわらせます。
店の中は静かでした。パンの匂いがしていました。外で何が起きたのか、この場所には届いていないみたいでした。
まず左腕を確認します。
自分で刃を当てた傷です。浅い。でも、出血が続いていました。
聖印を握ります。回復魔法を当てます。塞がっていきます。
包帯を巻きます。手順は迷いません。
「処置が終わりました」
でも、手を離せませんでした。
顔色が悪い。呼吸が浅い。汗が引いていない。
傷の出血は止まりました。でも、それだけでは説明できない状態でした。
体内を確認します。
まだあります。
紫の霧が、リュバン様の胸の奥に残っていました。儀式は中断された。でも、すでに入り込んだものは残っています。
外傷には触れられます。でも、内側に入ったものには手が届きません。
「メルセミュ様」
■メルセミュ
「何」
「左腕の処置は終わりました。でも、体内の魔力はまだ残っています。私の力では取り除けません」
リュバンの顔を見た。
目が閉じていた。呼吸はしている。でも、顔色がどんどん悪くなっていく気がした。
取り戻した。連れて帰ってきた。でも、まだ助かっていなかった。
「さっき言ってた、心当たりって」
「呪術師のヴィロアムという人物です。魔力の流れを視ることができると聞いています。体内の異物を動かす処置ができるかもしれません」
「どこにいる」
「ヴェレフェーヌにいるはずです。ただ、居場所の特定が必要です」
私は杖を持ったまま、リュバンを見ていた。
部屋は静かだった。窓の外にヴェレフェーヌの灯りが見える。
さっきまで建物を吹き飛ばしていた。でも、ここでは何もできなかった。
「急ぐ」
「ええ」
「フィロニィはここにいて」
「わかりました」
私は扉へ向かった。
■フィロニィ
メルセミュ様が出ていきました。
部屋が静かになりました。
リュバン様の傍らに座ります。
呼吸を確認します。浅いですが、続いています。
意識はありません。でも、呼吸は続いている。それだけを確認し続けます。
ツムギさんがいつの間にか部屋の入口に立っていました。
無言でした。でも、その場所を離れませんでした。
いつも通りの目でした。でも、今夜だけは少し違う気がしました。
気のせいかもしれません。
でも、離れませんでした。
パンの匂いが、階下から上がってきていました。
リュバン様の呼吸が、静かに続いていました。




