第二十二話「追跡」
■メルセミュ
血の跡を追った。
角を曲がる。また血がある。
路地に入る。また血がある。
リュバンが落としていった。一つずつ、確認しながら進む。
ヴェレフェーヌの夕方の路地は、人が少ない。それが、かえって良かった。
血の跡が、街の外れへ向かっていた。
石畳が途切れて、土の道になった。
「まだ続いてる」
「ええ」
フィロニィが後ろから確認している。
木が増えてきた。光が薄くなる。
■フィロニィ
血の間隔が、少し変わっていました。
街の中より、広くなっています。
運ばれるスピードが上がったのか。あるいはリュバン様の体力が落ちて、落とせる量が減ったのか。
どちらにしても、急がなければいけません。
「メルセミュ様」
「わかってる」
足を速めます。
木々の間に、廃墟のような建物が見えてきました。古い石造りです。窓がない。扉が外れかけています。
血の跡が、その建物へ向かっていました。
■メルセミュ
建物の前で止まった。
扉の隙間から、光が漏れている。普通の光じゃない。紫がかっていた。脈打つように揺れている。
「中にいる」
フィロニィが頷いた。
杖を握り直す。フィロニィが聖印を握った。
扉を押した。
中は広かった。
石の床。石の壁。天井が高い。
中央に、リュバンがいた。
床に横たわらされている。動いていない。
その体に、紫色の霧が巻きついていた。濃い。生き物みたいに動いている。リュバンの胸の辺りへ、ゆっくりと、確実に流れ込んでいく。
呼吸はしている。でも、顔色が悪い。
「リュバン」
声が出た。
その瞬間、紫の霧が揺れた。
建物の奥から、声がした。
「来たか」
低い声だった。静かだった。
■フィロニィ
奥に、何かがいました。
輪郭だけが見えます。黒くはない。でも、光を返さない。
建物に入ってきた私たちを見ていました。
「ネスラグ」
声が出ていました。その名は知っていました。冒険者の間でも、よくない形で知られている名です。
知の魔族。力で押すのではなく、観察して、読んで、利用する。正面から戦う相手ではなく、仕組む相手。
儀式が中断されています。紫の霧の流れが揺れて、止まっていました。
でも、リュバン様はまだ動きません。
どのくらい入ったのか。内臓まで達しているのか。まだ間に合うのか。
今すぐ確認しなければいけません。
「メルセミュ様、私はリュバン様のところへ」
「わかった。あっちは私が見る」
メルセミュ様が前へ出ました。
私はリュバン様へ走りました。
■メルセミュ
相手と向き合った。
「また会ったな」
ネスラグが言った。
森の時の大型個体。リュバンを攫った声。そして今、目の前にいる。
「邪魔をするか」
「する」
杖を構えた。
後ろでフィロニィがリュバンに触れる気配がした。聖印の光が、広がった。




