第十五話「生活の形」
■フィロニィ
数日が、そのまま過ぎました。
朝、一階を開けます。ツムギさんが仕込みをします。私とメルセミュ様が手伝います。
昼前に二階へ上がります。リュバン様に食事を持っていきます。傷の確認をします。
午後、また一階に戻ります。夕方、店を閉めます。
それが、繰り返されました。
気づいたら、当たり前になっていました。
■メルセミュ
ある朝、リュバンが言った。
「一階へ行きたい」
フィロニィが少し考えて言った。
「支えれば行けます。ただ、階段が」
「二人がいる」
私はフィロニィを見た。フィロニィが頷いた。
三人で、ゆっくり階段を降りた。リュバンが手すりを持つ。私とフィロニィが両側を支える。
一段ずつ。
■フィロニィ
一階に降りた時、リュバン様が少し止まりました。
店の中を見ていました。
棚のパン。テーブルと椅子。カウンターのツムギさん。
ツムギさんが振り返りました。
「いらっしゃいませ」
いつも通りでした。
リュバン様の表情が、少し動きました。なんと表現すればいいかわかりませんでした。でも、良かったと思いました。
■メルセミュ
リュバンが椅子に座った。店の中を、もう一回見渡した。
「変わってないな」
「変えてないから」
リュバンが私を見た。何も言わなかった。でも、目が少し動いた。
客が来た。リュバンを見て、少し驚いた顔をした。
「大将、いたんですか」
「ああ」
「足は」
「少し不自由だが」
客がパンを買って出ていった。リュバンがその背中を見ていた。
■フィロニィ
夕方、店を閉めました。
リュバン様がテーブルに座ったまま、外が暗くなるのを見ていました。
私は奥で煎茶を淹れていました。メルセミュ様が椅子を引いて、リュバン様の近くに座りました。
店の中は静かでした。ツムギさんは十八時になると、いつも通り自室へ戻っていました。
「フィロニィ」
リュバン様が呼びました。
カップを持って、テーブルへ行きました。
「メルセミュ」
「うん」
二人を呼んだのは、珍しかったです。
「世話になっている」
「なってない」
メルセミュ様がすぐに返しました。
「なってる」
リュバン様の声は静かでした。
メルセミュ様は何も言いませんでした。
リュバン様が煎茶を一口飲みました。
「パーティーはどうする」
少し間がありました。
「まだ、決めていません」
私が答えました。
リュバン様は頷きました。
それ以上は聞きませんでした。
店の外で、風が通りました。
ヴェレフェーヌの夜が、静かに始まっていました。




