第十一話「目が覚めて」
■メルセミュ
三日、リュバンはほとんど眠っていた。熱は少しずつ下がり、フィロニィは毎日傷を見た。階下では、ツムギがいつも通りパンを焼いていた。
■フィロニィ
リュバン様の目が開きました。
すぐに前へ出ます。呼吸を確認します。目の焦点を確認します。
合っています。意識が戻りました。
「リュバン様」
目が、私の方を向きました。
「熱は下がっています。傷の経過も悪くありません」
リュバン様が小さく頷きました。
■メルセミュ
フィロニィが確認している間、私は後ろで立っていた。
リュバンの目が開いた瞬間、椅子から立ち上がっていた。気づいたら、そこにいた。
リュバンの目が、フィロニィからこちらへ動いた。
私を見た。
「……迷惑をかけた」
かすれた声だった。でも、リュバンの声だった。
迷惑じゃない、と思った。でも、声にならなかった。
■フィロニィ
リュバン様が上半身を起こそうとしました。
「無理はしないでください」
リュバン様は頷いて、横になったままでいました。
手が、布団の上をゆっくり動きました。自分の足の方へ。
触れました。
表情は変わりませんでした。でも、動きが止まりました。
少し間がありました。
それから、布団を直すように手を引っ込めました。
何も言いませんでした。
私は見ていました。でも、この時は何も言いませんでした。
■メルセミュ
リュバンが布団を直して、また天井を見た。
何かあった気がした。でも、何かはわからなかった。
「リュバン、痛い?」
「大丈夫だ」
「無理しないで」
「していない」
「してるでしょ」
リュバンが少し間を置いた。それから、小さく息を吐いた。
それが、この人なりの返事だと思った。
■フィロニィ
窓から午後の光が入っていました。
リュバン様が目を閉じました。眠ったようです。
私はリュバン様の足元を、もう一度静かに確認しました。
刺激を与えます。
反応がありませんでした。
傷だけでは、説明できません。でも今は、まだ言わないことにしました。
リュバン様が隠しているなら、今ここで言うのは違う気がしました。本人が話す時に、話せばいい。
メルセミュ様に視線を向けると、メルセミュ様も私を見ていました。
目が合いました。
何も言いませんでした。でも、気づいているのはわかりました。
二人とも、わかっていました。




