第3話 ナダク
私は学校へと向かった。
家の近くには私のお母さん、
カレン・マジャンのポーション屋、
マジャンポーション店があり、
多くの冒険者が回復ポーションを買いにやってくる。
だが、買いに来るお客さんは冒険者だけではない。
風邪を引いた時用のポーションもあれば、
軽い怪我をした時に使える薬も売っている。
栄養ドリンクも売ってある。
また、女性のために美容ポーションも売っており、
貴族の女性に人気があるらしい。
私もよく母さんが調合した薬を治験している。
小遣いも貰えるし、母さんの薬を信じているから平気だ。
美容ポーションの効き目や、
ポーションの味や匂いなどに変なところはないかの確認だ。
ポーションも苦過ぎたり、嫌な匂いだったりすれば飲んでくれない。
優れたポーションでも結局は飲んでくれなければ話にならない。
良薬口に苦しも、度が過ぎればいけない。
「あら、サイレンちゃん、おはよう」
「……おはよう」
町の人にも挨拶をする。
私が住んでいる町は【ナダク】。
緑が多い街で、広大な訓練場が自慢だ。
「む……」
脇道を通れば本道に繋がるが、
繋がった場所の近くにはパン屋があり、
焼き上がったばかりのパンの香ばしい匂いがする。
朝食を食べているから平気だが、
冒険前の冒険者にとっては魅力的らしい。
加えて、パン屋の隣にはスイーツ屋があり、
よく季節限定のスイーツが売られたりしている。
私の親しい冒険者も季節限定のスイーツに目がないらしい。
私と一緒に出掛けている時でも、
食べたそうに見ていることが多い。
「……早く行くか」
買い食いをすることはないので、
財布は持ってきていない。
そもそも、買い食いはしてはいけないと、
校則で決められている。
校則を破る気はない。
「いらっしゃいいらっしゃい!
新鮮な魚安いよ〜!」
「ねえ、お姉さん!
新鮮なりんご買ってくれない?
甘くて硬くて美味しいよ!」
「う〜ん……
困ったわね。
予算に余裕はあるけど、袋に入るかしら?」
「ねえ、まだ?
早く買ってよ〜」
本道には食材が売っている店が多く、
冒険者だけではなく、
町民も何を買うか悩んでいることが多い。
広場に行く途中で、小物などを扱う雑貨店もある。
鏡やメイク道具など女性冒険者が喜びそうなものもある。
広場をまっすぐ進めば、ナダクの冒険者ギルドがある。
冒険者ギルドの両隣は大浴場になっており、
右が男湯、左が女湯になっており、
冒険者だけではなく、住民も入ることができる。
私も今もお世話になっている。
「やっぱり、朝の一番風呂は人生の中で一番の贅沢だよな。
グラジ」
「いや、俺はお前ほど風呂は好きじゃねえよ。
ガイン、お前は一日に二回風呂に入るだろうが」
顔見知りのガインと呼ばれた大剣を持った男性冒険者に、
刀を持った漆黒の服を着たグラジと呼ばれた男性冒険者が、
呆れたようにツッコミを入れていた。
「……おはよう、ガイン、グラジ」
「おう、サイレンか。
おはよう」
「……しっかりと勉強してこい」
「……わかっている。
では……」
そして、私は通り過ぎる。
ナダクの冒険者ギルドの冒険者達は殆どが顔見知りだ。
私の家がポーション屋なのもあるが、
偶に冒険者ギルドにポーションを運ぶこともあるので、
冒険者達と顔合わせする機会が他の人より多い。
ついでに言うのであれば、
受付嬢達も母さんの美容液のお得意様でもある。
「あ、サイレンちゃん!
おはよう」
「……おはよう。
タピー……
依頼を受けるのか?」
「そうだよ。
帰ったらまた話してあげるよ」
「……ああ」
冒険者と関わる機会が多いからか、
冒険者達の武勇伝や冒険した思い出話を聞く機会が多かった。
私よりも魔法の腕が良い冒険者も多い。
だからだろうか。
私も自然と将来の夢は冒険者になると決めた。
魔法だけではなく、
私も世界を冒険して見知らぬ景色、
見知らぬ人、ならないと味わえない経験をしてみたいと、
思うようになった。
冒険者ギルドから東へ行くと、
ギルドよりも小さいが、
巨大な建物が見える。
見える建物が私が通う学校だ。
「……おはよう、守衛さん」
「おや、サイレンちゃん。
今日も早いね」
守衛のドナーさんは元々は冒険者だったが、
引退して学校の門番のようになっている。
元冒険者だから悪意のある人物の接近には敏感で、
割と強い。
冒険者を引退する時、
ランクによって転職が有利になることは多いらしい。
母さんも父さんも元々は冒険者で、
母さんは冒険で薬草などの知識を蓄え、
父さんは戦闘で戦闘能力はもちろん、
指導力も上がって、冒険者を導く教官として就職した。
冒険者を引退して他の職業に就く冒険者が多く、
受付嬢も元冒険者が多い。
「……今日は魔法の授業がある」
「そうかい。
なら、サイレンちゃんにとっては退屈かな?」
「ああ……
他の授業の方がいい」
「得意な魔法なら普通は魔法の授業は待ち望むものだけどね〜
サイレンちゃんなら仕方ないか」
そう言ってドナーさんが笑った。
「……そろそろ行く」
「ええ、今日も頑張ってらっしゃい」
そして、私は私の教室に入った。




