表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第七章 二回目の春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/84

第54話:失敗公開第一号

――公開の痛み


朝。


中央掲示板の前に、異様な人だかりができていた。


普段は評価一覧と連絡事項だけの場所。


だが今日は違う。


赤い縁取りの紙。


《失敗公開 第一号》


名が記されている。


エルネスト・ヴァルディア。


ざわめきが波のように広がる。


掲示は冷静だった。


■ 課題名:未踏分野研究

■ 結果:仮説不成立

■ 減点:大

■ 要因:準備不足・検証設計不備


そして、その下。


《判断過程公開》


箇条書きで並ぶ思考の流れ。


・興味優先で着手

・検証可能性の精査不足

・失敗確率を認識しつつ実行

・「やらない後悔」を優先


生々しい。


数字よりも、思考が痛い。


「ここまで出すのかよ……」


「判断過程まで?」


「これ、後輩にも残るんだよな」


隠せない。


削れない。


自分の未熟が、構造として掲示される。


それは単なる減点より重い。


教室。


議論が自然発生する。


「公開は必要か?」


「ここまで晒す意味ある?」


「改善に繋がるだろ」


「でも人格否定に近くないか?」


声がぶつかる。


初めて、理念が“理論”ではなく“痛み”になる。


失敗公開。


美しい言葉。


だが実物は、冷たい紙と黒い文字。


ユリアは掲示を見つめる。


彼女の胸に刺さるのは、減点ではない。


判断過程。


そこに書かれた一文。


『失敗確率を認識しつつ実行』


理解していたのに、やった。


合理を外れた選択。


だがそれが、堂々と掲げられている。


彼女の選択は、合理的。


だが彼女の判断過程は掲示されていない。


安全だから。


痛みがないから。


そのことに、初めて違和を覚える。


昼。


食堂の一角で討論が始まる。


エルネスト本人も座っている。


逃げない。


「恥ずかしくないのか?」


直球の問い。


彼は水を飲み、少し考える。


「恥ずかしいよ」


笑う。


「でも、隠すよりマシだ」


「なんで?」


「俺の失敗で、誰かが同じ穴に落ちないなら安い」


沈黙。


軽い言葉だが、重さがある。


教員室でも議論は続く。


「公開強度が高すぎるのでは」


「だが本人の同意はある」


「心理的負荷の検証が必要だ」


制度は回る。


だが感情は測れない。


公開は理念。


だが痛みは個人。


夕方。


掲示板の前で、二年生が一年生に説明している。


「これは罰じゃない」


「履歴だ」


「消えないが、更新できる」


履歴。


消えない。


その言葉に、一年生が息を呑む。


安全圏を選んだ者たちの顔が、わずかに揺らぐ。


夜。


寮の机。


ユリアはノートを開く。


自分の判断過程を書いてみる。


・減点回避を優先

・成功確率重視

・評価安定志向


紙にすると、透明になる。


正しい。


だが熱がない。


エルネストの掲示には、未熟と同時に熱があった。


痛みがある。


だから議論が生まれた。


窓の外。


掲示板はまだ灯りに照らされている。


第一号。


それは記録であり、宣言。


失敗は隠さない。


判断も隠さない。


公開は、美徳ではない。


痛い。


重い。


怖い。


だが――


痛みを共有した瞬間、

学院の空気が少し変わった。


理念は、紙の上から降りてきた。


公開の痛み。


それは減点より深く、

だが沈黙より確かに、生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ