表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第七章 二回目の春

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/84

第55話:揺らぎ指数上昇

――不安定の回復


管理室の壁一面に、数値が並んでいる。


出席率。

平均評価。

挑戦率。

衝突件数。

公開討論発生数。


その一角。


《揺らぎ指数》


ここ数ヶ月、なだらかに低下していた線が――


跳ねた。


小さく。


だが確実に。


「……荒れている」


リシャールは眉を寄せる。


リシャール


彼の仕事は安定管理。


秩序の可視化。


予測可能性の維持。


だが今週の報告は、読みづらい。


衝突数、増加。

討論時間、延長。

未踏課題選択率、微増。


数値は悪化とも、改善とも取れる。


だが共通しているのは――


「不安定」


会議室。


リシャールは報告書を机に置く。


「衝突件数、前月比二倍」


「挑戦率、五%上昇」


「平均評価、わずかに低下」


沈黙。


それは管理者にとって、好ましくない揺れだ。


「失敗公開第一号以降の影響と推測されます」


エルネストの掲示。


あれが火種。


理念が、数字に波を立てた。


窓辺に立つ王子は、静かに外を見ている。


王子


春の校庭。


一年生が円になって議論している。


声は強く。


遠慮が減った。


「良い兆候だ」


王子の言葉は短い。


リシャールは振り返る。


「良い、ですか?」


「はい」


「数値が乱れています」


「だからだ」


王子はゆっくり振り向く。


「揺らぎが消えた制度は、死にます」


言い切る。


「衝突が増えたということは、理念が触れられている」


「挑戦率が上がったということは、恐怖が議論に変わった」


「平均評価の低下は?」


リシャールの問い。


「回復の兆候だ」


即答。


管理室のモニターに、グラフが映る。


滑らかな安定曲線。


それは美しい。


だが王子はその線を指差す。


「これは静かすぎる」


「成功を否定する学院で、失敗が減るのは異常だ」


リシャールは言葉を失う。


安定は善。


それが前提だった。


だが今、前提が揺れる。


校庭。


一年生と二年生が激しく議論している。


「公開はやりすぎだ!」


「いや、あれがあるから挑戦できる!」


声が重なる。


衝突。


だが暴力ではない。


思考の摩擦。


その中心に、エルネストがいる。


笑っている。


減点された本人が、議論の軸。


それは異様で、健全だ。


ユリアはその輪の外で立ち止まる。


彼女の計画表は、まだ整っている。


だが心は整わない。


未踏分野研究の欄。


消したはずの迷いが戻る。


挑戦率、微増。


その一人に、自分がなる可能性。


怖い。


だが以前より、怖さの質が違う。


恥ではない。


揺らぎ。


それを受け入れるかどうか。


夜。


管理室。


リシャールは再び数値を見る。


衝突数。


討論時間。


挑戦率。


確かに荒れている。


だが一つだけ、上昇している項目がある。


《自主議論発生数》


制度外での議論。


自発的。


予測不能。


彼は小さく息を吐く。


「管理不能に近づいている」


王子は微笑む。


「自律に近づいている、だ」


学院の灯りが揺れる。


安定は崩れていない。


だが完全でもない。


揺らぎ指数は上昇。


不安定。


しかし。


不安定は崩壊ではない。


停滞からの回復かもしれない。


王子は静かに呟く。


「我々は成功例ではない」


入学式の言葉。


あれは宣言ではなく、願いだった。


完成しない。


安定しきらない。


揺れ続ける。


それがこの学院の呼吸。


数値は荒れる。


議論は増える。


挑戦も、少しだけ増える。


不安定の回復。


それは静かな革命の、次の段階だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ