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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第七章 二回目の春

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第53話:エルネストの失敗

――恥の再定義


掲示板の前で、ざわめきが起きる。


《未踏分野研究:暫定評価》


最下段。


エルネスト・ヴァルディア。


減点幅、過去最大。


数字は冷酷だ。


成功率三割の課題に、準備不足で飛び込んだ結果。

仮説崩壊。

検証未完。

発表資料、破綻。


無計画。


そう評されても仕方がない。


教室。


空気は微妙に遠巻きだ。


「無茶だったよな」


「もっと準備してからなら」


「減点、響くよあれ」


誰も嘲笑はしない。


だが距離はできる。


合理を外れた者への、静かな線引き。


ユリアは評価一覧から目を離せない。


彼女の計画表は順調だ。


基礎評価試験、満点近い安定。


曲線は美しい。


対照的に、エルネストの数字は歪んでいる。


理解不能。


なぜ、あそこまで無防備に挑んだのか。


午後。


失敗公開室。


円形に椅子が並ぶ。


中央に立つ者は、弁明ではなく「共有」を行う。


逃げることは可能だ。


公開は任意。


だがエルネストは、堂々と中央に立った。


背筋は伸びている。


傷は隠さない。


「準備不足だった」


最初の一言は簡潔。


「仮説が甘かった」


「検証方法も粗い」


「正直、見切り発車だ」


笑いは起きない。


彼は続ける。


「でも、やらないよりはマシだと思った」


沈黙。


「失敗するなら、早い方がいい」


「完璧を待ってたら、たぶん一生やらない」


言葉は荒削り。


理屈は甘い。


だが逃げない。


減点を隠さない。


質疑。


「なぜ計画を練らなかった?」


教員の問いは静かだ。


「練ったら、やめる理由が増えたからです」


ざわめき。


「怖くなった?」


「はい」


即答。


「でも怖いままやった」


笑いが小さく漏れる。


自嘲ではない。


開示。


彼は最後に言う。


「減点は妥当です」


「でも、やったことは消えない」


拍手は小さい。


だが確かに起きる。


後方席。


ユリアの手が、わずかに震える。


怖いままやった。


その言葉が、胸に残る。


彼女の計画は完璧だ。


だが。


“怖いままやった経験”は、まだない。


失敗は避ける対象。


減点は損失。


恥は回避すべきリスク。


そう整理してきた。


だが今。


中央に立つエルネストは、恥を背負っていない。


堂々としている。


減点されたのに。


評価を落としたのに。


なぜか、縮んでいない。


公開後、廊下。


ユリアは声をかける。


「どうして、公開したの?」


「隠す方が、かっこ悪いだろ」


即答。


軽い口調。


だが目は真剣だ。


「減点、痛くないの?」


「痛いよ」


笑う。


「でも、やらなかった自分よりマシ」


ユリアは言葉を失う。


彼女の中で、何かがずれる。


合理は正しい。


安全は賢い。


だが――


それだけで、十分なのか。


夜。


机の上の計画表。


美しい曲線。


無駄のない未来。


彼女はペンを持つ。


未踏分野研究の欄を、じっと見る。


成功率三割。


減点リスク。


効率は悪い。


それでも。


“怖いままやる”という選択肢が、初めて浮かぶ。


恥は避けるものではなく、共有するもの。


失敗は減点だが、否定ではない。


今日、彼女は見た。


減点されても、縮まない背中を。


恥の定義が、少しだけ揺らぐ。


合理はまだ崩れない。


だがそこに、小さなひびが入る。


学院の夜は静かだ。


だがその静けさの中で、


ひとつの再定義が、確かに始まっていた。

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