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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第四章 夏

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第22話:公開審査

講堂の扉が、ゆっくりと開かれる。


夏の光が差し込み、壇上を白く照らした。


視察団。

他校代表。

王宮関係者。

そして学院の生徒たち。


ざわめきは、期待に満ちている。

“成功例”を見に来た者たちの空気だ。


中央には、最も成長した成功区画。

花は見事に咲き誇り、色も形も整っている。


歓声が上がる。


「素晴らしい……」

「これが再評価枠の成果か」


視線が集中する。

光が当たる。


王子アルフォンスは壇上に立つ。


「本日は、公開成果発表会にお越しいただき、ありがとうございます」


形式通りの挨拶。


だが、その声はどこか静かだ。


「まず、成功区画の提示を行います」


アレクシスが簡潔に説明する。

成長率、安定度、比較数値。

明確なグラフ。

拍手。


成功は、確かに美しい。


だが。


王子は続ける。


「そして――」


会場がわずかに静まる。


「本日は、成功区画のみの提示ではありません」


ざわめき。


幕が、横へと引かれる。


そこに現れたのは――


枯れた区画。

葉を落とした苗。

芽吹かなかった土。


そして、温室事故の記録写真。


空気が変わる。


「これは……?」

「失敗例を出すのか?」


囁きが波のように広がる。


リシャールが前に出る。


「温室事故による被害報告です。

 高温障害の発生率、対応の遅れ、改善策」


淡々と、事実だけを述べる。


数字は飾られない。

言い訳もない。


さらに、再評価枠の全区画一覧が表示される。

成功も、未達も、停滞も。


アレクシスは短く説明する。


「これは全区画の現状データです。

 微減傾向も含め、隠していません」


観客席が揺れる。


他校代表のユリウスが小声で言う。


「ここまで出すとは……」


視察団の一人が眉をひそめる。


「自ら弱点を晒すのか」


だが王子は動じない。


「本学院は、成果の最大値だけで制度を語りません」


声は静かだが、通る。


「成功区画は、制度の可能性を示します。

 枯れた区画は、制度の課題を示します」


ざわめきが大きくなる。


「芽吹かなかった土もまた、

 この春夏の時間の一部です」


沈黙が落ちる。


壇上の光は、均等に当たっている。

成功にも。

枯れた苗にも。


セレスティンは最前列で腕を組み、じっと見つめている。


その視線は鋭い。


測っている。


王子は続ける。


「我々は、成功だけを提示すれば、

 より高い評価を得られるかもしれません」


一部の視察団が小さく頷く。


「しかし、それでは制度の全体像は伝わらない」


レディアナが一歩前へ出る。


「制度は、咲いた花だけでできているのではありません」


彼女の声は澄んでいる。


「咲かなかった区画も、

 枯れた苗も、

 立ち続けている者も含めて、

 制度です」


静寂。


そのとき、スクリーンに映し出される。


“辞めていない者の割合”


数値は小さい。

だが確かに増えている。


リシャールが言う。


「可視化しにくい成果です。

 しかし、制度導入前と比較して、

 離脱率は減少しています」


ざわめきが、別の質へと変わる。


「……それは」

「興味深いな」


成功の花ではなく、

継続の数字。


セレスティンが静かに口を開く。


「殿下」


全員の視線が集まる。


「あなたは、評価を下げる可能性を承知で、

 これを提示したのですね」


王子は迷わない。


「はい」


「なぜですか」


鋭い問い。


王子は答える。


「舞台は、評価のためだけのものではないからです」


講堂が静まり返る。


「ここに立つ者たちの現実を、

 切り分けずに示すためのものです」


セレスティンの目が細められる。


「理想論では?」


「かもしれません」


王子は正直に言う。


「ですが、理想を削りすぎれば、

 制度は空洞になります」


長い沈黙。


成功区画の花が、光を受けて揺れる。

枯れた苗は、動かない。


だがどちらも、同じ舞台にある。


セレスティンはゆっくりと頷く。


「……承知しました」


それ以上は何も言わない。


拍手は、最初はまばらだった。

だがやがて広がる。


称賛ではない。

同意でもない。


理解しようとする拍手。


公開審査は終わる。


成功は確かに美しかった。

だが今回は、それだけではなかった。


ざわめきの中、

学院の生徒たちは壇上を見つめる。


光の中に、

影もある。


その両方を、

今日、彼らは見た。


セレスティンの視線は最後まで鋭かった。


だがその奥に、

わずかな興味が宿っていた。


評価は、まだ下されていない。


夏の舞台は、

すべてを晒した。

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