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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第四章 夏

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第23話:王子の選択

公開審査の終盤。

成功区画の鮮やかな色彩も、枯れた苗の影も、

すでに観客の目に焼き付いていた。


ざわめきは収まりきらない。

評価はまだ宙に浮いている。


壇上中央に、王子アルフォンスが立つ。


光は強い。

逃げ場はない。


彼はゆっくりと会場を見渡した。

視察団、他校代表、学院生徒。

期待、不安、疑念、誇り。


そのすべてを受け止めるように、口を開く。


「本学院は――」


一瞬の間。


「成功を誇示しません」


ざわめき。


「失敗を隠しません」


空気が止まる。


「成果は、確定しません」


静寂。


その言葉は、評価制度の常識に逆らっている。


観客の中で、誰かが小さく息を呑む。


王子は続ける。


「成功は一時の状態です。

 失敗もまた、一時の状態です。

 どちらも固定しません」


成功区画の花が、壇上の端で揺れる。

枯れた苗は、動かない。


「我々は、成果を数値で提示しました。

 事故も、微減も、離脱率も示しました」


リシャールの資料が、静かに光を反射する。


「だが、それらは途中経過です」


会場後方。


セレスティンが立ち上がる。


穏やかな表情。

だが視線は鋭い。


「殿下」


声はよく通る。


「成功を誇示せず、失敗を隠さず、成果も確定しない。

 では――」


わずかな間。


「何を保証するのですか?」


問いは核心を突く。


評価制度において、保証とは安定。

安定とは予測可能性。

予測可能性とは、数値。


王子は、迷わなかった。


「続けることを」


静寂。


観客席が、完全に止まる。


「成果を保証することはできません。

 全員が咲くと約束することもできません」


率直すぎる言葉。


「ですが、挑戦を続けられる場を、

 維持することは保証します」


セレスティンの眉がわずかに動く。


王子は続ける。


「咲いた者も、咲かなかった者も、

 途中で揺らいだ者も。

 次の季節まで立ち続けられることを」


レディアナが息をつく。

アレクシスは目を閉じる。

リシャールは静かに壇上を見つめる。


「制度は結果を固定する装置ではありません。

 可能性を閉じないための枠です」


セレスティンは問いを重ねない。


ただ、見ている。


「続けることは、最も地味で、

 最も評価しづらい保証です」


王子の声は震えていない。


「ですが、それがなければ、

 成功も生まれません」


沈黙。


拍手は起きない。


誰も立ち上がらない。


だが、笑いも起きない。


嘲笑も、失望のざわめきもない。


観客は考えている。


保証とは何か。

評価とは何か。


成功区画の花は、確かに美しい。

だがそれは今日の姿だ。


枯れた苗も、今日の姿だ。


「我々は、完成を売りません」


王子は最後に言う。


「継続を選びます」


言葉は空気に溶ける。


長い、長い沈黙。


その中で、セレスティンはゆっくりと頷いた。


評価でも、称賛でもない。


理解の合図でもない。


ただ、受け取ったという動作。


やがて、公開審査は閉じられる。


拍手は起きない。


だが誰も笑わない。


それが、今日の結果だった。


壇上の光が落ちる。


成功も、失敗も、同じ暗がりに戻る。


夏の空気はまだ熱い。


だがその熱の中で、

一つの選択が確かに示された。


成果は確定しない。


それでも――


続けることを、保証する。

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