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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第四章 夏

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第十五話 成功の演出

夏の陽射しを背に、来訪者は現れた。


軽やかな足取り。

整えられた制服。

自信を隠そうとしない微笑。


他校代表――ユリウス。


彼は中庭に立ち、ゆっくりと周囲を見渡す。


咲き残る大輪。

緩やかに衰え始めた花弁。

そして、咲かなかった区画。


「興味深い光景ですね」


声音は穏やかだが、観察は鋭い。


評議会室。


ユリウスは遠慮なく本題に入った。


「成功例を、舞台化してはどうでしょうか」


アレクシスが反応する。


「舞台化、とは」


「分かりやすく提示するのです」


ユリウスは指を組む。


「大輪を再展示する。

 温室で最も成長している区画を前面に出す。

 成果を物語に仕立てる」


微笑む。


「監査は、物語を求めます」


レディアナの視線がわずかに動く。


「物語は、事実ではありません」


「事実を、伝わる形にするのです」


ユリウスは即答する。


「成功は、示さなければ意味を持たない」


アレクシスは考え込む。


「最も成長している区画は、確かにあります」


リシャールが補足する。


「温室第三区画。成長率は平均を上回る」


「ならば、それを中心に」


ユリウスは軽く手を広げる。


「壇上を設け、過程を説明し、成功の再現性を強調する」


言葉は滑らかだ。


「成功を、見せるのです」


王子は静かに聞いている。


ユリウスの提案は、合理的だ。


監査官は数値を求める。


他校はモデルを求める。


成功を前面に出すことは、防御にも攻勢にもなる。


「それは」


レディアナが口を開く。


「成功を見せることですか。

 それとも、成功を作ることですか」


ユリウスは目を細める。


「違いがありますか」


「あります」


彼女は静かに言う。


「見せる成功は、事実の提示。

 作る成功は、選別の結果です」


アレクシスが言う。


「選別は、常に存在します」


「ですが前面に出す瞬間、

 それは基準になります」


レディアナの声は穏やかだ。


「基準は、制度を形作ります」


ユリウスは肩をすくめる。


「制度は形があってこそ、信頼される」


「形を急げば、歪みます」


彼女は返す。


「いまは下降線の途中です。

 その中で成功区画だけを強調すれば、

 それは演出になります」


沈黙。


リシャールは資料を見つめる。


「温室第三区画は、確かに安定しています」


事実だ。


否定できない。


「ただし全体平均は微減」


数字は二つの顔を持つ。


「成功を強調すれば、

 監査は通りやすくなる」


ユリウスは言う。


「それは、現実的な判断です」


アレクシスもわずかに頷く。


「説明責任という観点では、有効です」


王子は立ち上がる。


窓の外、大輪が揺れる。


かつて象徴となった花。


今も美しい。


だが、衰えも始まっている。


「成功を見せることは否定しない」


彼はゆっくり言う。


「だが、それを中心に据えるかどうかは別だ」


ユリウスが微笑む。


「殿下は慎重ですね」


「慎重ではない」


王子は首を振る。


「迷っている」


室内が静まる。


「成功を前面に出せば、安心は得られる」


彼は続ける。


「だがそれは、成功を制度に近づける」


春に拒んだ道。


「決定は、保留する」


短い言葉。


ユリウスは軽く笑う。


「夏は待ってくれませんよ」


「知っている」


王子は答える。


「だからこそ、急がない」


会議は終わる。


廊下で、レディアナが小さく言う。


「揺らいでいますね」


「見せる成功と、作る成功の違いが分からなくなる」


王子は苦く笑う。


中庭では、風が強まっていた。


大輪は揺れる。


温室第三区画の葉も揺れる。


咲かなかった土は、変わらない。


成功を見せるのか。


成功を作るのか。


それとも――


成功を、選ばないのか。


夏は、選択を迫り続ける。


だがまだ、決定は下されない。

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