第十二話 春は確定しない
春祭は、終わろうとしていた。
花は咲いた。
あの大輪は、最後まで凛と立ち、
蕾もいくつか、遅れて花弁を開いた。
歓声は確かにあった。
笑顔もあった。
だが――
咲かなかった土も、そのまま残っている。
覆われず、隠されず、
ただ春の光を受けていた。
再評価枠は、拡張されない。
縮小もされない。
議論は幾度も交わされた。
数値は提示された。
効率も、理想も語られた。
だが結論は、動かなかった。
維持。
揺らぎを残す決定。
夕暮れ。
中庭に集まった生徒たちの前に、アルフォンスが立つ。
壇上は設けていない。
花の中央でもない。
咲かなかった区画と、大輪の中間。
その場所を選んだ。
沈黙が広がる。
鐘は、鳴らない。
誰も合図を出さない。
王子は、ただ口を開く。
「春は、成果を示した」
視線は大輪へ向かう。
「そして同時に、示さなかった」
土へ向けられる。
「どちらも、学院の時間だ」
アレクシスは腕を組み、聞いている。
リシャールは表情を動かさない。
レディアナは、静かに立つ。
「再評価枠は、拡張しない」
ざわめきは小さい。
「縮小もしない」
風が抜ける。
「成功を制度にしない」
言葉が、ゆっくり落ちる。
「失敗を罪にしない」
誰も息を荒げない。
否定も、拍手もない。
「春は、確定しない」
その宣言は、決意というより確認だった。
春は揺れる。
咲く花もあれば、咲かない土もある。
成功は現れる。
だがそれは固定されない。
失敗は存在する。
だがそれは裁かれない。
「制度は、答えを出すためにあるのではない」
王子は続ける。
「問いを残すためにある」
沈黙。
その沈黙は、拒絶ではなかった。
考える時間。
受け取る時間。
レディアナは、そっと目を閉じる。
守られたのは花ではない。
揺らぎだ。
確定しないという、選択。
アレクシスは空を見上げる。
制度は未完成のまま続く。
それは不安定だ。
だが、不完全であることを認めた制度は、
初めて呼吸を始める。
リシャールは土を見る。
数値は来季も取られるだろう。
評価は続く。
だが今日、ひとつだけ明確になった。
評価は断罪ではない。
夕陽が沈む。
灯りは消えない。
だが祝祭は、静かに終わる。
鐘は鳴らない。
確定を告げる音はない。
花は咲いた。
咲かなかった土も残る。
再評価枠は、そのままそこにある。
春は、終わる。
だが――
確定しないまま、次の季節へ渡される。
学院は、答えを持たないまま進む。
それでも確かに、
今年の春は存在した。




