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土を選ぶ悪役令嬢  作者: 南蛇井
第三章 春

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第五話 再評価の再評価

発芽ゼロ区画の数字が貼り出されてから、三日。


中庭の空気は、わずかに変わっていた。


芽は伸びている。

だが視線は、伸びた葉よりも――

沈黙した土に向けられている。


生徒会室の長机に、資料が並ぶ。


「提案です」


口火を切ったのは、二年代表だった。


「再評価枠の再審査を行うべきではないでしょうか」


静かな同意が広がる。


「成果が出ない区画を、そのまま維持する理由は?」


「公平性の観点からも、再検討が必要です」


言葉は冷静。

だが焦りが滲んでいる。


アレクシスは、すでに準備していた。


「資料をご覧ください」


彼は新しい紙を配布する。


発芽率推移グラフ。

区画別比較表。

過去三年の平均値との対照。


「再評価枠の一部は、明確に平均を下回っています」


棒グラフが示す差。


視覚化された劣勢。


「制度は固定化されるべきではありません。

 評価は継続されるべきです」


彼は淡々と続ける。


「再評価枠が“再評価されない”のは、論理的に矛盾しています」


小さなざわめき。


言葉は正しい。

だからこそ、鋭い。


「見直すべきだ」


誰かがはっきりと言った。


「成果が出ないなら、適正選抜に戻すべきだろう」


「再評価は、機会であって保証ではない」


それは、以前レディアナが言った言葉の裏返しだった。


保証ではないのなら、

結果が出なければ、終わる。


単純な理屈。


アルフォンスは、机の上で指を組む。


(再評価の再審査……)


理屈は理解できる。

制度は、検証され続けるべきだ。


だが。


再審査とは何か。


芽が出なかった区画に、

もう一度、評価を下すということ。


それは、機会の取り消しではないのか。


リシャールが口を開く。


「再審査は合理的です。

 制度は調整可能であるべきです」


彼の目は冷静だ。


「失敗区画を固定化することは、

 制度全体の信頼性を損ないます」


信頼性。


その言葉は重い。


レディアナは、静かに尋ねる。


「再審査の基準は?」


「発芽率です」


アレクシスが即答する。


「三週時点で0%の区画は、

 再評価枠の資格を再検討する」


「芽が出なかった理由は、種の問題ですか?

 土壌ですか?

 天候ですか?」


「統計的には、個体差は誤差として処理可能です」


彼は一歩も引かない。


「制度は例外ではなく、傾向を見るべきです」


アルフォンスは、窓の外を見る。


発芽ゼロの区画。

まだ、誰かが水をやっている。


(見直すべきか)


再評価は、理想だったのか。

それとも、実験だったのか。


もし再審査を行えば、

制度は“強く”なる。


だが同時に、“冷たく”なる。


「殿下」


アレクシスの声が、まっすぐ届く。


「決断を先送りすることは、中立ではありません」


室内が静まる。


「評価しないことは、現状を肯定することです」


理路整然。

逃げ道はない。


アルフォンスは、ゆっくりと息を吸う。


「……時間をくれ」


即答はしない。


それは弱さか、慎重さか。


自分でも分からない。


会議が終わる。


椅子の音が重なる。


廊下に出ると、春の光が差し込む。


レディアナが隣に立つ。


「迷っておられますね」


「当然だ」


彼は苦く笑う。


「正しさが、二つある」


「ええ」


彼女は頷く。


「再評価を再評価することは、理にかなっています。

 ですが――」


彼女は花壇を見る。


「急ぐ理由は、恐れから来ていませんか」


恐れ。


失敗への恐れ。

制度の弱さが露呈することへの恐れ。


アルフォンスは、言葉を失う。


中庭では、芽が揺れている。


沈黙の土も、そこにある。


春は進む。


だが、決断はまだ下されていない。


再評価は、再び評価されようとしている。


物語は、次の選択を待っていた。

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