7. 親族に色々伝える①
デイジーの親は東方の辺境にいる。
王都では、叔父――グレン叔父様の屋敷に居候させてもらっている。
まずは、叔父にちゃんと話をしなければならない。
デイジーは書斎に入っていった。『婚約破棄までにしたい10のこと』の四つ目、「親族に色々伝える」を実現するのだ。
「グレン叔父さま、お話があります。実はルークが私と婚約破棄しようとしています」
「知ってる」
「え、うそ。なんで?」
「あれだけ飲んだくれて泣き喚いていて何を言うか。屋敷中の者が知っておるわ」
「くっ、しまった」
「屋敷の者は一族に忠誠を誓っているから問題ない。だが外では慎むように。で、どうするつもりだ」
デイジーは辺境女子たちと立てた計画を話す。
四人でフィービーとルークのことを調べあげ、婚約破棄される夜会の当夜に返り討ちにしてやるつもりだと。
叔父は黙って聞いたあと、「それでこそリュベナーの娘だ」と笑い、「分かった。好きにしろ。何があろうと、なんとかしてやる」と言ってくれた。
辺境は厳しい土地。辺境出身者は一族の絆が強いのだ。そして、叔父はデイジーにことのほか甘い。父の一番下の弟である叔父はまだ三十歳。デイジーとは十四歳しか離れていない。デイジーが赤ちゃんのときから、叔父でありつつも大きな兄のような存在で、ずっと遊んでくれた上に、デイジーを守ってくれた。
「グレン叔父さまには、生まれたときからお世話になりっぱなし人生」
「望むところよ。お前が生まれたときは、湿地中の鳥が鳴いた。そして鳥たちはお前が寝ている部屋の窓枠にデイジーの花を運んできた。あれほど感動したことはない。ああ、この赤子は鳥の愛し子なのだな、絶対に守らなければと誓ったのだ」
「ありがとう。婚約者に浮気されちゃう不甲斐ない姪っ子なのに」
うるっとくるデイジー。
「浮気する方が悪い。気にするな。領地の者が、よそ者にないがしろにされたら決して許しはしないのが我らリュベナー一族。それが、デイジーであればなおさらのこと。王家は見限ってもいい。お前のよさを分からぬやつらに忠誠を誓う必要などないからな」
「け、決断が速い。グレン叔父さま、落ち着いて。ルークのことはギタギタにするけど、他の王族と争うつもりはないからね」
「成り行き次第だな。いつでも領地に戻れるよう、荷造りさせておく」
叔父さま、ブチ切れてるー。そうだった、領地の男性陣は怒るとヤバい人ばっかだったー。
「後でハーパーとも話すように。ここ最近ずっと、ルーク王子を処すって飛び出そうとしてたぞ。止めるのが大変だった」
「ハーパーさんてば」
男だけじゃなかった。男女問わず血気盛んな領地だった。ハーパーさんは叔父の奥さんで、領地にいたときからお姉さんみたいにかわいがってくれたのだ。ハーパーおばさんって呼ぶと顔がしょぼんとするので、ずーっとハーパーさんって呼んでる。
「両親にも手紙を出すんだぞ。領民一同が決起して王都に乗り込んでこないように、言い方に気をつけろ。これは私の漁だから、信じて待っててとでも書くといい。オレも補足の手紙を一緒に送る」
「さすがグレン叔父さま。みんなのことよく分かってるね」
「まあな。この屋敷の連中を抑えるのも大変だったからな。後で皆と話すといい。心配してるぞ」
「はーい」
叔父といくつか話し合ってから書斎を出ると、すごい速さで走り去る人影が見えた。
「ハーパーさーん」
「ひゃっ」
すぐに追いつくと、ハーパーさんがあたふたしている。
「あわわわ、決して盗み聞きしていたわけでは、あるけど。ごめん。気になって」
「ううん、すぐ相談しなくてごめんなさい」
「いいのよ。だってこれはデイジーの漁だもんね。グレンに、待て、とにかく待て。デイジーを信じろ。相談されるまで聞くなって止められてたの」
「もう、ふたりとも。優しいんだからー」
「当たり前じゃないの。かわいい姪っ子じゃないの。しかしあのボンクラ王子め。よくもわたしたちのデイジーを裏切りやがってー」
いつもは穏やかで愛らしいコマドリみたいなハーパーさんが怒りで震えている。
「ハーパーさん、ありがとう。でも落ち着いて、ね。私も大分元気になってきたから」
「そうね。冷静にならないと魚は逃げちゃうものね。そうだ。怒りを抑えるために、武器を作ってたの。見る?」
「えーなにー? 見るー」
屋敷の奥の方に連れて行かれた。厳重に鎖とカギで閉じられた小部屋をハーパーさんが開ける。
「どうよ。わたしの一番得意な武器」
「銛がこんなにいっぱい」
「これでボンクラを突き刺すところを想像していたのよ。ふふふ」
長いの、細いの、小さいの、大きいの、各種とり揃っている。
「うわー、すごい。本気すぎる。ヤバー」
「あいつ、今まで突き刺したどの魚よりもひ弱そうだけどね。デイジー、わたしはいつでも準備できてるからね。ヤルときは言ってね」
「う、うん。でも精神的には追い詰めるけど、肉体的には傷つけないよ。だって、腐っても王子だもん、あいつ。反逆罪になっちゃまずいじゃん」
「まあねえ。別にいいんじゃないって気もするけど。お義兄さんもそう言いそうな気がするけど」
「父さまなら言いかねないかも」
冷静なグレン叔父さまがあれだったもんな。父さまならもっと怒るだろうな。
ひやひやドキドキしながら手紙を送ったら、速攻で返事が戻ってきた。
デイジーを溺愛する兄マイルズと共に。




