6. 好きな格好をする②
嬉しそうなデイジーを見て、三人も口々に言いだす。
「うちもついでに新しい服を作ってもらいたいな」
「あたしもあたしも」
「じゃあ、アタシも」
三人も採寸され、色んな布をあてがわれる。
「リコリスお嬢様は金髪に深い青色の瞳、健康的な小麦色の肌です。そして、驚くほどに女性らしいお見事なお体です。あの、せっかくこれほど豊かなお胸ですのに、さらしを巻かれているのは、何か理由がございますか?」
デイジーがジャガイモだとしたら、リコリスのそれはメロンぐらいある。リコリス以外の、その場にいる全女性が羨望のまなざしをリコリスに注いだ。
リコリスが困ったような顔をした。
「えーっとね、領地にいる親族の女性たちから言われたの。リコリスの中身を愛してくれる男を見つけなさい。その人と結婚までいったら、実は脱いだらすごいんですってしなさい。でないと、体目当てのろくでもない男ばっかりひっかかるわよーって」
「ああ、なるほど、そういうことでございましたか」
「リコリスの領地のお姉さんたち、すごいね。先見の明がありまくるね」
「ひょっとして、そのメガネも色気隠しだったりする?」
「そう。うちの顔って隙があんだって。こいつならいけんじゃないかって男に思わせがちなんだって。親族のお姉さんたちが、黒ぶちのダサメガネかけてなさいって、プレゼントしてくれたの」
「徹底しすぎてて、ちょっと引く」
「ほんとだよ」
三人が引き気味の中、店員さんたちは冷静にリコリスを分析する。
「リコリスお嬢様の魅力を最大限に引き出すのであれば、見事なお身体にピッタリ沿ったドレスがよろしいと思いますが、それは結婚後のお楽しみにいたしましょう」
「お胸を強調しすぎない、ハリのある素材がいいと思います」
「リボンやフリルのない、ストンと縦長のワンピースがいいのではないでしょうか」
「色は白、濃い緑、青、灰色。結婚後は華やかな赤、淡いピンク、水色などがよろしいかと」
リコリスは見せられた服をどれも気に入ったようで、嬉しそうに笑っている。
「結婚後は、夫と一緒に買いにくるので、今日は結婚前用の地味目な服を買うわ。あと、デイジーが買った、スカートっぽいけど実はズボンていうキュロット、あれも欲しい」
「ありがとうございます」
リコリスの次はペティー。ペティーはリコリスとはまた違う、脱いだらすごいんです、だった。
「ペチュニアお嬢様、素晴らしい筋肉でございます」
「騎士のようでございます」
「ありがと。ペティーって呼んでください。領地にいたときは、もっとバッキバキだったんだけどね。王都に来たらすっかりなまっちゃった」
ペティーが照れ笑いする。
「いやいや、すごいよ」
「切れてるって」
「腹筋が、割れておる」
ペティーが色んなポーズをとって、筋肉を見せてくれる。全員が拍手喝采で称えた。
「黒い森の魔物から王国をお守りくださるペチュニア・マルコンニ辺境伯令嬢。僭越ながら、王都の民に代わってお礼申し上げます。マルコンニ領の皆さまのおかげで、我々王都の民は枕を高くして眠ることができます。ありがとうございます」
店主が跪き、店員たちがそれに続いた。
「ぎゃっ、やめてやめてー。恥ずかしい」
ペティーが真っ赤になる。
「ペティーの領地のおかげで魔物が王都にやってこないんだもんね。すごいよー」
「それな。同じ辺境女子とはいえ、うちはのほほんと馬と走ってるだけやー」
「アタシも辺境女子だけど、研究ばっかりで魔物とは無縁。ペティーの領地はもっと予算増やしてもらうべきと思うぞ」
皆で褒め称えると、ペティーはクッションで顔を隠した。
「服を、あたしに似合う服をみつくろってくださーい」
「はい、ただちに」
店員たちがテキパキと衣装を運んでくる。
「ペティーお嬢様は黒髪に緑の目、しっかりとした骨格、鍛え抜かれた筋肉をお持ちでいらっしゃいます」
「一般的なご令嬢よりは肩幅がございますので、肩回りへの装飾は避けるべきでございます」
「やっぱり、そうなんだ。パフスリーブとかドルマンスリーブとか、女の子っぽくて好きなんだけど。なんか、あれ系を着ると儚さが皆無でおかしなことになっちゃうんだよね」
「大変残念なお知らせなのですが、ペティー様。ふんわり女子っぽい服はペティー様の良さを消してしまいます」
「とろみ感、ふんわり、ゆったり、妖精っぽい。これ系はやめておくべきかと」
「残念。妖精っぽい乙女な服が好きなんだけど」
「ペティーお嬢様の筋肉美をチラ見せする方向がよろしいと思います。本当に」
あきらめの悪いペティーに、店員たちが言葉を尽くしている。涙ぐましい光景だと、ペティー以外の辺境女子は思った。
「首元、胸元は大きめに開けスッキリとさせましょう」
「ハリのあるしっかりとした布がいいですね」
「大胆な柄、大きな模様、迫力のあるデザインなどもおすすめです」
「分かった。皆さんにお任せします。あ、あたしもあのキュロットは欲しいかな」
「お任せくださいませ」
店員たちはやり切った達成感だろうか、頬がほんのり赤くなっている。
「次はアタシの番ね」
エリカが立ち上がる。
「エリカお嬢様は白金の髪に灰色の瞳。骨が細くて華奢。白く柔らかい、抜けるように白いお肌です」
「妖精じゃん。エリカみたいな体に生まれたかった」
口をとがらせるペティーに、エリカはにやにやしながらウィンクする。
「ごめーんね」
「はらたつー」
「こらこら、ケンカしないよ」
「いいぞ、もっとやれ」
冗談で言いあうエリカとペティーの間にリコリスが割って入った。デイジーはゲラゲラ笑ってけしかけ、店員たちはそっと視線を外して笑いをこらえている。
「エリカお嬢様は、淡いパステルカラー、ふわふわ柔らかい素材、春の妖精のごとき装いがお似合いだと思います」
「そうなんだ。婚約者の好みに合わせてピンク着てるけど、正直あんまり好きじゃないんだ。できればクタクタの部屋着の上に白衣はおって過ごしたい」
エリカが令嬢としてあるまじき発言をする。店員たちは一瞬目を閉じた。聞かなかったことにしたかったのかもしれない。
「クタクタ感のある、とろり、テロッとした素材で、体を締め付けないピンクのワンピースを作りましょう」
「その上から、オシャレ感のある白衣をはおるのはいかがでしょう。素敵な白衣を考えます」
「それでお願いします。あ、アタシもみんなとお揃いでキュロット履きたい」
「承知いたしました」
ファッションにあまり興味のないエリカ。あっさりと終わった。
「それでは、仮縫いの予定はまた教えてください」
「またみんなで来ますね」
「楽しかったです」
「では、また後日」
四人がそう言うと、店員がまたざっと跪く。
「先ほどはペティーお嬢様にお礼を申し上げることができました。せっかくの機会ですので、他のお三方にもお伝えさせてください」
「えー、なんか照れるな」
「どうぞどうぞ」
店主は恭しく頭を下げ、とうとうと述べる。
「アドラーベルグ王国の象徴である双頭のワシを呼び寄せることができる至高の存在、デイジー・リュベナー辺境伯令嬢。あなたさまの笑顔を本日間近で拝見させていただけましたこと、我ら心より感謝申し上げます」
「大げさ。マジで。私の家族は全員ワシ呼べるから。普通だよー」
「いや、それ普通じゃないから」
リコリスが突っ込む。
「アドラーベルグ王国の機動力である馬を育てていらっしゃる、リコリス・ケルニー辺境伯令嬢。たぐいまれなる美貌と、それをひた隠す深謀遠慮にうちのめされました。リコリスお嬢様が真のお姿をお披露目になるとき、少しでもお役に立てれば幸いでございます」
「すっごいドレス、作ってもらうからね」
リコリスが楽しそうに笑う。
「アドラーベルグ王国の頭脳、エリカ・ハイデルベア辺境伯令嬢。エリカお嬢様が研究に集中し、読書に没頭できるよう、我々全力でクタクタワンピースとオシャレ白衣を開発いたします」
「うん、待ってる」
辺境女子四人は、気さくに挨拶して去っていった。
「ああ、どうか、ご令嬢の皆さまの笑顔がこれ以上くもることがありませんように」
「アドラーベルグ王国を守る四つの辺境から、たぐいまれなる四人のご令嬢が王都にいらっしゃったこと、神に感謝の祈りを捧げます」
「辺境を軽んじる一部のお貴族様が目を覚まされますように」
店員たちは、尊い四人を見送りながら、そっと祈ったのであった。




