表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄までにしたい10のこと  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック③巻発売)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/35

5. 好きな格好をする①

 翌日、仲良し四人組はデイジーの『婚約破棄までにしたい10のこと』みっつ目「好きな格好をする」実現のため、服屋を訪れた。


「十五歳で王都に来るまで、兄さんたちと同じような格好で動き回ってたからさ。釣りとか貝集めで湿地帯にいることが多かったから、基本ずっとズボンよ」


「うちもそんな感じ。馬で移動することが多かったから、スカートは滅多に履かなかった」


「あたしんとこは、いつ森から魔物が出て来るか分からないから、戦える年齢の人はみんな動きやすい服装だった」


「アタシは図書館か研究室にこもりっきりだから、締め付けない楽な部屋着の上に白衣はおってごまかしてた」


 四人が顔を見あわせて吹き出す。


「お互い、王都で大きな猫をかぶったもんだね」

「王都では、女性らしいドレスを着るべきって言われたからさー」


「主に婚約者からな」

「郷に入っては郷に従えということで、女性らしいフリフリピンクを着ていた我らですが」


 四人が渇いた笑いをもらす。


「客観的に見ると、私にピンクのフリフリドレスって似合わないんだよね」

「うちは、実は隠れ胸バーンなんで、胸元フリルはもっさりして見える気がする」


「あたしは肩幅ががっしりしてるから、パフスリーブ着るとすっごく強そうに見えて悲しい」

「部屋着に白衣のころに戻りたい。疲れるもん」


 四人は顔を見あわせてため息を吐く。


「私さ、ルークの好みに合わせてかわいい女子を演じてきたんだ。でも、まったくの無意味。無駄骨だった。もうやめるわ」


 デイジーは衣装棚にあるフリフリピンクドレスを思い出し、身震いした。


「好きでもない、似合いもしないドレスを着てさ。フィービーには似合うんだろうけどさ。それで結局ルークは私に見向きもせず、フィービーに愛を語っちゃうんだもん。むなしい」


「デイジーの好きな、デイジーに似合う服を買おう」


「そだね。この際だから、全員が自分の好きな服を買おうよ。婚約者の好みに合わせるんじゃなくってさ」


 失恋を癒すのはヤケ酒と買い物だよね。


 意気込んでやってきたのは王族御用達の高級店。デイジーはルーク王子の婚約者なので、何度か来たことがある。頼めば屋敷まで外商が来てくれるけど、デイジーはお店に来る方が好きだ。だって、ねえ、わざわざ外商に来てもらうって、気が引けるよね。ルークは根っからの王子なので、そういう感覚はないみたいだけどさ。


「デイジーお嬢様、皆々様、ようこそいらっしゃいました」


 店員がにこやかに迎えてくれ、個室に案内された。


「お願いがあるの。ピンクのフリフリじゃない、動きやすくてかっこいい系の服を仕立ててほしいの」

「承知いたしました」


 店主からの質問に答え、色んな布を体に当て、肌着になって体の色んな部分を採寸してもらう。


「いくつか参考になる服をお持ちいたしますね。しばしお待ちくださいませ」


 お茶とお菓子が出されたので、四人でゆったりとくつろぐ。


「あ」

「おっとー」

「そうきたか」

「なにが、え、なにが?」


 エリカがきょとんとして三人を見る。


「ああ、エリカには聞こえなかったか。店員さんたちのひそひそ話が聞こえた」

「またか、あんたら三人、どんだけ耳がいいんだよ。引くわ」


 湿地帯で鳥や魚と共に生きるデイジー。草原で馬を育てて売買するリコリス。黒い森の近くで魔物と戦うペティー。三人とも、王都のご令嬢たちとは比べ物にならないぐらい、耳がいい。


「アタシだって北方の辺境育ちなのに、ちっとも耳はよくないのはなぜだ」

 エリカがぼやく。


「だってエリカの領地は研究が主な資金源じゃん。研究室にこもってる人たちが、耳がよくなる必要がないじゃん。そんなのちっとも気にしなくていいよ」


「そうそう、耳がよくて苦労することも多いんやー」


「今の悪口は、陰口なのか、聞えよがしの嫌味なのか、どっちか判断できんことがよくあるもん。そういうとき、エリカが頼り」


「アタシが聞こえたら嫌味、聞こえなかったら陰口ってやつね」


 エリカが苦笑する。


「で、アタシには聞こえなかった店員の内緒話はなんて?」

「昨日さ、あのあとルークとフィービーが店に来たんだって」


「はあ? 眠り薬から起きて、家に盗賊が入って、色んなヤバいものが盗られたあとに? おかしくない?」

「フィービー父が、盗難にあったってルークに知られたくなかったんじゃない」


「まぬけだもんね」

「何を盗られたか説明するのも無理じゃん」


「そっかー。あれ、でもルークは眠り薬のこと怒ってないわけ?」


「えーっと、ここの店員にルークがのろけたんだって。フィービーの手作りクッキーと祈りを込めたお茶で、ぐっすりと眠れた。恋の病で睡眠不足だった私へのプレゼントだ。なんて素晴らしい恋人だろう、だって」


「シネ。ふたりともまとめてシンデシマエ」

 デイジーがものすごい早口で呪詛を唱えた。鳥のさえずりのようであった。


「素敵なプレゼントのお返しに、今度の夜会で着るドレスをあつらえに来たってさ」

「すっご、店員に内部情報もらしすぎじゃね」


「ルーク、アホの子やったかー」

「顔はいいのにな」

「顔しかいいとこなかったってことよ」


 四人はやれやれと肩をすくめる。


「で、店員たちが困っちゃってるわけよ。昨日はお忍び風だけど王子とバレバレなルークが、浮気相手の令嬢と新しいドレス作りに来ちゃったと」


「そして今日、王子の正当な婚約者の私が来たと。それはウワサ話で盛り上がるな。こんなおもしろいゴシップはなかろう。ひとごとならなー」


うっ、辛い。店員たちの気の毒がってるっぽいヒソヒソささやきを聞くと、心の傷がぐりぐりとえぐられる。ダメだ、こらえろ。こらえるんだ。あかん、決壊するー。


「うわーん!」


 デイジーがこらえきれず大泣きしているときに、店員たちが衣装を持って部屋に入ってきた。店員たちは彫像のように固まった。


「こ、今度の夜会ね。わ、わだずのごんやぐじゃば、ほがのおんなのごと行ぐんだって。ひ、ひどぐない?」

「ひ、ひどいです」


 店員たちは激しく同意する。

「わ、わだじに似合うドレスをづぐっでほじいの」

「お任せくださいませ。我々の全精力を注ぎます」


 店員たちは涙目になっている。


 貴族令嬢らしからぬデイジーの号泣とぶっちゃけが、店員たちの同情心を誘い、やる気に火をつけた。店員たちは顔を見合わせると個室を出て、もっとたくさんの衣装を持ってくる。


「各国から取り寄せた高貴なる方々の衣装でございます。デイジーお嬢様のお気に召すものがあるか探してみましょう」


 店員たちがたくさんの衣装を並べる。


「デイジーお嬢様は、髪も瞳も濃い茶色です。髪は豊かでハリがあり、瞳はくっきりと目力があります。艶があり、しっかりとしたお肌です」


「デイジーお嬢様は、青みがかったメリハリのある鮮やかな色がお似合いですわ。青、黒、白など」


 店員たちが注意深く、様々な角度からデイジーを観察する。


「デイジーお嬢様は、背が高く、手足が長くしっかりとした骨格です。中性的でかっこいい体系です」


「ざっくりサラッとした質感、シンプルで抜け感のあるかっこいい服がお似合いです。愛らしいというよりは、華やかで大人っぽいドレスがよろしいかと」


 深みのある青のシンプルなワンピース。一見スカートに見えるキュロットという幅広のズボン。ざっくりとした白のシャツ。あでやかなオレンジ色のドレス。デイジーは、鏡の前で差し出された服をあててみる。


「あ、こういうの好き」

「デイジー様にはこういうかっこいい系の服がピッタリだと思います。ピンクのフリフリは、デイジー様の良さがいかせません」


「ルークが好きな服を着たかったんだ。でも、似合ってなかったね」


 しょんぼりするデイジーを店員たちが慌てて言葉をかける。


「好きな人が好む服を着たい。乙女なら当たり前のことです」

「似合わなくたっていいんです。そういう経験も女性には必要ですもの」


「色んな服を試して、ご自分の好きな色、似あう形を見つけていくのは楽しいですわ」

「デイジーお嬢様、乙女には回り道が大事です。そうやって、素敵な大人のレディになっていかれるのですもの」


 すっかり涙も乾いたデイジーが笑う。


「みんな、ありがとう。これ全部買うわ」

「ありがとうございます。こちらは古着ですから、新しくお作りいたします。デイジーお嬢様のサイズに合わせて微調整いたします」


「仮縫いで試着いただき細部まで整えます。その後、仕上げてお届けいたします」

「ありがとう。楽しみ」


 店員も辺境女子三人も、デイジーにつられて笑顔になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ