26. 決着
デイジーが声の方を見ると、フローレンス王女がゆっくりと歩いてくる。隣にはマイルズがつきそい、デイジーを見て小さく頷いた。
マイルズ兄さん、拳でパンチをかますジェスチャーをしてるけど、あれ何? 兄さんもルークを殴りたいのかしら。
ともあれ、よかった。フローレンス王女はルークを切り捨て、国を建て直すことを選んだんだ。
「姉上、なぜここに。ご病気では」
「国家存亡の危機に、寝てなどいられません。それに、デイジーにもらった薬が効きましたからね。デイジーありがとう」
「とんでもございません。薬はエリカが作ってくれたものです」
「そうなの。エリカ、ありがとう」
「もったいないお言葉です」
エリカがカーテシーをすると、ハッと気づいたように貴族たちが後に続く。
「皆、とんでもない夜会になってしまったわね。悪かったわ。後日、もう一度やり直しましょう」
フローレンス王女が貴族たちに語りかける。貴族たちは、フローレンス王女の真摯な言葉に自然と首を垂れた。
「ルーク、あなたには失望しました。そのような大それたことを企んでいたとは。廃嫡は免れぬものと覚悟なさい」
「姉上、ですが」
「ルーク、あなたは何も分かっていない。なぜ王族がリュベナー一族を始めとした辺境領地を重んじるのか。なぜ、あなたがデイジーと婚約したのか。双頭のワシに認められなければ、我々は王権を維持できないのですよ。何度も教わったはずなのに、どうしてなの」
「姉上、それがおかしいと言っているのです。誇り高き王族の我らが、なぜリュベナー一族におもねらなければならないのですか」
「それは、わたくしたちが自力では双頭のワシを呼べないからではありませんか」
「姉上、なんということを」
「ルーク、もはやそれは秘密でもなんでもありません。主要貴族はとっくに知っていて、知らぬフリをしてくれているだけ。我らは、童話にある裸の王様のような状態なのですよ」
え、そうなの? みんな、知ってたんだ。ルークも驚いているが、デイジーもビックリである。
「おじい様は呼べます。ひいおばあ様がリュベナー一族でしたから。お父さまはリュベナー一族と結婚するはずが、留学中に他国でお母さまにひとめぼれしました。あなたが留学を許されなかったのは、他国の女性に目移りせず、デイジーと結婚するためなのですよ。まさか自国の男爵令嬢にうつつを抜かすとは、お父さまも想定外だったでしょう」
そんな感じだったんだ。ええー、知らなかったー。あれ、でも確かに主要貴族はうんうんって頷いてる。そっかそうだったのか。
「ルーク、わたくしはあなたが立太子するまで支えるつもりでした。あなたの成長を見届けた後、国にとって最も良い誰かと結婚すればよいと。でも、デイジーがわたくしの迷いを払ってくれました。わたくしは、マイルズ・リュベナーと結婚し、次の女王になります」
フローレンス王女が伸ばした手を、マイルズ兄さんが優しく取る。
「え、ええー、マイルズ兄さんがー」
思わず領地にいるときの勢いで叫んでしまった。マイルズ兄さんとフローレンス王女はいたずらが成功したときのように楽しそうに笑っている。
「話してみたら気が合ったからな」
「そうね。妹思いで、妹が幸せに結婚するまで誰も娶らないと決めていたところも、わたくしとそっくりね」
「あららー、えーっと、フローレンス王女殿下、マイルズ兄さん、おめでとうございます」
「ありがとう」
楽団がファンファーレを鳴らし、ホール中から歓声が上がる。
ルークの手から陶器のかけらが落ちた。
「ルーク、せめてもの情けよ。衛兵は呼びません。フィービーさんを連れてここから出ていきなさい」
「姉上……」
「沙汰は追って告げます。それまで謹慎しているように」
「ええー、ちょっとルーク。あたしどうなっちゃうの?」
「黙れ、フィービー。何も言うな。いいから着いてこい」
ああ、フローレンス様、つっよ。さすがフローレンス様、さすフロ。
これにて、華麗なる婚約破棄返り討ち作戦は無事に決着したのである。
ほっと胸をなでおろすデイジーにフローレンスはむきなおり、照れくさそうにこう切り出した。
「デイジー、お願いがあるの。双頭のワシを呼んでもらえないかしら?」
「はい、もちろんです」
カップル誕生の祝福ね! 次期女王の宣言ね! ええ、喜んで!
ルークがぐだぐだ言ったら双頭のワシを呼んでギュウッとするつもりだった。でも、こういうおめでたい理由で呼ぶ方が絶対いい。ワシも喜ぶだろう。
貴族たちがワクワクした様子でホールの端に移動する。
さあ、ここが見せ場ね。
リュベナー領主一族にしかできない、特別な神儀。ワシ呼びのダンスだ。
デイジーは広い空間の隅っこに立った。対面にマイルズが来るのを待つ。
ところが、そこに立ったのはアレクだった。




