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婚約破棄までにしたい10のこと  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック③巻発売)


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22/35

22. 夜会

 仕立て屋が腕によりをかけて作ってくれた紺色のドレス。シンプルでかっこいい。

 

 上半身はぴったりと体に沿い、白と水色のビーズでデイジーの花が刺繍されている。下半身はシフォンでふんわりしていて、デイジーが思いっきり足を回しても邪魔にならない。ダンスで回転するとふわりと揺れて華やかになりそうだ。


 手首と腰に透け感のある大きな布がつながっている。フロートと呼ばれるこの布は、双頭のワシに捧げる神降ろしの踊りには欠かせない。デイジーが両腕を上げれば、優美に羽ばたいているように見える。


 ルークの前ではいつも髪はおろしていた。長い髪は、唯一デイジーが女っぽいと思えるものだったから。


 でも、今日はポニーテールにした。首回りがすっきりして、似合っていると思う。


 エスコートはいない。辺境女子四人で腕を組み、自分の名前にちなんだ花束を持ち、堂々と会場に入っていく。


 デイジーの仲間が給仕姿でひと口サイズのケーキを配っている。エリカ渾身の、自制心が弱くなり口が軽くなる薬が配合されたケーキだ。令嬢たちが給仕からの説明を聞き、目を輝かせる。


「パートナーと食べさせあいっこするんですって」

「キャッ、素敵」

「わたくしに二皿いただけて?」


 令嬢たちがケーキを手にとり、エスコート相手とあーんをし合う。


 会場の奥ではルークとフィービーがイチャイチャしながら、ケーキを食べさせ合っている。その周りに、辺境女子たちの婚約者も揃っていた。


 ギリッと一瞬、奥歯がイヤな音を立てたけど、デイジーはすぐに笑顔を浮かべる。


 ルークはちらりとデイジーを見て、表情を引き締めた。隣のフィービーは勝ち誇った顔をしている。


 音楽が始まり、ルークとフィービーが踊り始めた。


 周囲はざわめく。最初は婚約者と踊るのが普通だから。仲睦まじいふたりと、笑顔を張りつけるデイジーに注目が集まる。


 ふたりのダンスが終わったとき、入口の方から歓声が上がる。耳のいいデイジーには女子たちのささやきが聞こえる。


「まあ、素敵な貴公子が。どなたかしら」

「かっこよすぎますわ。足が長いですわ」

「お近づきになりたいですわ」

「イケメンが四人も。どうしましょう」


 来た。まだ会ってない婚約者たち。来てくれた。

 デイジーたちはすました顔で新しい婚約者を待つ。


 楽団が威風堂々とした行進曲を奏で始める。人垣が割れ、背の高い四人組がこちらに向かって歩いてくる。


 デイジーは視線を感じた。まっすぐにデイジーだけを見つめる目。


 鍛え抜かれた均整の取れた長身。

 紺色のタキシードがピシッと決まっている。

 

 ゆっくり静かに歩く姿は、大空を舞うイヌワシのように優美。

 柔らかそうな黒髪は丁寧にかきあげられている。

 

 日焼けした端正な顔立ちは近寄りがたい雰囲気があるけれど、まぶしそうにデイジーを見る瞳と笑みになりかけのカーブを描いた唇が、彼の少年ぽい純粋さを強く印象づけている。

 

 流れるようにデイジーの前に立ち、少し身をかがめるとデイジーの右手を取って軽く口づけ、「デイジー」と言いながら見上げる。


 目に浮かぶ熱情に、デイジーの世界から音が消えた。


「アレク?」

 どうして?


 アレクはすっと背筋を伸ばすとデイジーの左耳に口を寄せてささやく。


「父、ザルツシュタイン王の許可を取るのに時間がかかった。今まで言えなくてすまない。海で溺れているときに助けられてからずっと、デイジーが好きだった。今までもこれからも、デイジーだけを愛すと誓う。俺を信じてくれる?」


 デイジーは頭が混乱して答えられない。


「ごめん、すぐには答えられないよね。焦らないから、ゆっくり考えて。そうだ、これ」


 アレクがポケットから何かを取り出す。


「デイジーに似合いそうだなと思って」

「青い貝殻のネックレス。すごくきれい」


 領地の海を思い出す。


「つけてもいい?」

「うん」


 アレクがデイジーの首にネックレスをつけてくれる。ほんの一瞬、アレクの指が首に触れて、デイジーはビクッとした。


「よく似合う。今日のドレスにも合ってる」


 アレクの笑顔が本当に嬉しそうで、デイジーは頬が赤くなるのを感じた。


「あと、これも。はい」


 デイジーの花束。外側にはたくさんの鳥の羽根。


「こんなにたくさん?」

「実はもっといっぱいある。今日は厳選して持ってきた。アオサギ、ハヤブサ、カワセミ、ルリビタキ、ヒヨドリ」


 アレクが一つひとつ説明してくれる。すごい。アレクは本当に鳥に詳しいんだ。こんな人、いるんだ。


「ありがとう。うれしい」

 デイジーが照れながら微笑むと、アレクの目元がほんのり赤くなった。


「デイジー、俺と踊ってくれる?」

「うん」


 楽団がワルツの曲を奏で始める。デイジーのよく知っている曲だ。


「美しく青きリュベナーか。俺たちのファーストダンスにぴったりだ」

「知ってるんだ」


「デイジーに関することは、調べられることは全部調べた」

「そっか」


 涙が出そうになって、デイジーは少し上を向いた。アレクにここまで近づくのは初めて。胸がドキドキしすぎてうるさいぐらい。アレクに聞こえてないかな。


「アレクの目、黒いと思ってた。本当は深い青色なのね」

「アオサギの色だ。デイジー、俺のアオサギ」


 アレクがすばやくデイジーの頬にキスをする。


 キャーッと周りから声が上がった。デイジーは息が止まりそうになりながらも、クルクルと回る。時計回り、反時計回りを繰り返す。回っている間に、ちょっとだけ落ち着いた。


 ふたりで踊るのは初めてなのに、とても踊りやすい。自然なリード、軽く腰を押されるタイミングが絶妙で、引き寄せるときの力の強さも完璧。


「アレク、王子だったんだ」

「隠しててごめん」


「踊りが上手ね」

「マイルズと練習したからな」

「マイルズ兄さんと?」


 長身筋肉男子ふたりがワルツを踊っているのを想像して、デイジーは思わず吹き出す。


「デイジーの踊りを一番知ってるのはマイルズだから。マイルズには、デイジーになり切って踊ってもらった」


「おもしろすぎるんだけど」


 笑っているデイジーをアレクが軽々と持ち上げて優しく左から右に降ろしてくれる。


「わー、リフトも上手。重くなかった?」

「マイルズの半分ぐらいじゃないか。羽根みたいに軽い」


 アレクがいたずらっぽい顔をする。やばい。その顔はやばい。


「どうしよう」

「何が?」


「アレクに惹かれちゃダメってずっと気持ち抑えてたのに」

「マジで」


「だって平民だと思ってたから」

「第三王子だ。デイジーの両親と家族にも認めてもらった婚約者だ。あとは──」


 アレクが素早くデイジーの手にキスをして、耳元でささやく。


「デイジーの気持ち次第」

「好きになっていいんだ」

「好きになってよ。俺はデイジーをずっと好きだ」


 アレクにもう一度リフトされ、お姫さま抱っこみたいにされた。その状態でアレクが回りながらホールを大きく移動する。見ている人たちから拍手が起こる。


 音楽が止まり、アレクと見つめ合う。


「信じていい?」

「この命にかけて。デイジーを千年でも愛すと誓う」

「アレクを信じる。アレクを好きな気持ちを止めない」


 デイジーはアレクの頬にキスを返した。



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