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【連載版】婚約破棄までにしたい10のこと  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック①②発売)


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13/15

13. おいしいものを食べる①

 酒をあびるように飲み、思いっきり泣いて、辺境女子たちはすっかり痩せてしまった。デイジーは『婚約破棄までにしたい10のこと』八つ目、「おいしいものを食べる」に友人たちを誘う。


「今なら、ケーキを食べまくっても罪悪感ないよね」

「うちは屋台の肉系がいい」

「ほくほくのじゃがいもにチーズをたっぷりかけて食べまくってやる」

「大盛りパスタしか勝たん」


 全員が、全員の食べたいものにつきあう。

 

 まずはケーキからだ。


「婚約したてのときにルークと行ったカフェで食べまくろう。あのときは緊張して味が分からんかった」

「あるあるやね」


「うわー、メニューが光り輝いてるー」

「おいしそう、どれにするのよデイジー」


「まずね、乙女のためのイチゴケーキ、ふわふわスポンジにたっぷり生クリームを添えて、でしょう。そして、チョコレートムースとバニラクリームの幸せなマリアージュ、でしょう。あとは、牛もびっくり濃厚チーズケーキ、三種類のチーズを贅沢に使いました、かな」


「三ついくんやね」

「ケーキの名前、くどくね」

「うっ、聞いただけでちょっと胸やけが」


 ブツブツ言う三人だけど、デイジーと同じくケーキを三つずつ頼んだ。


「ひと口ちょうだいね」

「おーよ。ひと口と言わず、好きなだけ食べんさい」


 テーブルを埋め尽くす宝石のようなケーキ。デイジーはゆっくりと、確実に口に運んでいく。無言で咀嚼するデイジーを、三人は優しい目で見守る。デイジーがハッと目を見開く。


「あっ、大事なことアレクに言い忘れてた」

「なになに?」

「アレクって誰?」


「えーっと、アレクってのは、領地から来た青年で。アレクに新しい男に望む10のことを伝えたんだけどさ。一緒に食べるとなんでもおいしく感じる人っていうの、入れればよかったなーって。ほら、こうしてみんなとケーキ食べると超おいしいからさ」


「デイジー、君はなんてかわいいんだ」

「ほんそれ」

「アレクってイケメン?」


 リコリスとペティーがさっとエリカを見てから、デイジーににじりよる。


「え、うそ、そういうこと?」

「詳しくお願いします」


「え、あの、イケメンだよ。背が高くて、鍛えてる感じで。ちょっと見ぶっきらぼうな感じだけど、話すと怖くないし、笑うとかわいい」


「やったじゃん」

「デイジーにもう春が」

「おめでと」


 三人がハイタッチしようと両手を高く上げる。デイジーは慌てて止める。


「いや、待って。アレクは平民だから」

「ああああああ残念すぎるー」


 三人は天を仰いだ。


「デイジーのご両親、平民相手は許してくれたりなんて」


「しないんじゃないかなー。だって、兄ばっかりの末娘だもん。領地の未来のために、有望な貴族と結婚するのが私の務めだと思うよ。ルークと婚約が決まったあと、東の隣国の王子から婚約打診あったらしいし。詳しくは聞いてないけどさ」


「東の隣国というと、ザルツシュタイン王国か。塩の輸出でもうかってる国やね」

「アレクもザルツシュタインの出身だって言ってたな」


「アレクさんとやらもいい青年らしいし、良き国なんだろうね。今となってはそっちの王子にしておけばよかったかもね」

「ほんとほんと」


「そういえばアレクといえば気になることを言ってたな」

「なになに?」


「ほら、まえにフィービーの屋敷に入ったときにバラをみたでしょ」

「ああ、近頃流行のあまあまピンクバラ、フィービーローズね~。あれがどうかした?」


「正確にはフィービー宅にあったのはよく似た別品種だったけれど。王都はバラの匂いがいっぱいで、それをかぐと戦士の士気がさがるんだって」


「何それ、詳しく」エリカが身を乗り出す。


「まだあんまり調べられてないんだけど。リュベナーからきた私の一族の戦士たちが、あのバラは何かイヤな感じだって言ってる。エリカに相談しようと思ってたんだった」


 エリカはケーキにフォークを突き刺したまま、しばらく固まる。


「分かったかも」

「さすが天才名探偵エリカ様。それでそれで?」


「名探偵は証拠が揃うまで不確かなことは言えないのですよ。乞うご期待。それよりもケーキケーキ」


 気になるけど、エリカの顔を見ると教える気はないみたい。

 気分を切り替えて、四人でケーキをつつきながらタラレバの話で盛り上がる。

 ケーキが半分ぐらいなくなったところで、デイジーはフォークを置く。


「さて、王子の婚約者パワーを使いますか」


 さあ、ここからが本番だ。

 

 何も、ただ焼け食いするためだけにここに来たわけではない。これも計画の一部なのだ。

 デイジーはまだ王子の婚約者。ルークが愚かにも婚約破棄をとっておきのお楽しみにしているからだけど。


 王子の婚約者という立場には、大抵の無理は通せる力がある。華麗なる返り討ち計画のために存分に活用させていただきましょう。

 

 デイジーが呼び鈴を鳴らすと、店長が恭しい態度で入ってくる。


「ケーキとてもおいしくてよ」

 デイジーは立派に猫をかぶって高位貴族らしい鷹揚な態度で褒める。


 店長は感極まった様子で頭を下げた。


「わたくし、つい頼み過ぎてしまいましたの。残ったケーキを持ち帰りたいの。そうね、お盆に載せて丸い蓋をかぶせていただける? それなら馬車で運びやすいわ」


「もちろんでございます」

「そういえば、次の夜会でケーキを出すのよね? 楽しみにしていてよ」

「ありがたいお言葉でございます」


「ケーキを提供するだけでなく、店の人たちが夜会で給仕もするんですってね。大変ねえ。ルークも、そんなところで経費を節約しなくてもいいのに。どうせあれでしょう? ケーキを宣伝してやるんだから、ケーキも給仕係も無料にしろとか無理難題を──」


 店長は肯定も否定もせず、困り切った表情だ。

 その表情だけで十分だった。

 ルークが店主に無料奉仕を強いて困らせていることが態度から言外に察せられる。

 それなら、味方に引き入れるのは簡単。


「ルークを諫めるのもわたくしの役割のひとつですが、あいにくルークはわたくしの諫言に耳を傾けてくれないのよ」


 デイジーは、「困ったこと」とこぼし、首を傾げ「そうだわ」と明るい口調で続けた。


「せめてものお詫びに、ケーキ代はリュベナー家でもちましょう。請求書をこっそりわたくしに送ってくださる?」


「そんな、滅相もございません」


「あら、気にしなくていいのよ。そうね、リュベナー家から給仕係も出しましょう。ルークに気づかれると面倒ですから、ホホホ、内密に事を運びましょう。制服をいくつか貸してくださる? 気の利く子を夜会に送り込むわ」


「デイジーお嬢様、誠によろしいのでしょうか」


「ええ、よろしくてよ。そうだわ、屋敷に兄が来てるの。兄はケーキに目がないのよ。少し多めに包んでくださる?」


「はい、それはもう、喜んで」

 店長は何度も頭を下げて、出て行った。


 個室の扉が閉まり、足音が消えたのを確認してから、デイジーは神妙な顔で笑いをこらえている三人とハイタッチをする。


「鮮やか」

「お見事」

「やったね、これで薬を盛り放題。ひっひっひ」


 エリカが魔女みたいに笑う。


「ルークは夜会でも何も口にしないと思うけど、どうしよっかね」

「あいつ、そんなとこだけちゃんとしてんな」

「またフィービーの手作りケーキってことにするか」

「そこにフィービー本人もいるのに? 無理じゃね」

「なんか考えるわー、もうちょい待って」


 デイジーは制服とケーキを受け取り、優雅に馬車で帰った。



 翌日、四人はお腹をしめつけないゆったりとしたワンピースで街にくりだす。


「屋台の肉ー、食べるぞー」

「まだ昨日のケーキがお腹に残ってる気がするがー」

「あたしは大丈夫、多分」

「胃腸の働きを活発にする薬を飲み給え、君たち」


 三人はエリカがくれた胃腸薬を飲んだ。


 王都で最も活気のある市場に立ち並ぶ屋台の数々。香ばしい匂いが四人の鼻をくすぐる。


「さあ、リコちゃん。何を食べたいんだい?」

「まずはこの渦巻きソーセージだ」

「グルグルじゃん」

「目、目が回るー」


 ペティーとエリカが目を押さえる。


「はいはい。食べるよ。皮がパリッ、肉汁じゅわー、むっちむちに詰まったお肉は塩気がきいてて、ビールがすすむね」


「リコちゃん、食レポ上手」


 リコリスの食べ残した渦巻きソーセージを三人で回し食べる。これが屋台の醍醐味。


「次は串焼き肉。野菜と肉がバランスよく食べれるのがいいところ」


 リコリスがネギと鶏肉をむしゃりとやって、残りをデイジーに渡す。


「これ、後になればなるほど食べにくいやつじゃん」

「あ、あたしもう一本頼んでくるー。半分エリカにあげるー」

「おい。まあいいけどさ」


 デイジーとエリカは食べにくい後半部分を苦心しながら食べた。


「次は、令嬢は絶対食べない巨大骨付き肉ー」

「わんぱくー」

「領地ではよく食べたな」

「うっ、見ただけで胸やけが」


 周囲の人たちに目を丸くして見られながら、四人はなんとか食べきった。


「肉を食べると幸せな気分になるよね」

「途中から戦いみたいになってくるけどね」

「食べ過ぎて眠くなってきた」

「もう動けない」


 とろんとした目のペティーとエリカを見て、デイジーがポンッと手を叩く。


「それだ。みんなのおかげで思いついた。夜会のとき、貴族たちの護衛をなんとかしなきゃと思ってたけど、肉で釣ろう。ちょっと交渉してくるー」


 デイジーは渦巻きソーセージ、串焼き肉、巨大骨付き肉の屋台に行っては、気さくに声をかけている。肉屋のおじさんたちは、面食らった様子だったけど、デイジーの話を聞いてニコニコし始める。


「じゃあ、詳細はまた改めて、後日に」

「はい、あざっす」


 肉屋のおじさんたちが満面の笑みで、三人の元に戻ってきたデイジーに手を振る。


「どういうこと?」


「夜会のとき、王宮の庭で屋台出してもらおうと思ってさ。肉にかける塩コショウに、エリカの眠り薬をまぜれば、護衛が寝るんじゃないかなーって」


「お、おお。色々と調整しなきゃいけないことはあるけど、なんとかなるかも?」


 目を白黒しているエリカの肩に、デイジーは腕を回す。


「細かいことは後で考えよう。なんとかなるなる」

「たくさんの護衛を気絶させるのは大変だもんねー。眠り薬でおとなしくさせられるなら、いいと思うな」


 気絶エキスパートのペティーが笑顔で頷いている。


「明日食べにいく、じゃがいもチーズも王宮で出せるといいね」

「交渉してみるね」


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