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【連載版】婚約破棄までにしたい10のこと  作者: みねバイヤーン(石投げ令嬢フルカラー電子コミック①②発売)


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12/16

12. 思いっきり泣く

 失恋の特効薬は泣くことだと、色んな恋愛小説に書いてあった。読んで胸を高鳴らせた甘い出来事の数々は、ちっとも起こらなかったのに、失恋だけは経験するなんて。なんたる皮肉。

 

 運命の非情さにおののきながらも、デイジーは先人の教えに従って、恥も外聞もなく感情を吐き出すことにする。


「くやしいけど、好きだったんだよなー。あの顔で見つめられたらなんも言えんかった」

「都会的センスあふれる上品男子にメロメロだったのに」

「甘い言葉は言ってくれない、手紙はまめにくれるところにキュンとしてた」

「キザな仕草も絵になるところ、いつもドキドキしてた」


 強気に見せてるけど、心の中は傷だらけの辺境女子たち。

 それぞれ、思い思いに泣いた。


 不思議なことに涙は次から次に湧いてきた。

 

 ろくに贈り物ももらっていなかった薄情な関係とは言え、辺境女子のうぶな恋心はたしかに傷ついていたのだ。煙が目に染みる。泣きたくなくても涙がにじむ。

 

 デイジーも、リコリスも、ペティーも、エリカも、王都に来てから何度も恋バナを交わし合ってきた。だからいつしか、一人の思い出はみんなの思い出にもなっていた。デイジーの涙は、リコリスの涙。ペティーの涙は、エリカの涙。みんなで泣こうと決めたら、辺境女子はいつまでだってどこまでだって泣けた。

 

 炭がはぜる音がして、思い出の品だった灰が舞う。


「私たちのことだけを愛してくれる新しい婚約者がほしいね」


 誰ともなく口をついて出た言葉を最後に、涙はようやくとまった。


 焚き火に温められた風が、そっと辺境女子たちの涙を乾かすようにさらっていった。


***


 王都から西にずっと離れた草原地帯に風が吹いた。

 放牧された馬が耳をピンと立てる。

 ひとりの女性が早馬で届けられた手紙を持ち、速足で執務室に向かった。


「お父さまー、お母さまー、リコリスから手紙が届いたわ。読むわよ。えーなになに。デイジーの婚約者ルークがピンク髪と浮気した。ピンク髪はうちの婚約者、近衛騎士見習いにも手を出した。大至急、新しい男をご用意されたし、ですって。はー? どういうこと? リコリスー?」


 リコリスの姉が叫ぶと、両親が「落ち着きなさい。もうひとつの分厚い手紙はなんだ」と聞く。


「あら、これはデイジーの叔父からだわ。ほうほう、あらあら、まあまあ。なるほど。お父さま、お母さま、わたくし大至急、兵を率いて王都に向かわなければ」


 リコリスの父はため息を吐くと、分厚い手紙を受け取り自分で読む。


「なるほど。両陛下が領地巡回中の暴挙と。四つの辺境で手を組み、王家の暴走を食い止めるのはいかがか。場合によっては王都を乗っ取ることもあり得る。なるほど、よいではないか」


「王家が直々に打診された、辺境領地との絆を強めるための婚約でしたのに。王子自ら台無しにするとは。そもそもリコリスとあの近衛騎士見習いとの婚約も、王子の側近が辺境領地と縁を深めるためでしたのに。ええ、そういうことでしたらよござんす。うちのリコを傷つけるものには容赦いたしません」


「新しい男は、彼にしましょうか。なんていいときに馬を買いにきてくれて。フフフフ」


 三人は領地を訪れている、身分が高く、見た目も性質もいい男性を思い浮かべた。


「彼ならリコリスも気に入るだろう」

「彼に打診してみましょう」

「そうと決まったら、早速」


 リコリスの家族は決断が速い。あっという間に交渉を終え、出発の支度が整った。


「では、お父さま、お母さま、行ってまいります。リコリス、お姉ちゃんが助けに行くわよー。待ってなさーい」


 リコリスの姉は新しい男と精鋭と駿馬を引き連れ、風のように王都に向かった。



 王都から遥か南。霧雨けぶる黒い森に風が吹いた。

 魔物と死闘を繰り広げた後、兵を率いて屋敷に戻ってきた領主は手紙を読み、すぐに角笛を吹いた。

 戦える者たちが全員庭に集まる。


「護衛見習いがペティーを裏切った。ペティーが新しい男を欲している。我こそはと思う者は前に出ろ」


 男たちが前に出る。魔物がひと目でしっぽを巻いて逃げ出しそうな面構え。勇猛な、漢の中の漢。


「父上、お待ちください。ペティーは面食いです」


 ペティー姉の言葉に、男たちがしゅんとして後ろに下がる。


「わたくしに心当たりがございます。ペティーが気に入り、我が領地に利のある相手を連れてまいりましょう。力づくでも」


「よし。そなたに最速最強の魔狼軍を与える。男を捕え、ペティーの元に連れて行け」

「御意」


 ペティー姉は魔狼軍を引き連れ、王都とは逆方向に走った。まずは、男だ。

 


 王都の遠く北にある学術都市に風が吹いた。

 破壊的創造から、秩序と理論が繰り返し再構築される、奇妙な緊張感を保った辺境の学術都市に、新しい火種がもたらされた。


 領主であるエリカの母が手紙をパサリと机に投げ出す。


「さて、どうしたものかしら」

「わたくしが」

「いえ、わたくしが」


「ずるーい、わたくしだって王都に遊びにいきたーい」

「ちょっとー、取り繕ってたのに、本音言わないでよ。そりゃ、みんな王都に行きたいんだからね」


 エリカの姉たちが降ってわいた王都旅行に目の色を変える。


「ここにはない本がきっとあるわよ」

「新しい研究論文とか」

「おもしろい毒物、新しい薬草」


「はいはい、ではいつも通り、プレゼンをしてもらいましょう。最優秀者に王都行きを頼みます」

「はーい」


 エリカの姉たちは優秀な頭脳を振り絞って王都奪還プランを練り、コネを駆使して新しい男を探した。


「やったー、いえーい」

 エリカの四番目の姉が権利を獲得し、ぴょんぴょん跳ねる。


「分かってると思うけれど。計画はあくまでも机上。実行に移すときには、関係者、特にデイジーさんの意見を尊重すること。実働部隊はあちらですからね」


「分かってるってば、お母さま。わたくしたち、武力はいまいちですものね。エリカの友だちの武闘派一族とうまくやってきまーす。新しい毒を試せる機会があるといいなー」 


 エリカの姉は見つけ出した新しい男と共に、馬車で王都に向かった。



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