11. 思い出の品を燃やす
辺境女子たちは、庭でたき火を囲んでいる。デイジーの『婚約破棄までにしたい10のこと』の六つ目
「思い出の品を燃やし、思いっきり泣く」のためだ。
デイジーの故郷にある風習。真冬の満月の夜、海辺で巨大なたき火をする火祭り。一年を振り返り、新しい春の訪れを待ち、五穀豊穣を祈る。
辛いことがあった人は、それを思い出させる物をたき火にくべ、悪を払う。
良いことがあった人は、神への感謝の意を込めて、ちょっとした贈り物を焚き上げる。
合間に魚や芋を焼き、食べて踊って歌って、領民一同と大騒ぎをするのだ。
冬でもないし、満月でもないけれど、いいじゃないか。神さまはいつだって受け入れてくれるはず。神さま、辺境女子四人の傷心が癒されますように。
デイジーが手紙を掲げた。
「ルークから手紙が来た。次の夜会は一緒に出れない。他のエスコート相手と来たまえ、だって」
「うちも、ほぼ同じ内容が近衛騎士見習いから届いた」
「あたしも、護衛見習いから」
「アタシも、宰相補佐見習いから」
四人が手紙をびりびりに破り、たき火にくべる。
「一応ね、念のためね、会ってお話しませんかと返事を書いたんよ。自分の口から婚約解消を告げてくれないかなーとね、わずかばかりの期待をしておりました。返事は来ませんでした」
「ヘタレめ」
「腰抜け」
「誠意の欠片もないあんぽんたん」
四人は目を合わせてうなずく。
「こちらからの最後の温情を無下にした以上、なにひとつ遠慮することはないなと、ええ」
「やったんでー」
「もう情けは無用」
「デイジーのとこの魚や貝の毒に詳しい女性、すっごい知識もってて助かるー」
四人は不敵に笑った後、少し神妙な顔をする。それぞれ、宝物箱から思い出の品を取り出した。
「初めてもらったバラのコサージュ。ドライフラワーにしてたんだ。だって、嬉しかったんだもん。乙女心を踏みにじりやがって、あいつー。燃えてしまえ」
デイジーはドライフラワーを握りつぶし、炎の中に投げた。火の粉が舞い、デイジーの前髪をわずかに焼いた。
「初めてのデートでもらった髪飾り、もうつけない」
リコリスは、髪から赤い髪飾りをはずし、たき火の中に投げる。
「もらった手紙、毎日読み返してたけど、燃やしてやる。ついでにあいつも燃やしたいー」
ペティーは、手紙をびりびりに破いて、火にくべた。
「会えない時もお互いを思おう。そんな甘い言葉いいやがってー。バカバカバーカ」
エリカは婚約者の髪ひと束を火に放った。
しばらく沈黙が続き、デイジーがポツリと言う。
「あれ、もう燃やす物がない」
領地だと、夜明けまで騒ぐんだけど。子どもの頃は、大人と一緒に朝まで起きていられるこのお祭りが特別だったんだけど。やっぱり四人じゃ、すぐ終わっちゃうのか。いや、それだけじゃない。
デイジーは言いたくなかった、目を反らしていた事実に向き合った。
「冷静になるとさ。二年の婚約期間の思い出の品がこれだけって、少なくね」
「うちら、プレゼントもらってなさすぎじゃね!?」
「あたしなんて、手紙しかないんですけどー。その手紙の中身もだいたい、どこの筋肉にはどんな運動すればいいとかの情報交換。色気がない」
「髪をひとふさ交換するって、めちゃ甘々と思ってたけど。よくよく考えると、髪って簡単で安上がりだよね。アタシってあいつにとってそこまで価値がなかったんか」
四人は宝箱も火に入れると、ベンチに座ってたき火で焼いた芋や魚を食べる。
「思い出の品が少ないから、お焚き上げ儀式が一瞬で終わってしまった」
「食べよう。たき火で焼くとなんでもおいしいねえ」
「やきいも、うっま」
「ねえ、燃やす品がなくなっちゃったからさー、次の工程いくー?」
課題をこなすようにテキパキと次に進みたがるエリカに、他の三人が待ったをかける。
「エリカちゃんや、余韻を楽しもうよ」
「魚食べ終わるまで待って」
「いも、のどにつまる」
「はい、水」
エリカがペティーに水を渡し、デイジーとリコリスがペティーの背中を叩いた。
「じゃあ、ムードもへったくれもないけど、次に進もうか。私が『婚約破棄までにしたい10のこと』の七つ目、思いっきり泣く、だ」
デイジーは咳払いする。涙、出るかな。魚食べたばっかりだけど。




