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『境界断ちのノベェンタ』 〜観測整合維持局 第七補正執行室 野部遠汰の場合〜  作者: nobunobuwo


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第七十六話 「厨二病という現象は、“人類が自我形成途中で世界観を過剰摂取した結果、一時的に詠唱と黒コートへ魂を預ける通過儀礼”です」


 高知県。


 東央マテリアル地下第三層。


 午後七時四分。



 対策部。


 静かだった。


 白色灯。


 サーバー音。


 エナジードリンク。


 現実安定率モニター。



 そして。


 野村部長。


 黒いロングコートを着ていた。



「……部長」


 佐伯が真顔で言う。


「なんですかその格好」



 野村部長は、静かに振り返った。


 右手で前髪を払う。


「――“封印”が疼いてねぇ……」



 沈黙。



「うわ始まった」



 しかも。


 眼帯。


 増えていた。



「ちなみに厨二病、“身体のどこかへ設定を追加し始める”段階あります。右目、左腕、封印、異能、古代血統。この辺、人類かなり通る。特に〇〇の力を制御できない系、“自分の未成熟さ”を物語化することで精神バランス取ってる側面あるので。あと黒コート、“自分のシルエットへ情報量を足せる”ので厨二文化と相性異常に良いんですよ。風で翻るだけで強キャラ感出る。人類、布が揺れるだけでかなりテンション上がるので」


 ノベェンタがコーヒーを飲みながら言った。



「布への信頼が強すぎる!」



 その時。


 空気が、少し軋む。



【真名】


【封印】


【漆黒】


【終焉】


【混沌】


【神殺し】


 黒い文字列。


 空間へ浮かぶ。



「……来ましたね」


 アインが静かに呟く。


「“厨二病型認識汚染”です」



 モニターが赤く染まる。


【思春期侵食率:急上昇】


【詠唱密度:危険域】


【黒コート指数:測定不能】



「最後どういう測定項目なんですか!」



 その瞬間。



 対策部の床へ、巨大魔法陣。


 紫黒色。


 禍々しい。


 無駄に光る。


 そして。



 佐伯の服が変化した。


 赤いビキニアーマー。


 黒マント。


 右腕へ封印鎖。


 眼帯。



「えっ」



 さらに。



 アイン。


 白銀長髪化。


 蒼眼。


 魔導外套。


 肩へ浮遊魔法陣。


「……なるほど」


 ちょっと嬉しそうだった。



「順応早いな!?」



 ノベェンタは、静かに空間を見る。


「厨二病文化、“自分だけの設定”を生成する事で世界へ居場所作る側面かなりあるので。“自分は普通じゃない”って、思春期には案外重要なんですよ。人類、十代で急に“自分という個体”を意識し始めるので。その時、“選ばれし者感”へ逃げる。あとオタク文化、“設定資料集”という概念で世界観中毒を加速させた歴史あります。“本編未登場の古代戦争”とか見せられると人類かなり弱い。“語られてない情報”へ異常ロマン感じるので」



 リゼが、紫色の魔導ローブ姿で笑う。


「つまり人類、“意味深な単語”へ弱いのね」



「かなり弱いです。“零式”“終焉”“禁書”“深淵”“緋色”“断罪”。この辺並べるだけで、だいたい強そうになる。あと漢字とカタカナ混ぜると急に厨二濃度上がる。“冥界滅殺ブレイド・ノヴァ”みたいなの、人類かなり好きなんですよ。意味は半分くらい雰囲気ですけど」



「語感だけで押し切る文化!」



 その時だった。


 黒い裂け目。


 そこから現れる。


 巨大な存在。


 黒コート。


 翼。


 鎖。


 赤い瞳。


 そして。


 無駄に長い肩書。


『我が真名を識るとは、

即ち“世界法則”への反逆を意味する――。


混沌は胎動し、

終焉は産声を上げ、

無限世界樹の根幹すら我が魔力へ跪く。


万象崩壊。

時空断裂。

次元侵食。

存在否定。

魂魄圧縮。

因果反転。

概念抹消。


その全てを統べる者。


我が名は――

“第一級終末指定災厄・多元宇宙侵略型冥界煉獄封印解放殲星覇滅竜皇”

ディアボロス・アポカリプス=レヴァンティン・アビス=クロノス・ネオ・インフィニティ・ジェネシス・エクリプス=ヴァルザリオン”!!』



 沈黙。



「長い長い!」



 だが。



 ノベェンタは、少し感心していた。


「九〇年代後半ライトノベル〜二〇〇〇年代アニメ文化圏影響強いですね。“横文字+漢字二つ名+終末概念”で構成されてる。あと厨二ネーミング、“世界規模の単語”使いがちなんですよ。“宇宙”“終焉”“無限”“混沌”。思春期、“自分の感情だけ異様に巨大に感じる時期”なので、スケール感も肥大化する。あと詠唱文化、“長いほど強い”という謎信仰かなりあります。“短い技名=実戦的”“長い技名=ロマン型”へ分岐するので」



 リゼが肩をすくめる。


「人類、昔から“意味深で長い名前”好きすぎない?」



「神話、聖書、仏典、戦国武将の刀銘、全部長いですからね。人類、“名前へ物語を圧縮する文化”かなり古い。あとオタク、“正式名称フルで言える事”へ妙な誇り感じる。“正式詠唱全部覚えてる”って、かなり青春なんですよ」



 その瞬間。


 野村部長が、立ち上がる。


 黒コート翻る。


 眼帯発光。


「――来い。“漆黒冥府胃痛封印深淵最終決裁滅殺暗黒経費申請黙示録ヘルズ・オブ・エンドレス・デスクワーク・ジ・アポカリプス”」



 ゴォォォッ!!


 腹巻が光る。


挿絵(By みてみん)



「暗黒経費って…しかもなんで腹巻だけ現実なんですか!」



 アインも前へ出た。


 銀髪。


 魔導陣展開。


「《永久凍結静寂終端魔導絶対零界因果停止術式・アブソリュート=ゼロ・クロニクル・ネメシス・シンギュラリティ》」



 空間凍結。


 エフェクトだけ無駄に神作画。



「アイン先輩めちゃくちゃ楽しんでません!?」


 佐伯も負けじと叫ぶ。


「もう〜っ《紅蓮境界断裂因果収束超位殲滅破城槍術・インフェルノ・ブラッドライン・ジャッジメント・ディザスター・オーバーロード》――!!」



 赤い魔力爆発。


 床崩壊。


 コピー機浮遊。



「会社壊れる壊れる!」



 リゼが、杖を掲げる。


「《紫銀魔界永久封鎖終末月蝕魔導結界・トワイライト・カタストロフ・エターナル・ナイトメア♡♡♡》」



 ♡が付いていた。



 ノベェンタは、静かに頷いた。


「厨二病、“恥ずかしい黒歴史”扱いされがちですが、実際には“自分だけの物語を必要としてた時期”なんですよね。人類、成長途中で一回くらい“世界を変えたい”って思わないと、逆に心が乾くので。あとオタク文化、“想像力へ居場所を与え続けた”功績かなり大きい。“現実だけじゃ息苦しい”人類を、創作が何十年も救ってきた。だから厨二病、“未熟”というより、“まだ世界を信じてた時代”なんですよ」



 静寂。


 黒い存在が、少し止まる。


『……世界を……信じる……』



 その時。キノピー協力


 キノピーが、黒剣へ変化した。


 漆黒。


 もふもふ。


 無駄に神々しい。


「にゃ」


 ノベェンタが、静かに握る。


 黒い粒子。


 紫電。


 空間歪曲。


 対策部全体の照明が落ちる。



「――《超時空量子境界観測因果律崩壊終末否定黒猫神話最終封印解放術式・ネコチャン∞クロニクル・ディメンジョン・オブ・アビス・エクリプス・リベリオン・ジ・エンド》」



 斬撃。



 空間ごと、優しく裂ける。


【中二卒業】


【でも嫌いじゃない】


【黒歴史保存完了】


 文字列が、静かに光へ変わる。



 風。


 静かな対策部。



 野村部長が、そっと眼帯を外した。


「……なんかちょっと若返った気分だなぁ」



 リゼが笑う。


「まあ、“カッコつけたい”って気持ちくらいないと、人類やってらんないわよね♡」



 ノベェンタは、少しだけ笑った。


「人類、“意味ない憧れ”で結構生き延びるので」



 地下第三層。



 今日も対策部は、やっぱり楽しそうだった。


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