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『境界断ちのノベェンタ』 〜「観測者が意思決定した瞬間、世界線は収束します」意識高い系エリート社畜、たまに世界を救う  作者: nobunobuwo


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第一話 「シュレーディンガー的には、この残業はまだ確定していない」

ちょっと投稿してみます。

 午前〇時五十八分。


 地方都市の外れ。


 工場地帯の排熱で、夜なのに空気が少しだけぬるい。


 遠くで大型トラックのエアブレーキ音が鳴る。


 築三十二年。


 東央マテリアル第二社宅。


 外壁は薄く黄ばんでおり、共用廊下の蛍光灯は一つだけ点滅していた。


 隣人のくしゃみが聞こえる。


 上階の足音も聞こえる。


 エアコンは時々「キュルル……」という終末感ある異音を出す。


 ユニットバスは排水が弱い。


 典型的な、“人生に疲れた独身男性”向けの部屋だった。


 六畳ワンルーム。


 安いローテーブル。


 モニター三枚。


 ノートPC三台。


 コンビニコーヒー。


 エナドリ。


 積み上がる会社資料。


 そして。


 青白いモニター光に照らされる男——野部遠汰。


「……はい、利確」


 カチ。


 数秒後。


 画面右上。


 +3,182,440。


 月次利益。


 だが遠汰はまるで興味なさそうだった。


「まあ米国債利回りと中東情勢のボラティリティ考えると、わりと素直な値動きでしたね。あと最近アルゴ系増えすぎて“人間の恐怖”より“AI同士の誤解”で市場動いてる瞬間あるんですよ。現代金融って実質的に高速で殴り合う認知バイアス群なので、もはや量子力学というより集団幻覚に近いです」


 冷えたペペロンチーノを食べる。


 麺が少し固まっている。


 だが嫌いじゃない。


「ちなみに冷えたオイル系パスタって、温度低下で香り成分の揮発量落ちるので味薄く感じるんですが、逆に塩味だけ残るから“労働後の疲労脳”とは妙に相性良いんですよね。あとニンニクって紀元前エジプトで労働者のスタミナ管理に使われてたので、実質的に古代から社畜食です」


 誰もいない。


 だが最後まで話す。


 スマホが震えた。


 社用チャット。


 課長。


『野部ェ!!!!!!』


『資料まだか!!!!』


 遠汰は即座に返信する。


『完了しています』


『あ?』


『課長向け安心材料重視版、役員向け責任分散版、現場向け現実逃避防止版の三種類を格納済みです』


『なんで三つもあるんだよ…』


『組織って単一知性体ではなく、“立場ごとに観測可能情報が違う多層認知構造体”なので、同じ資料でも“誰が読むか”で最適解変わるんですよ。あと会議資料って情報伝達ツールではなく、“責任分散の儀式媒体”として運用されてる側面あるので、実は内容より安心感の設計が重要です。ちなみに日本企業の稟議文化って中世教会の免罪符システムと構造かなり近いです』


『会社を宗教史で語るな!!』


『ありがとうございます』


『褒めてねぇよ!!』


 プツ、ツーツー…


 遠汰はコーヒーを飲む。


 ぬるい。


「日本企業って、本当に量子論っぽいですよね。責任の所在が観測されるまで曖昧な状態で漂ってるので。あと部長が来た瞬間に会議の空気変わるじゃないですか。あれ完全に観測者効果なんですよ。波動関数収縮です。ちなみに“なんとなく偉い人の意見に寄る”って、人類が群れで生存してた頃の危険回避本能の名残らしいです」


 止まらない。


「あとカップ焼きそばでキャベツ落とす現象って、あれ麺の重量移動で容器重心ズレるのと、人類の手首回転角度が雑だからなんですよね。ちなみにタコは寝てる時に色変わるので夢見てる可能性あります。あとラッコは寝る時に手繋ぎます」


 最後まで言い切る。


 その時。


 スマホが再び震えた。


 個人LINE。


 送信者。


『九条先輩』


 遠汰の目が少しだけ柔らかくなる。


 大学院時代の先輩。


 九条理沙。


 一つ上。


 量子情報理論研究室所属。


 ほぼ喋らない。


 目を合わせない。


 飲み会ゼロ。


 だが論文だけ異常に強い。


 教授ですら少し引いていた。


 メッセージ。


『お疲れ様です』


『明日のオンライン会議URL違います』


 遠汰は即座に修正版を送る。


『ありがとうございます』


『あと最近寒いので体調気をつけてください。人間って気温低下すると免疫系が呼吸器側へリソース寄せるので、疲労状態だと普通に風邪引きやすくなります。あと冬場にメンタル落ちやすい人いるんですが、日照時間低下でセロトニン量減るのが理由ですね』


 既読。


 数秒後。


『……はい』


 短い。


 相変わらずだった。


 遠汰は少しだけ笑う。


「懐かしいですね」


 大学院時代。


 研究室の隅で永遠に論文読んでいた人。


 普段は静かなのに、


 量子論の話になると急に早口になる人。


 最近少しだけ仕事を一緒にしている人。


 ——そして。


 異世界では。


 全然別人だった。


 カタ。


 部屋の隅。


 黒い大剣が揺れる。


 空間が歪む。


 空気が軋む。


 境界干渉。


 しかもかなり大規模。


 遠汰はため息を吐いた。


「……またですか。最近ほんと発生頻度高いですね。もしかすると世界境界側の位相安定性落ちてるのかもしれません。あと異世界転移って創作だとロマン扱いされがちですが、実際やると時差と重力感覚ズレるので普通に酔います」


 非通知着信。


『ノベェンタ!!』


 女性の声。


 焦っていた。


『空が裂けてる!! 早く来て!!』


「はいはい」


『今回は本当にヤバいのよ!?』


「毎回言ってますね」


『だって毎回ヤバいの!!』


 野部遠汰——いや。


 異世界で《境界断ちのノベェンタ》と呼ばれる男は、静かに立ち上がる。


 ネクタイを緩める。


 灰色の瞳。


 その奥だけが異様に深い。


「ちなみに人間ってストレス状態だと甘い物欲しくなるじゃないですか。あれ脳が即時エネルギー要求してるのもありますけど、“心理的報酬不足を糖分で誤魔化す行為”でもあるんですよね。だからブラック企業ほど差し入れ文化発達しがちです。あと羊羹って保存性高いので登山界隈で妙に人気あります」


『今その話!?』


「重要です」


『羊羹の立ち位置どうなってんの!?』


 遠汰は黒い剣を持つ。


 瞬間。


 六畳間の空気が沈んだ。


 世界法則から外れた圧力。


 窓ガラスが微かに軋む。


「では行きますか」


『早く!!』


 空間が裂ける。


 黒い境界。


 異世界への扉。


 その直前。


 遠汰はふと思い出したように呟いた。


「そういえば九条先輩って昔から“静かなのに圧だけ魔王級”みたいな雰囲気ありましたよね。あと猫って無言で近づいてくる時ほど強い」


『猫で締めるな!!』


 次の瞬間。


 社畜は、世界の境界を越えた。

ちなみにWeb小説文化における「ブックマーク」と「評価」という行為、人類史的にはかなり面白いんですよね。


 昔の物語って、基本的に“王侯貴族か宗教組織のスポンサー付き”だったんです。つまり創作者、「面白い作品を書けば読まれる」以前に、“まず飯を食える環境”が必要だった。


 ですが現代インターネット文明、人類はついに「好き」を直接数値化して作者へ投げるシステムを作ってしまった。


 ブクマ。

 感想。

 評価。

 レビュー。


 これ全部、“面白かった”を可視化するための現代型焚き火なんですよ。


 特にWeb小説作者、“更新通知”と“評価ポイント上昇”で寿命が数日延びる傾向あります。MMORPGでレアドロップ出た瞬間テンション上がるのとかなり近い。あと深夜二時に「ブクマ増えてる……」を見ると、脳内で謎の生存肯定感が発生するので。人類、意外と「読んでる人いるよ」の一言で頑張れてしまう生物なんです。


 なので。


 もし少しでも面白かったら、

 ブックマークや評価を頂けると、

 作者のHPとMPと現実接続率がだいぶ安定します。


 ちなみに創作者、「次も書こう」と思える最大理由、“誰かが続きを待ってる”なんですよね。


 では。


 あなたの読書人生へ、

 少しでも妙な彩りを追加できていたなら幸いです。

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