3. 同じ形の言葉
港を一周するだけで、言葉は集まった。
荷捌き場では、若い男が木箱を戻していた。
「急いで出して割れるくらいなら、倉庫で待たせた方がいい」
通信所の前では、伝言を出しに来た老人が紙を畳み直していた。
「今送って返事が悪かったら困る。書かないでおけば、まだ悪い返事ではない」
風見塔の下では、子どもが小さな飛行模型を抱えていた。翼の片方が折れている。直すための糊も紐も持っているのに、子どもは欄干に座ったままだった。
「飛ばしたら、また落ちるから」
どれも違う声だった。
荷を守る声。返事を怖がる声。模型を抱える声。
なのに、最後に落ちる場所が同じだった。
桟橋の奥を、揃いの上着を着た数人が通り過ぎた。書類を抱えて、立ち止まらない。止まっている港の中で、その足だけが別の音を立てていた。
ダッタは記録板に三つの言葉を並べた。並べると、三つはひとつの文章のように見えた。
出さなければ、割れない。
送らなければ、悪い返事は来ない。
飛ばさなければ、落ちない。
「似すぎてますわ」
キールの声は低い。
「でも、同じ人が言わせている感じではありません。皆さん、それぞれの痛いところから話しています」
「だから厄介です」
ギータが札の写しを一枚ずつ分けた。
「自分の言葉に見えるなら、外から来たものだと気づきにくい」
ボイロは観測紙を三枚並べた。三枚とも違う線を出している。だが、端だけが同じ角度で折れていた。
「途中まで違います。でも最後の曲がり方が同じです」
ダッタはその角度を見た。
小さな線。
右へ行くでも、左へ行くでもない。行き先を書く直前で、手首だけが戻る角度。
「アンさん」
呼ぶと、アンは少し遅れて顔を上げた。
「この曲がり方、見たことありますか」
アンは観測紙を見た。見て、すぐに答えなかった。
風見塔の影が、足元をゆっくり通り過ぎる。港には風がある。出るには足りる。少なくとも、完全に止まる理由には見えない。
アンは袖口の紐を一度だけ押さえた。
「昔、似た線を描く人がいた」
ダッタの手が、記録板の端を強く握った。
「あの人ですか」
アンの視線は、港の向こうへ逃げなかった。
ただ、答えも置かなかった。
「線だけで人を決めるには、まだ早いかな」
「でも」
「でも、見ないふりをするには遅いね」
それ以上は言わなかった。
言わなかったことの方が、名前に近かった。




