037 御恩と報告~健全な取り引きです
ネムネムたち勇者三人娘のステータスを更新してます。
《師匠》
「……むにゃむにゃ、揉み応えのあるおっぱいを揉みたいよ~」
深夜、幼女が寝静まりその寝言に周囲はドン引きしつつ聞かなかったことにしている一方、一人隠れ家を離れる人物がいた。
「ぶえっくしょい!」
ダメージ以外で身体に不調を感じたことなどなかったのに……と独り言ちる。
「今宵は珍しいものを見れましたね」
「……ほっとけ」
「いけませんねえ。本来の立場は対等ですが、今は雇用主と雇われの身なのですから」
「……自分で言ってりゃあ世話がねえ。そんなことよりもお待ちかねの報告だ」
「せっかちですね」
「こっちは妻が恋しくてな。こんな寂れた場所にいるぐらいならさっさと帰りたいんだよ」
「……寂れたって、まだ民がいる土地なのですからその言い方はやめませんか?」
「ようやく巣が出て来たか。まったく、上司にどういう風に言われたのかは知らねえがいちいち人をおちょくるような態度を取るんじゃねえよ」
「まあ、いろいろと思うところがあるのでしょう」
「ったく……まあいい、それよりも本当に始めよう。早く帰りたいのは本当なんだからな」
「わかりました。では、まずはこちらを」
理由がわかっているので、すんなりと頷き革の袋が差し出された。
「今回の報酬となっております」
「……悪いな」
「お気になさらず。必要経費だと思っておりますので」
「それでも、だよ」
本来の関係ではこのように金銭のやり取りをする必要などない。だが、誰が見ているかもわからない状況でかつ相手の正体を知られるわけにはいかない以上は仕方のないやり取りだった。それはわかっているが、心情的に複雑なのもまた事実。謝罪を口にすることで自分の気持ちを少しでも楽にしておきたいと思うのはやはり元日本人だからだろうか。
「さて、それでは本題の報告ですが……」
「わかってる。どうせ、依頼の方はいらねえって言うんだろ?」
「……申し訳ありませんが、達成されたことはわかりきっていますからね。ですが、詳細について特に彼女らの能力に関することでしたら報告をお願いします」
「元からそのつもりだよ。……極めて簡潔に説明すると、三人の内一人が自分のスキルの可能性に気付いてそれを実行し、上手くいった。これがすべてだ」
本当にあったことを要約して伝えたのだが、さすがにそれでは伝えきれない。
全体の流れだけを説明して、あとは聞かれたことを細かく伝えていく。相手が聞きたいことは基本的に異世界人の実力なのであり、彼女らの使役するアンデットの実力については興味はない。
「……なるほど。ずっとスキルの使い方について考えていたと」
「らしいな」
「聞いていた話よりも頭の回るタイプの少女みたいですね」
「だよな~。オレも意外だったぜ。てっきり委員長ちゃん以外は直感型だと思ってたからな」
「ですが、安心しましたよ」
「……たしかにな」
考えなしほど怖い存在はいない。それについては嫌というほど身に染みている。一人はその身に一生消えない傷を負い、もう一人は心に深い傷を負ったのだから。
「それに面白い使い方です。初めに来た時は何の役に立つのかわからないスキルだと思ったものですが……」
「ネムネムは『真の勇者』、委員長ちゃんたちは戦闘面で表には出し難いがサポートだったら十分に期待できるスキルだ」
「今のところはレベルも低いですし、あなた方もいるのですから戦闘面で困ることはそうはないでしょう。それに勇者のスキルならばレベル上げも容易い。彼女の眷属が活躍するのではないですか?」
「いい加減だな」
「事実でしょう?」
「……それじゃあ、今のところのステータスでも教えとくか?」
「お願いします」
「まずはネム……勇者についてだ」
ネムネム
ジョブ:巻き込まれし者+α・???・テイマー
レベル:9
スキル:【経験値奪取】
・取得経験値:3702
・所持経験値:10089
「何度聞いてもこの経験値の数値というのがわからないですね」
「これについては相手の強さを表す指標みたいなもんだろう。本人もそれほど気にしているわけじゃない。どうせすぐに無くなるだろうから放っておけ」
「……まあ、いいでしょう」
ダブタチ
ジョブ:巻き込まれし者・眷属・世話役
レベル:11
スキル:【真実の口】
「彼女は戦闘に参加していないのに、勇者よりもレベルが上なんですよね……」
「複雑か?」
「……まあ、純粋にこの世界の住人としては」
命懸けで戦ってもレベルが上がらない、上がり難いのに戦闘に参加していない者が簡単にレベルが上がる。理解も納得もしにくいというのが正直なところだった。
だが、それについてはほとんどの人間は知らないことなので不満は覚えつつも表立ってどうこうするつもりは一切ない。ただ行き場のないモヤモヤが渦巻いているのだ。
「じゃあ、最後だな」
ハナ・オオトリ
ジョブ:巻き込まれし者・命名師・眷属
レベル:14
スキル:【名付け】
・作:残鉄剣
「こいつは初めて自分で戦闘に参加したからな!」
レベルが真っ当に上がっているのは師匠として嬉しいらしい。
だから別に不満を言ったわけではないと思いつつ、ステータスに追加された項目については言及しておく。
「……それでこの『作』というのは?」
「まあ、作品ってことだろうな」
「……そういうことではなく」
何故増えたのかを聞いているのだ。
だが、これについてははぐらかしているわけではなく本当にわからないことなので答えようがなかった。
「単純に何度も作って身体というよりもスキルが作り方を覚えたのか、使用頻度が高い物はすぐに複製できるようになっているのか……」
そもそも謎の多い異世界人のスキルだ。解明しようとして出来るものではないのだろう。
実際、ステータスに表示されているからと他の作品を作らせてみたが、そちらは増えなかった。このことからなんだかの条件があるのは確実なのだが、それは今のところ不明としか答えようがない。
「……応用性が高い割には謎の多いスキルですね」
「だな。それについては今後レベルが上がって行けばわかるんじゃないか?」
「――そういえば」
話は変わるがと繰り出された話題は、おそらく今回直接会う本当の目的だったのだろう。肌に感じる圧がピリピリとしたものへと変わっていた。
「例の件はどうなりましたか?」
「……ああ、あれな」
それについては特に気にした様子もなく、かと言っていつものようにはぐらかしたり茶化したりもしないことからそれなりに真剣に受け止めた後、ニカッと歯を見せる渾身の笑みで答えた。
「安心しろ。予想は外れだった」
「……そうですか」
内容、あるいは話し手の雰囲気が安心させるようなものだったからか心底安堵した様子を浮かべる。同時に張り詰めた雰囲気も霧散し、その場に座り込んでしまった。
「は~。本当に助かりましたよ」
「おいおい。安心しきるのは早いぞ? まだレベルが低いからって可能性もあるんだからな」
「……少なくとも現状は大丈夫なのでしょう?」
「そこは保証する」
なら十分です。そう答えると気合いを入れて立ち上がる。
「大丈夫か?」
「……少し気が抜け過ぎたようです」
思うように力が入らず、結局手を借りたことに少々バツの悪そうな表情を浮かべつつ、深々と頭を下げて行く。
その際、顔に巻きつけていた布が緩み尖った耳が露わになり苦笑しつつ巻き直す様子を見て、ふと口にしてしまった。
「……お前らはいいよな」
それは呟くような言葉だったが、そこにはもはや普通の人には戻れない者なりの哀愁のようなものが漂っていた。
「私どもについてそんな風に言うのはあなたぐらいですよ。現代の『真なる勇者』、その二番手ユーキ・ショウジ」
「……ケッ、皮肉か? その名は捨てた。今のオレはただのフェニックスの片割れさ」
東海林裕貴ことユーキ・ショウジは自分の名を懐かしいと思い始めていることになんとなく居心地の悪さを感じ、それを誤魔化すように相手が困る言葉を投げかけてみた。
「オレのスキルが上達すればもしかしたらお前らの姿を借りれるようになんのかね?」
「……勘弁してくださいよ」
それに対して本当に嫌そうに顔を歪めた。
ユーキが持っているスキルは異世界人としてスキルと【人化】があるが、この場で言っているのは異世界人のスキルのことだと話の流れから察したからだ。
でなければ人の姿になれるスキルを嫌がる理由はない。例え自分と同じ姿になられても、自分は自分だと信じられるのだから。
「あなたのスキルで化けられたら、私たちは正真正銘のモンスターになってしまいます」
それだけは避けねばならないことだ。
もしも、そうなったら彼らは断固とした認めずユーキの排除すら厭わないだろう。
「――世間で魔族と呼ばれていても、心は人なのですから」
それだけは譲れない矜持だ。
「悪かった。だが、そっちだって変にからかうからだぞ?」
「そうですね。少々言葉が過ぎました」
「……それにしてもかつては勇者として世界を救おうと魔族と戦っていたオレが今じゃこうして魔族相手に取り引きをしている」
「複雑な事情がありましたからね」
「……そう、だな」
信じていた仲間に裏切られ、魔族の事情を知り、世界の裏を知り――本当に色々なことがあった。
「だが、過去があったからこそオレは本当にこの世界を救いたいと思うようになったんだ」
その言葉は昔以上に勇者としての言葉だった。
「期待していますよ。『真なる勇者』さん」
かつて標的としていた相手から向けられるにはおかしな言葉だ。だが、救いたいと願う世界の住人からの真摯な言葉だと考えると……。
「悪くない」
「はい?」
「いいや。なんでもないさ」
「そうですか。……ああ、そうそう」
長居し過ぎたと踵を返そうとした魔族はやはり意地の悪い笑みを浮かべていた。
「先程の会話の流れだと、私が大切な奥様を否定しているようには思わなかったのですか?」
魔族は世間ではモンスターの親玉、モンスターがさらに力を強めた存在と認識されている。だからこそ、魔族という種族であると否定した。
だが、さっきの流れではモンスターに変身できるスキルで化けられるのは心がモンスターだからだと言っているようにしか聞こえないのでは?
「フッ、愚問だな」
だが、ユーキの答えは決まっている。
「オレの嫁はフェニックス。この世界では神獣だ」
だから単純なモンスターと同類なわけがない。
「何よりもあいつはオレの嫁だぞ?」
「ふふっ、相変わらずの惚気っぷり。ごちそうさまです」
「お粗末さん!」
互いに笑みを携え、今度こそ深夜の秘密の取り引きは幕を閉じたのだった。
今回の話は言ってしまえば命名師の力の使い方編みたいなもんですね。出来れば一つの区切りまでは更新の間隔を開けずに進めたいと思っています。(書き溜めはしない方針で)
後書きの前に本編を読んで下さったと思いますが、今回は師匠の名前や初めて出て来る世界の敵、そして謎の取り引きといろいろありました。今回の話を後々に思い出していただき納得していただけるように頑張ります。




