034 ヒット&アウェイ~やっぱ無理!
「……フッ。噂の割に大したことなかったわね」
ワキツ王国の外れ、かつて国でも指折りの大規模鍛冶場があった跡地に散らばる鎧を足蹴に優越感に浸っていた。
あれだけ脅されていたのにも関わらず、レームとその配下のアンデットたちによる攻撃で鎧はバラバラになった。そりゃあ、規模が大きいと言ってもそれは大量に作れるだけで質が良いわけじゃないんだから脅威になり得なかったということさ!
「さあて、ひと仕事終えた事だし、温泉にでも……んっ?」
地震かな?
足元が揺れてるような……。
「夢宮さんっ!」
「……へっ? うぇ!?」
委員長の呼び声に振り返った瞬間、私はバランスを崩して後ろに倒れ込みそうになった。
『ぴぴぃっ!』
「……ありがと。ドーム」
一体何が?
その答えはすぐ目の前に現れた。
「……嘘でしょ」
目の前には数体の鎧が直立していた。
どれもこれも見覚えのある鎧だ。というかレームたちが倒した奴らにしか見えない。
「気を付けろよ~。リビングメイルの本体は説明した通り鎧の中の魂みたいなもんだ。バラバラにしたところで自力で組み立てて復活して来るぞ?」
「……そういうこと」
そんな大事なことを事が起きるまで黙っていたあんちくしょうには後でキッチリと文句を言うとして……道理で私が転びそうになったわけだ。
私が足を乗せていたのはバラバラに外れた鎧のパーツの上。
つまりは元通りになろうとしていた鎧が私の小さな足を持ち上げたということか。
「……これってどうやったら倒せるの?」
「簡単だ。鎧を再生できないほどに粉々に砕けばいい」
「…………」
うん。無理。
無理無理無理無理無理無理無理無理ムーリーーーー。
鎧を粉々に砕けって? あんたなら楽勝かもしれないけど、こっちはまだまだか弱い女子なんだっつーの。私に至っては幼女だっつーの。この世界の常識に当て嵌めれば強いって言ってもそれは対人戦においてでしょうが。
物理的に鎧を壊せるほど強いわけじゃないんだよ!
「……どうしよっか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないわよっ!!」
途方に暮れている間にも敵は待っちゃあくれない。
リビングメイルの一体が振り下した剣が私に迫る……まあ私もおんなじ相手に不意打ちを連続で喰らうほど愚かじゃないわけよ。
「そんな攻撃当たるかバーカ、バーカ」
「なんで挑発してんの!?」
「いや、だって……」
やられっ放しは癪じゃん?
だからドームの背に乗った状態でせめてもの意趣返しにあっかんべーをしているわけよ。
……そう。先程ドームに助けられてから私はまだ動いていない。
というよりも私の思考が回復して動き出すよりも相手の動きの方が早かったわけなのだが。こんなことが出来たのもドームを信頼しているからさ。私が動けなくてもドームなら撤退してくれるってね!
「そもそも夢宮さんが無駄なフラグを立てに行かなければあんなピンチにならないでしょ!」
「ダブタチ、そんな場合じゃないよ~!」
「……そうそう。今は一刻も早く逃げよう?」
「あなたが言わないでっ!!」
「ネムネムッ、あいつら追って来てるよ!」
「よ~し、撤退! 撤退~!!」
『カカカッ!』
こうしてリビングメイルとの第一戦は脇目も振らない見事な敗走で終結した。
「ふむぅ、さてさてどうしたものか」
幸いにもリビングメイルの動きは大して素早くなかったので私たちは難なく逃げ遂せて、依頼人が提供してくれた隠れ家に戻って来ていた。
ある程度、動ける鎧と言っても元来鈍重な鎧騎士たちだ。中身が無くても我が『スライムボーント』には敵わなかったようだな。
「……なんて偉そうなことを言ってる場合じゃないか」
「あら? 珍しく殊勝な態度なのね」
「……まあね」
委員長は私が先程の敗戦を真剣に受け止めていると勘違いしているっぽいけど、あえて訂正はすまい。訂正したら真面目にしなさいって怒られるからね。
「だけど、あの敗戦の原因はハッキリしてるし、あとは対策をどうするかだけでしょ?」
まあ、結局その対策が一番大変なことに変わりはないんだけど。
「……そうですよ。どうしてリビングメイルの倒したことを先に教えてくれなかったんですか?」
「んっ? そもそもネムネムがいきなりレームたちを突っ込ませたんだろう?」
「えぇ~!? 責任転嫁するつもり!」
「……いや、事実じゃねえか」
たしかに数体のはぐれリビングメイルを見つけたからレームたちに「やっておしまい」とは言ったけど、その時に止めてくれてたらよかったんじゃないの?
「全部をオレに聞いてどうすんだよ。もしも、オレがいないところで初見の相手と戦った時にも同じことを言うつもりか?」
「……そんなの結果論じゃん」
正論だけど。
「まっ、これに懲りたら実戦では油断をするなってこった。倒したと思った時が一番危ない時だぜ?」
「……また漫画みたいなことを」
「師匠って結構中二っぽいところありますよね~」
「フフッ、子どもっぽさを忘れないのはイイ男の証拠よ?」
「はいはい。ごちそうさま」
さて、それじゃあ本格的に対策を講じますかね。
「私たちが来るまでこの国の人たちはアレをどうしてたんですか?」
「……そうだな、基本的には放置するかそれか一発当てて逃げるって戦法だな」
「やってることはおんなじか」
「だな。とは言え、向こうは鍛冶のプロがいるわけうえに奴らの特性をよく理解してるからな。殴ってはパーツを奪って奪い返されないうちに砕くなり溶かすなりしてたらしいぜ」
「……だけど、その場合一回で戦闘不能に出来るわけじゃありませんよね?」
「まあな。相手は身体の一部を奪われても別の所から調達すればいいだけ。その上、環境は変わらねえから数はどんどん増えていく」
「かと言って、武器を作らないと狩られるだけだから作らざるを得ないと……」
まさにイタチごっこ。
簡単に解決するにはリビングメイルにならないように鎧だけでもどうにかするしかないわけだけど、年がら年中着てるわけにもいかないか。
「まあそんなこんなで依頼が出ていたわけだ。とはいえ、リビングメイルは言ったように対策さえ知っていればさほどの脅威でもない。オレたちが失敗してもそのうち他の人間が雇われて解決はするだろう」
「依頼人もそういうことを見越してこの小屋を提供してくれているのよ」
出来るだけ出費を抑えたいってことか。
夜露は凌げてもモンスターが襲って来たらひとたまりもなさそう。
「……だから、この小屋にも大きな竈みたいな物があったんですね」
「自分たちで火を入れて溶かせってか」
「鍛冶師の考えることはよくわからんな。まっ、オレだったらそんな面倒なことをせずにフェニックスの姿で突っ込んで行けばそれでおしまいだけどな」
「……わかってるのに、手を出さないあたりが意地悪」
「オレが手を出したら修業にならんだろう?」
「……はぁ。本当に厄介な師匠だよ」
「そんなに褒めるなよ」
褒めてないって。
「ねえねえ、実はずっと考えてたことがあるんだけどいいかな?」
「どうしたの花姉ちゃん?」
「ふふ~ん、実は私もレベルが上がったから自分に出来ることを最近模索していたのだよ」
キッドと大鳥さんは波長が合うのか思いの外仲がいいよね。
「で? 何を思いついたの?」
「いや、私のスキルって簡単に言うと名前を付けるってことじゃない?」
「……そうね」
委員長、まだ勝手にステータスの名前を変えられたこと根に持ってるの?
いいじゃない名前なんてただの記号なんだから。気にするのは呼ばれた時と呼んだ相手だけで。
「……んっ? どうしたネムネム?」
「なんでもな~い」
「だけどさ、ステータスの名前を変えられるとかって逃げる時ぐらいにしか役に立たないじゃない?」
「そうだね。しかも、ステータスじゃなくて似顔絵とかスキルとかで探されたら一発でアウトだよね」
まあ、この世界でステータスを確認されるなんてよっぽどのことだけど。そうなるとステータスの名前=本名という認識なわけでそういう調べ方をしている場合は絶対にバレないけどね。
「ネムネムのおかげでレベルは上がったけど、私も何か役に立てないかなって考えてて……ようやく一つ思い付いたことがあるの! 成功したら絶対面白いことになるから試してみない?」
「いいね!」
楽しいは正義!
「ちょっ、そんな簡単に……」
「大丈夫だって。レームたちがいるし、そう簡単に死んだりはしないって!」
「……そんなお気楽な」
「それに、どっちみち対抗手段は必要でしょ?」
だったらいろいろ試してみなきゃ! 失敗したらそれはそれってことで。




