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閑話003 王妃と禁断の薔薇園~初めてのわがまま

 先週には9割方完成していたのに、忙しくて投稿が遅れました(>_<)

《ガンファーレ大王国王妃グレイス》


「こ、これは……!?」


 グレイスは形容しようのない衝撃を受けた。

 嫁いでから出来た友人ダリアナ、その侍女でこちらもまた顔なじみとなった侯爵家のメイド長ニコル。この二人とはそれなりに長い付き合いなのだが……グレイスの視界には先程からとても異様な光景しか映り込んでいない。


「キリコ様! 王妃の力ならばきっと夢の実現に繋がるはずです!」


「さすがね。ニコル、私はあなたがメイドとして仕えてくれたことをとても誇りに思うわ」


「……それで、どうかしら?」


 異世界人――キリコ・タカナシに尋ねられてもグレイスはなんと返したものかわからなかった。


 異世界人の力を広めるための活動。顔合わせとして、侯爵家に呼ばれたグレイスを出迎えてくれたのはニコルではなく、なんと侯爵夫人であるダリアナ。

 主に働かせてニコルは何をしているのかと思えば、キリコ・タカナシに傅いている。その上でダリアナから笑顔で勧められた紙束とダリアナと同じような表情で期待の篭もった視線を向けてくる女性たち。

 勧められるままに紙束に目線を落とし、書かれている文字を追っていくうちにこれまで触れてこなかった世界が広がっていて、言葉もなくなった。


「……これがあなたの世界では常識なのですか?」


「常識とは違いますね。一部の……人間にとってはですけど」


「……そうですか。だから、私になのですね」


 キリコが言葉を濁した理由をグレイスは一部の人間=異世界の貴族が関わっているためだと考えた。実際には一部の趣味嗜好を持っている人間なのだが……。

 

「たしかに選ばれた者たちが関わることであるならば、ことは慎重に進めるべきでしょうね」


「私はいずれは世界中の女性、いえ女性だけでなく素晴らしさを理解できるすべての人民に広めたいと思っています」


「一つ確認ですが、それは異世界人の総意なのですか?」


「……残念ながら。ですが、女性陣にとっては総意と言っても過言ではありません」


「わかりました。始めましょう。女性が新たなに活躍できる世界への一歩を」



「……困りましたわ」


 グレイスは頬に手を添え、ため息を吐いていた。

 キリコの願いに応える。その気概は十分にあるのだが、そのための手段が思いつかないのだ。


「彼女からは絵師を探してほしいと言われたものの、私はそれほど詳しくありませんのよね」


 絵師や宮廷画家に王妃が直接仕事を依頼する場面などあるわけがない。

 絵を描かれている間はどういう風に描いてほしいか、あるいは絵師がどのような構図で描きたいかの話をすることはあっても、直接呼びつけてするわけではない。

 それこそ話題になっている人物や腕の立つ者を紹介されるのだ。


「……数日通っては見ましたが、絵の善し悪しがわかるような素晴らしい絵を描いている方は見当たりませんし」


 それらしい人物は何人かいるにはいるのだが、誰もが注意力散漫で心ここに非ず。とても人の心を揺さぶり、世界を動かす……そんな作品に相応しい絵を描けるとは思えなかった。


 それにはちゃんと理由がある。

 王宮で務めるほどの者たちなのだ、当然彼らの腕は良い。中には環境が良いからと弟子を連れて来ている者もいるほどだが、彼らの筆使いには普段の威厳や自信はまったく感じられない。

 ――王妃が直接現場に来て見学している状況で本来の実力を発揮できるはずなどなかった。


 グレイスがお飾りといっても、それはあくまで王や重臣たちにとってであり身分の低い絵師にしてみれば機嫌を損ねれば職を失うだけでなく、将来や下手をすれば命まで失いかねないと恐怖してしまう。その恐怖が筆を重くし、精彩を欠いていた。


 連日のように王妃が見学に来るので、徐々に慣れて来た者は王妃に認められようと欲が前面に出て、それ以外は場所を移している。

 目当ての絵師を見つけられる可能性は低いと言わざるを得ない状況が揃っているが、グレイスにとって国は狭い。あまり自由に行動できないのだから、少しでも逸材が集まりやすい王宮で探す方が理には適っていると信じていた。


「……あら?」


 その想いが実を結んだのか、その日はこれまで見たことがない人物がいた。

 何がどう違うかと言うと、作品や描いている姿勢から伝わってくる熱意のようなものだったりと言葉では説明しにくい部分でもあるのだが、それ以上に周りと違うのはその人物が女性であるということだろう。


「……誰かのお弟子さんかしら?」


 その割には誰も近付こうとしていない。

 それに使っている道具も周りの人間に比べるといくらか劣っているように見える。


 この時、グレイスの脳裏にキリコと交わした約束が思い出された。『女性が活躍できる世界』ならば描き手も女性にすればいいのではないか。

 どうしてそんな簡単なことに気付かなかったのだろうと思いつつ、その女性に声をかけてみる。


「――そなた、名はなんと申す?」


「へっ!? あ、あたしですか……?」


 女性絵師は突如として話しかけられたことに驚きどこか怯えているようにも見えた。


「そう。あなた」


 対するグレイスは彼女を観察しつつ、絵の方にも注目する。


「あちゃ、あたしはも、モンです……」


(……ふむ、悪くないか?)


 大国の王妃として各国の芸術品を見てきたグレイスの瞳にはハッキリ言って価値の高い絵には映らなかった。だが、今求めているのは価値よりも訴えかけることに重点を置いた作品だ。

 そういう意味では未完成な絵の方が完成された絵よりも矯正が効きやすい。


「で、モンとやらはここをよく使うのか? 最近、ずっとここにいるが初めて見る顔だが?」


「は、はぃ。普段は路上や師匠のところで絵を描いてます。今日はたまたま……最近ここに人が少なくなったって噂で聞いて……」


 師匠のところではどうしても兄弟子たちに雑用を押し付けられてしまう。兄弟子たちがここを避けているうちにこの場所を利用したい。モンはそう考えたのだ。


「……ふぅ、やれやれ芸術の世界でも女性は蔑ろにされるか」


 実力こそがすべての世界。それが女性だからという理由で下に見られる。それはキリコが示し、グレイスの目指す世界とは真逆。

 この段階で、グレイスの腹の内は決まった。


「あなたのように女性だからと表舞台に出て来れない画家を知っていますか?」


「……はい。知ってます」


 モンには何のことかわからない。もしも、不満を漏らしていることが兄弟子たちにバレたら厄介なことになるそう思っていたが、この時は自然と答えていた。


「……わかりました。後日、その人たちもここに連れてきなさい。出来るだけ、たくさんよ。いいわね?」


 用件だけ伝えると正確な日取りを告げることもなく、足早に去って行く。

 モンはどういうことか、何をしたいのかなど聞きたいことは山ほどあったが、結局聞くタイミングはなかった。

 だが、三日後言われた通り知り合いの女性画家を集めたのは間違いでなかったと知ることになる。



「――陛下、我儘を一つ聞いていただけませんか?」


 普段は王と話をすることすら避ける王妃が珍しく、それも上目づかいに頼みごとをしてきたことに王は大層喜んだ。


「侯爵夫人ダリアナの家に異世界人がいるでしょう? あれらの活用法として相談を受けているのですが、それには絵師が必要なのです」


「ほぅ、では選りすぐりの宮廷画家たちを招集しよう」


「……いえ、それには及びませんわ。異世界の知識を活用するための場、役に立つかどうかまだわからないもののために優れた者たちを利用するなど時間の無駄でしょう? それならば、腕が未熟でしかも活躍の場のない女性絵師たちを集めればよいのです」


「なるほど。王妃がこのところ毎日のように絵師を訪ねていたのはそういう理由だったか」


 このところのグレイスの不可解な行動を気にかけていた王はホッとしつつ、それならば好きにすると良いと告げる。

 そして、数日後にはグレイスからの推薦状を持った女性絵師たちが一斉に王宮に押し寄せ、初めての我儘に喜んだのも束の間、絵師たちの給金をどう捻出するかで頭を抱えることになるのだった。



 ――後年、ガンファーレ大王国の名が歴史上で陰りを見せ始めるのと時を同じくして女性の社会進出の一端を担った人物としてグレイスの名が上がるようになる。

 グレイスは「薔薇の女王」と呼ばれ、主に芸術分野で女性が活動できる場所を増やしていき、彼女自身も正体不明の女流作家として一部から支持を集める。


 二つ名の由来はグレイスが薔薇を愛し、薔薇の模様が入った道具を使っていたこととグレイスの象徴が薔薇であったこととされているが、支持者たちはそれを聞くと笑みを浮かべて肯定とも否定とも取れない反応を見せたことから別の意味があったのではないかと伝えられている。


 また、グレイスによる女性の社会進出が進む一方でこれまで世界に存在しなかった衆道という文化が普及してきて、教会では異端狩りが活発に行われていたという記録も残されている。

 とりあえず、一旦閑話はここまで。

 本当はガンファーレ大王国に残った異世界人たちの様子をメインにしようと思っていたのにどうしてこうなったのか。いろいろ考えることが多い話でした。

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