閑話001 勇者が去った国~腐敗した者たち
お久しぶりの投稿です。しばらくは閑話の更新になります。
《ガンファーレ大王国》
「貴様は一体何をしておったのだ!!」
「……弁明の言葉もございません。すべては私の不徳の致すところ。如何様な処分も覚悟しております」
顔を真っ赤にし、血管が破れんばかりに興奮と憤怒の感情に憑りつかれた王。その前にはまんまんと目の前で勇者と召喚者数名を連れ去られるという失態を晒した騎士団長が沈痛な面持ちで立っていた。
先程から何度も叩かれ、物を投げつけられようとも不動の姿勢を崩さないその姿は忠臣と呼ぶにふさわしい姿だが、この場にいる中で擁護する者は誰一人いない。むしろ失態を喜ぶ者や面倒なことをしてくれたと厄介者を見る目つきだ。
自らに国王の怒りという名の火の粉が飛んでこない限り、居並ぶ者たちが騎士団長を弁護することはないだろうと思われた。
「陛下、騎士団長を責めてるのは後でも出来ます。ここは先の話を進めましょうぞ」
「フェンデル……。そうだ、そうだな」
「…………」
フェンデルと呼ばれた老人に好奇の目が寄せられる。
その中には騎士団長の物も含まれていた。それほどまでに彼の取った行動は理解に苦しむものだった。
「幸いにも召喚者が全員がいなくなったわけではありません。いなくなった者も勇者とは名ばかりレベルの上がらない役立たず。……それに比べれば利用価値のある良い道具が残ったのです。良しとしましょうぞ」
「……フェンデル老、感謝いたします」
「ふぉふぉ、気にすることはない」
騎士団長はこの老人があまり好きではなかった。老獪な手腕で国王が若い頃からその地位をずっと保っていた。時に王すらも蔑ろにしては、不要な者を使い潰して生き抜く狡猾さが嫌で嫌で堪らなかった。
今回もこの老人に利があるからこそ助け舟を出されたことはわかっていた。
騎士団長の部下に彼の孫がいて、その孫は上手く召喚者の一人に取り入っていたのだから。
「さて陛下、道具には使い時というものがございます」
まさにガンファーレ大王国の闇そのものが薄ら寒い笑みを浮かべて王に絶対叶う願いを告げた。
《小鳥遊キリコ》
「おや、母上。それにミリアも。今日もキリコたちのところへ?」
「ええ、そうよ。やはり異世界の方ですのね。あの方たちのお話はどれも新鮮でいて、斬新。とても楽しいわ」
「お兄様もご一緒に聞ければいいのですけど、これは『女子会』なので諦めてくださいませ」
「……やれやれ。それはとても残念だよ」
こうは言っているが、内心では全くこれっぽちも残念だなどとは思っていない。
新しいモノに弱い女性陣は異世界の少女たちの言葉に惑われてやれ『女子会』だ異世界の知識だと騒いでいるが、結局のところは以前からやっていたお茶会と何が違うというのか。
「お母様! もうこんな時間ですわ!」
「まぁ! 楽しい『女子会』だからと待ちきれずに早目に出たというのにどうしたことかしら……?」
「きっと待つことも楽しく時間を忘れてしまったのですわ!」
実際には移動中に人を見つけては話し込んでいたからなのだが、この母娘にとっては平常運転なのでツッコミを入れるような者はこの邸内にはいない。
「……あまりお待たせするわけにはいきませんね。名残惜しいですが、お急ぎになられた方がよろしいでしょう」
「そうね。それでは母は行きます」
「それではお兄様ごきげんよう」
これまでよりも足早に去って行く母と妹を見送りながら、やれやれと肩を竦めて去って行く。
「ふふっ、それでは今日も楽しい『腐人会』へ行きましょう」
「ええ。とっても楽しい『腐人会』へ!」
やがて目的地へ辿り着いた二人の会話を聞くことが出来なかったのはキラーにとっては幸運だったのかもしれない。
少しでも苦しみが訪れるのが先延ばしにされたのだから……。
「皆様、お待たせしてしまった申し訳ありません」
室内にはパッと見でも三十人ほどの女性たちが思い思いに談笑したり、お茶をしながら寛いでいた。
ほとんどの者たちが、貴族の中でも位の高い家柄を生家に持つ者であり……言うなればここは女たちの王国と言っても過言ではない場所になりつつある。
「――キリコ様、侯爵夫人ならびに侯爵令嬢ミリアの二人が参上したようです。これで本日集まるべき者たちは全員集合したことになります」
場所を提供しており、身分としても本来ならばヒエラルキーの上層にいるはずの侯爵夫人だが、この場においては立場はかなり低い。
「ありがとう。ニコル」
「私ごときに礼など……! これからも身を粉にしてキリコ様、いえ、素晴らしい文化のために尽くさせていただきます!!」
ニコルと呼ばれたのは侯爵家ではメイド長の肩書きを持っている妙齢の女性だ。
当然のことだが、この部屋を一歩出ればニコルは先程邪険に扱った二人だけでなく、ほぼすべての人間よりも身分は下になる。
むしろ先程のような行動を取れば職を失うだけではなく、下手をすれば命すら失いかねない。
そんな異常事態がまかり通るほどの異常空間。それがこともあろうに侯爵家の邸内に展開されている。
「それでは、会合を始めます」
誰にも許しを得ることもなく、会の開始を宣言する少女。この少女こそ、異世界から召喚された一人である小鳥遊キリコであり、この会の主催者。
本来なら異世界人でこの世界では公的な身分を何一つ持っていない少女がどうやってこれほどまでに異例の出世を遂げたか。
それはキリコの齎した革命が原因であった。
「――それでは本日もまた色鮮やかな腐の世界を語り合いましょう」
「「「はい! キリコ様!」」」
「昨日までは騎士団長と騎士。身分違いを乗り越えるための恋について語って来ましたが……本日はより具体的な絡みを想像していきたいと思います。そこで私が注目したのは皆さんご存知キラーです!!」
「キャアアア、お母様お聞きになりまして!? お兄様が騎士団長の相手役に選ばれましたわよ!」
「ええ、ええ。我が息子ながらなんと誇らしい!」
息子と兄が話のモデルに選ばれたと聞いた時の二人の喜びようと言ったら……。周りからはそれまでが嘘のように嫉妬と羨望の混じった視線が送られる。
「……しっかしまあ、キリコも上手く取り入ったもんだな」
「だよね~。まさかあそこまで上手くいくなんて……」
「この世界の娯楽はそれほど発達してないってことだろう。それでもこうも上手くいくなんて思わなかったけど」
「初めに懐柔するのがメイド長って言うのもよかったんじゃない?」
メイド長ニコルはキリコによる洗脳の第一の被害者、いや第一の信者だ。
異世界人ということでそれなりの扱いを求められ、宛がわれたことがニコルの人生を大きく変えることになってしまった。
今では仕事よりもキリコに仕えることに重きを置いている。今日だってキリコに付きっきりでなければ侯爵夫人たちが遅れることはなかっただろう。
「メイド長からキラーさんの妹、その友人や侯爵夫人どんどん侵食されていったからな」
その手の話に免疫のある異世界人たちでさえキリコに説得されて今では彼女の理想を広げることに協力している。
異世界に同性愛の分化が広がるのは時間の問題だろう。
かくして小鳥遊キリコによる同性愛普及活動は社交界の陰に隠れて急速に発展していくことになる。
委員長に反目しているだけに見えた小鳥遊キリコ。彼女の離脱の真実が語られます。
ちなみにガンファーレ大王国の王様たちは次第に流れに飲み込まれていく予定なので、彼らは活躍しません。




