032 二番目の男~そうだ、師匠にしよう!
連続投稿ぷらす1!
「お前らに色々教えるにあたって厳守してもらいたい条件が一つある。――決して、オレの存在をイカレ小僧にはバラすな」
「……どうして?」
「簡単な話だ。オレは奴と喧嘩別れして逃げてる。今更再会したところで和解する予定もないし、会ってもまたやり合うだけだ。……そうなると面倒だろう?」
これはお互いにってことか。
まあ、あれだけ『真の勇者』に固執していた少年が同じ『真の勇者』を逃がすとは思えない。まあ、こいつという前例があったから私の勧誘にあれだけ力を入れていたのかもしれないけど。
そう考えると、色々迷惑な先輩だなどっちも。
「それからオレのことは師匠とでも呼びな」
「はいはい。検討しま~す」
条件は一つって言ってたし、聞き届ける必要もないだろう。
「……ったく、しゃあねえな」
「ふふっ、出会った頃のあなたそっくりね」
「どこがだよ……」
「ほら、生意気そうなところがそっくり」
「……あの~イチャつかないでもらえます?」
まったく。バカップルは人目を気にしないから困るわ。
「バッ、い、イチャついてなんかいねえよ!!」
「そうよ~。イチャつくっていうのは、こういうことを言うの!」
「お、おいっ、やめろ! 余計な誤解を与えるな!!」
「おお~! 過激……」
「きゃあっ! 夢宮さん見ちゃダメよ!」
「うわっぷ! 委員長止めて~」
からかわれたら燃えるタイプだったらしい女の方が男の顔を胸元に押し付けたり、キスをしたり……。元々が鳥だからか、裸に羞恥心はないのだろう。抱き着いた拍子に豊満な胸元がこぼれているではないか!
けしからん胸……いや、鳩胸だ!
「そういえば、さっき聞きそびれたけど……彼女の方は一体なんなの?」
勇者というか召喚者ではないんだよね?
「あ、ああ簡単に言えばオレの妻だ」
「あっ、そういうことじゃなくてね?」
恋人だろうがパートナーだろうが、愛人だろうがそれ以外だろうが別にどうでもいいわ!
この流れを放置してたら延々と馴れ初めという名の惚気に巻き込まれそうな予感を感じて先に制しておく。
「わりぃ。勘違いしちまったぜ……」
言いたいことが伝わったのか、どこか照れくさそうだ。
そんな夫の態度に不満を隠さず女の方がぐいっと押し退けて前に出て来る。
「私のことは私が語るわ」
そして、予想外の答えが返ってきた。
彼女は町の住人が噂していた通り、聖獣でありそしてモンスターだった。
「通称はフェニックス。世間一般ではモンスターに分類されている存在が私よ。……失礼な話よね。こうやって意思疎通が図れる相手をモンスターと言い切るなんて!」
「……モンスターじゃないの?」
「少なくとも私たち自身はモンスターと呼ばれるのは不服よ」
それはつまりモンスターであるということは否定しないってことじゃあ……。
「こほん。いい? モンスターにはある程度の分類ってもんがあるの」
「一例を挙げなら説明すると、スライムのように個別の意思をまず持たない存在。それにアンデットのような人間とは違う意思、つまるところ怨念のようなものに突き動かされる存在。あとはまさに獣がモンスターになったような存在と私のように知識を有する存在ね」
彼女のような存在には他にユニコーンやペガサス、それにドラゴンといった物語などでも比較的有名な生物がいるそうだ。
ドラゴン……この世界ではどっちだろう?
東洋のような蛇に足が生えたタイプか、それとも西洋のトカゲに翅や角が生えたタイプなのか。
「知恵あるモンスターと一般的なモンスターの違いを簡単に上げるとスキルこそがそうなの。つまりはスキルを使えるかどうかが重要な分け目なわけで……」
「この世界じゃあスキルは選ばれた種族。人間に近いものにしか与えられないって言われてるからな」
誰が作ったのか当てにならないが、神話というのは歴史の勝者に都合のいいように作られてるからなあ。そう考えるとモンスターに分類されるフェニックスって言うのは歴史の敗者……マイノリティってことになるのかも。
これは女の方がこだわるのもわかる。
先祖のせいで生まれながらの敗者とされるのは力やプライドがあるモノにとってはさぞかし不服だろう。
「挙句にモンスターの中でも低位のゴブリンでさえ、ランクアップを重ねればそれなりにスキルを使える個体が出て来る始末……!!」
「あちゃあ……」
この世界でもゴブリンは忌み嫌われる存在。
上位個体とはいえ、そんなのと同列視されるのはさすがに可哀想かも。
「ま、まあ元気を出して!」
「そうよ! 素敵な旦那様も捕まえて人間から見ても勝ち組なんだから!!」
「いよっ、羨ましいね~!」
「あらら、そうかしら?」
ツンとした態度ではあるけど、満更でもなさそうだ。
今後はこの話題は避けた方がいいかも。
「お前らに何を教えられるかはわからねえ。そっちのちっこい嬢ちゃんの方はオレと同じ『真の勇者』だと思うが、与えられたスキルは十人十色でどれも違うから使い方を教えるのも限度がある。……身体の方も小さくなったのを治す手段は知らない」
「【人化】スキルでも無理なの?」
「……これは人に化けるスキルだぞ?」
「……ああ、そうか」
人が人に化けたところで意味はない、か。
「オレはフェニックスの姿になってから使っているからこの姿だが、人間が使うのは難しいだろうな。それにこの姿だってイメージだから本来の姿からは離れているかもしれん」
まあ、自分は一番イメージしにくい存在かもね。
知り過ぎているからこそイメージって難しそう。ただ、それを聞いた後だとイケメンなのは憧れが強すぎるのかと残念に思えてくる。
「おい、なんか失礼なこと考えてないか?」
なんにも考えてませんよ?
「まあ、お前はテイマーでもあるみたいだからな。そっちのアンデットとスライムになら使いこなせるんじゃないか?」
「えっ!? レームとドームが人間になるの?」
驚く私の後ろで『カタ?』『ぴ?』と首を傾げているのを感じるよ。
だけどそうか……そもそも言ってることは大体でわかるんだから意識はもう人間に近いのかもね。
「お前がいい影響を与えているかどうかにもよるが、その様子なら結構簡単に習得できるかもな」
「あとはレベルアップを重点的にしましょう? 弱いままだと世界を周るのは難しいわよ」
「……あはは、あんまり激しくないのをお願いします」
町での戦闘を思い出したのか委員長は相当過酷な修業をイメージしているみたい。
「あと、そっちのガキについてだが……」
「あっ、そういえばキッドはどうしよう?」
「お、おれはネムネムについて行くからな!」
「えぇ~」
そうは言っても……チラッと横目でどうかな~?と窺って見ると、何やら呆気に取られたような顔をしている。
「お、おまっまさかネムネムが名前か!!」
「そこーー!?」
「そっちのいかにも委員長って子が夢宮って呼んでるからそっちが本名だろうけど……」
ぶつぶつ言ってるけど、まさか『夢宮ネムネム』が名前だとかトチ狂ったこと思ってないでしょうね?
この思考は早く止めないといけないと、ステータスの表示ついて加えて大鳥さんのスキルについても一緒に説明することなってしまった。
結果笑いに憐みが加わったけど、対象が私だけじゃなく委員長も含まれるので良しとしておこう。
《不死鳥夫婦》
「……あいつらは信用できるかどうか」
「少なくともイインチョウって呼ばれていた子はこちらを警戒しているみたいだったわね」
「それはそれでいいんだよ。オレたちだってすべてを明かしているわけじゃない」
「……後悔してる?」
数年間も夫婦をしていると相手のことがある程度わかるようになってくる。
口振りから後悔や自責の念を感じ取った妻はすかさず声をかける。その後悔は今でも夫を心身ともに蝕んでいることだろう。
「……あいつを孤独にさせた、あるいはあそこまで意固地にする決定打を与えたのはオレだろうからな。あいつにとっては初めて会った同じ立場の存在だったのに……!」
「……誰かが支えているわよ」
「そうだな。オレにお前がいるように……」
出会った時からどこか追い詰められていた。
初めはわからなかったが、ある時原因を知った。そして、原因を知ったからこそその考えについて行けず袂を別った。それが正しかったと信じているが、他にやりようがあったのではないかそう思えて仕方のないことが何度もあった。
そして今の立場もまた事情を複雑にしている。
「……何にせよ、オレはもうあいつらと敵対している。今のオレに出来ることは選んだ道が間違っていなかったと信じることだけだ」
「そうね。もしかしたら彼女たちともまた敵対するかもしれないけど……」
「そうなってもオレのようにはさせない」
「あなたなら出来るわ」
「それにあいつはオレたちとはどこか違う気がする。もしかしたら、この世界を本当に救う『真の勇者』はあいつなのかもしれないな」
炎のように揺らめく胸の内、そこに燃える決意はきっと身に纏う炎よりも遥かに熱い。これまではどこか無理をしていたその炎が導きの灯として新たな輝きをこの日から放ち始めたことを知る者はまだ、いない。
次は勇者が攫われた後のガンファーレ大王国と残った召喚者たちについてです。本編に関わりがないところで進みそうなので閑話という形で投稿します。
※日程や連続投稿にするかは未定ですが、出来れば2月10日までにはなんらかの形で報告したいと思っています。(期待はしないでください)




