026 気分は桃太郎?~スライムは狩れない
「よっしゃあ! 今日も張り切ってレベル上げしようぜ!!」
「……うるさい」
こっちは寝起きだっていうのに……。
このやかましいのはほんの数日前まで死にかけていたガキことキッド。元々は別の名前があったらしいけど、私の眷属になって過去を引き摺るのが嫌だからと無理を言って大鳥さんに改名してもらったのだが……ハッキリ言ってテンションが違い過ぎて鬱陶しい。
こんなことなら助けるんじゃなかったと早くも後悔している。
「ネムネムが遅いんだよ! もうとっくに日は昇り切ってるぜ!」
そんな農家の人の考えはいらない。
私にとって朝っていうのは日が昇った時じゃなくて、日が出ている間に起きた時のことを言うんだ。
「はいはい。キッド君も夢宮さんもそのくらいにして……ひとまずは朝ごはんを食べましょう?」
「委員長」
「……夢宮さんは朝ごはんいらないみたいだから、キッド君は手を洗ってきなさい」
「うわっ、嘘嘘ごめんなさい!!」
どこの世界でも胃袋を握られた者は弱い。
私は早々に謝罪をしてキッドを追い越すように手洗い場へと急ぐ。
「――それじゃあ、食事にしましょう」
「「「いただきます!!」」」
手を合わせて皆で食事。
食事内容はキッドに出した草だったり、木の実だったりと質素だが文句を言ってはいられない。
「っし! ごちそうさま!」
そんな食事だから食べ盛りのキッドは十分もかからずに食事を終え、早々と身支度を整えて行く。
「まだ食事中なんだから埃を立てないで!」
「ごめんごめん。でも、待ちきれないんだ!」
私の小言に誠意の全く篭もっていない謝罪をする間もこちらを顧みることはない。
これで本当に私の眷属だって言えるのかね?
「キッド君、一人で遠くへ行っちゃダメよ? レームさんに何人か付けてもらいなさい」
「はーい」
「……委員長には素直に従うんだ」
へぇ、そう。
べ、別に悔しくなんてないんだからねっ!!
「とか言っている間に、私も終わったから私も行こうっと」
「……そうね。やっぱり、これだけじゃあ食べた気がしないわね。出来るだけ早いうちにちゃんと人が住んでいる町か村にでもいかないと……」
食べ終えた食卓を見つめながら呟く姿はまんま家計を気にする主婦だよ、委員長。
哀愁が漂う委員長を慰めるアンデットというシュールな光景が辛うじてファンタジー感を残しているが、いまひとつ異世界という実感のない朝の一幕だ。
「よーし改めてレベルアップだ!」
結局いつものように全員でキッドに付き添うことになってしまった。
「今日こそはゴブリンぐらい倒してやりたいぜ!」
「意気込むのはいいけど、身の丈に合った相手を見つけた方が良いと思うよ」
「え~! もう動物を狩るのは飽きたよ!」
「何言ってんの! 動物を狩ってるからおいしいご飯にありつけるんじゃない!!」
ブーたれるキッドに対して私の怒りが炸裂する。
食べ物は何よりも優先されるんだから!
「まあ、キッド君が怒るのもわかるけどね~」
「しょうがないじゃん。レベルアップの定番は使えないんだから」
何も私だって意地悪でキッドにこんなことを言っているわけじゃない。
そもそもゴブリンは見た目が怖い。いや、そんなことは関係ないんだけど……。
キッドは眷属になってからすぐに調子に乗ってレベル上げをしようとした。
そう。勇者(笑)と同じようにスライムで。
『おっ、スライム見っけ! いっただき――ぐえっ!?』
キッドはドームからの予想外の一撃に呆気なく沈んだ。
ドームは、あの軟らかさからは想像できないような重い音を立てて物の見ごとにキッドの腹にめり込んでいた。
何故ドームがそんなことをしたのかわからないまま、事の成り行きを見守っているとドームは野生のスライムを包み込むとそのまま包み込んで吸収してしまった。
ドームが言うには野生のスライムには自我がないらしく、その状態なら上位個体が吸収することも可能なのだとか。ようするに簡単にパワーアップが出来るらしい。
キッドには悪いが、危険を冒さずに強くなれるのならそれに越したことはないと思うのでスライム狩りは禁止とした。一応吸収しても経験値が入るみたいなので、なんだったら私がまた経験値を与えてもいい。
でも、年頃の子どもが強くなったのを試せないのは不満だろうから動物を狩らせているわけだが、それでもモンスターと戦いを演じたいと意気込んでいるわけだ。
しかし、意気込むのはいいけどその望みが叶うのはもう少し先だろう。
何故ならば、近隣のモンスターは私たちが寝静まった後にレームが部下を引き連れて退治しまくっているからだ。
ほら、子どもが戦うのは危ないし? 何よりモンスターがいたら安眠できないじゃん?
「つまり、キッドはまったく無駄に張り切っているというわけである」
「んっ? ネムネム何か言った?」
「言ってないよ~」
危ない危ない。
このことがバレたらへそを曲げられてしまう。
別に問題はないのだが、泣く子にゃ敵わないとも言うし大人しくしていてもらえるならそれに越したことはないだろう。
「あっ、ドームさんおはようございます!!」
『ぴぴぃ』
もう一つ、面白い変化があった。
レベルアップの一件以来、キッドはドームをさん付けすることにしたらしい。今、キッドの中で序列がどうなっているのかとても気にあるところである。
そして、明らかに自分よりも下として慕ってくれているキッドの存在はドームにもいい影響を与えたようで、若干自信が付いたかのように見える。
もうさっきの挨拶を見てもちょっと上から目線だ。
ついこの間レームにあっさりと負けてから微妙に沈んでいたからなぁ。
「何はともあれ、キッドの特訓も旅の日課になって来たわね」
「……そうね。でも、キッド君とは出来るだけ早いうちに別れた方が良いと思うわ」
「召喚した国や少年勇者が追ってくるかもしれないから?」
「ええ。私と大鳥さんはともかくとして、夢宮さんについては執着しているように感じられたわ。……それに、召喚した国以外にも勇者はいるんでしょう? 鉢合わせたら厄介なことになりそうな予感がするのよ」
「そうだね。元々次にちゃんとした町が見つかれば別れることにしようか」
召喚した国にそこまでの力があるとは思えないけど、あの少年に至っては追って来そうな気がするというのも頷ける。初めて会った時からな~んか妙に積極的だったもん。
町ではドームはともかくとしてレームや部下のアンデットを連れて行くわけにはいかないし、そうなると身の安全のためにも長期滞在は出来ない。そんな生活に十を超えたばかりの子どもを連れて行くのは現実的じゃない。
幸い、子どもでもある程度のレベルだったら面倒を見てくれそうだからなんとかなると思う。
待っている未来が平穏かどうかは今後のキッド次第ってところかな。
兵士になって故郷を滅ぼした大国やモンスター、果ては魔王に挑むもいいが出来れば幸せになってもらいたい。
「……やれやれ、すっかり情が移っちゃった」
「ふふっ、夢宮さんも案外甘い所があったのね」
「委員長には負けるよ」
「そうね。……地球にいた時はあまり話し合う機会もなかったから気付かなかったけど、もしかしたら私たちって似た者同士なのかもしれないわね」
「え~そうかな? 私は委員長みたいに固くないと思うだけど……」
「たしかに夢宮さんは柔らかすぎるわね。でも、やっぱりどこか似ていると思うわ」
「……?」
どこが似てるんだろう?
気になったが、委員長はそこから先は教えてはくれなかった。




