025 少年よ大志を抱け~話を聞くにはまずカツ丼!
《名もなき少年》
「――さあ、言いたいことを洗いざらい吐き出しなさい」
少年は目の前で偉そうにしている女の言葉を聞きながら、こう思った。
(こいつ、絶対に頭がおかしい……!)
女と言っても見た目は自分よりも遥かに幼い。その割には話し方や雰囲気がほんの少し前まで一緒に暮らしていた近所のおばさん――お姉さんたちと似ているのが気になったが、そんなことよりも今は気にしなければならないことがある。
「腹減ってないか? まあ、これでも食べてゆっくりしてからぼつぼつと聞かせくれや」
なんとも芝居がかった動作で差し出されたモノを見た瞬間、やはりあのまま死んでいた方が楽だったのではないかと思わざるを得なかった。
助けられたことを後悔する。そんな時が来るなんて夢にも思わなかった。
……ついでに言うと来るにしても何年もあとだと思っていた。物語ではそのはずだ。
「……いや、食えねえだろこんなもん」
少年はそう言ってから、差し出されたモノをぐいっと押し返した。
「まあまあ、そう言わずに」
すると遠慮するなとばかりにぐいっと押し戻されて戻ってくる。
「ふざけんな」
なので少年も負けじと押し返す。
「いやいやいや」
「ざっけんな!!」
次第に譲り合いから押し付け合いに。その勢いは徐々に激しさを増して罵倒が混じってくる。
「いいからさっさと食べなさいってのよ!」
「っざけんなじゃねえええ! そんなに言うならてめえが食ってみろ!!」
激昂した瞬間、ネムネムから差し出されたモノが少年の手に当たって宙を舞う。
「ああっ!?」
ネムネムもそれを見ながら悲鳴を上げるがもはや間に合わない。
地面に落ちる瞬間、パッと横合いから伸びてきた腕が宙を舞う物体を見事にキャッチし……あるべき場所に戻した。
「あ~あ残念」
もったいないなぁと思いつつ、私は再度席に着いた。
向かい側に座る少年が睨みつけて来るがもはや興味はないので放置だ。
「ありがとうね。下がっていいわ」
もちろん働いてくれた者への労いは忘れない。
レームに声をかけると先程まで首のなかったアンデットは嬉しそうに歯をカタカタ鳴らしながら下がって行く。
「せっかく食べれそうな物を見繕ったのに……」
「だったら出し方をもう少し考えろ……」
人が好意でしたことに対してなんて口のきき方だ。
こっちだって食べ物を持っていない中、貴重な戦力を駆使してまでそこら辺の雑草を摘んできて貴重な火を起こしてまで提供してやったっていうのに……。
しかも、そのままじゃあ食べにくかろうとわざわざ盛って出すという配慮までしたのに。
まあ、事情を聞くってことで雰囲気を出したかったから本来はカツ丼を提供したかったという思いに引き摺られて似てるものとしてアンデットの頭部に茹でた雑草を乗せて出したんだけど。
う~ん……音は丼を置いた時みたいないい音だったんだけど、何が問題だったんだろう?
……考えるまでもなく見た目だね!
「やっぱり、頭の上じゃなくて口に咥えてもらった方がよかった?」
「そういう問題じゃねえ……」
「え~! 我が儘だなぁ」
ファンタジー世界の住人なんだからアンデットにぐらい慣れてるでしょ?
だったらこれぐらいは平然とこなしてほしいわ。
「……話が進まないわ。ぼく、どうしてこんなところに一人でいたの? お父さんやお母さん、他の町の人はどうしたの? 言いたくないことは言わなくてもいいから、わかる範囲で教えてくれない?」
おおっ、さすがは委員長。
私が要領を得なかったことをさらっとこなしてしまう。
……ただ、その聞き方で答えてくれるかどうか。
「…………」
ほら、やっぱり黙っちゃった。
「……父さんたちは」
「えっ!? さらっと言うの?」
「しーっ! ネムネム、今は口を挟んじゃダメだよ!」
「ご、ごめんっ!」
そうだよね。
言いたいことがあるなら言う。それが人間の正しい在り方だよね。
「――父さんたちは死んだよ。殺されたんだ」
「えええええっ!?」
まさかの展開!
……いや、予想できた展開か。
両親が生きていたとしたらこんなところに子供を一人で放置はしないでしょう。よっぽどの事情があれば別だけど、そういうことではなさそうだし。
「ここは半年ほど前まではちゃんとした町だったんだ。国の中心ってほどじゃないけど、ちゃんと商人も通る道があって、そこそこ栄えてたと思う」
「……そんな町がたった半年でここまでボロボロに」
一体何があったらそんなことになるんだろうか。
「……あんたら、どこから来たんだ?」
ギクッ!
ま、まさか異世界から来たなんて言えないし、ましてや勇者だなんて言えるわけがないじゃない!
「私たちは向こうから来たのよ」
委員長! そんな漫才や落語じゃないんだから!
「……向こうっていうとガンファーレ大王国の方角だな。道理でのんびりしてると思った。お気楽なあんたらは知らないんだろうけど、今は大国や大国の庇護を得られない国なんかはモンスターに襲われるか大国や属国には集られるんだ」
「まさか……」
「そうさ。おれたちの町を滅ぼしたのは属国の奴らさ。おれたちの町がある国は大国から食料や兵力の提供を要求された。だけど、属国でもないしそんな余裕もないから国は断ったんだ。そしたら……」
なるほど、ようするに見せしめか。
逆らう奴らは必要ないってことでこの子の町を滅ぼしたんだ。
「属国に襲われている最中にモンスターの襲撃も受けて、属国の奴らは逃げ帰ったけどおれたちに逃げる場所なんてなかった。……おれが生き残ったのはきっと絶望させるためさ」
「……そう。辛かったわね」
委員長もなんて声を掛けたらいいのかわからない様子だ。
だけど、私には一つだけ不満がある。
「陰気くさいわね」
「なんだと……?」
「だってそうじゃない? 一人だけ生き残った? それなのにあなたはさっき死のうとしていたじゃない!」
生き残ったのなら、生き続ける義務があるんじゃないの?
「お前に何がわかるんだよ!」
「少なくとも今のあんたが負け犬以下だっていうのはわかるわよ?」
「てめえっ!!」
頭に血が上ったガキは私に殴りかかって来るが、その拳が私に届くことはない。
小さな拳は届く前にレームの手下たちに受け止められ、本人はドームに身体全体をレームに頭を押さえられていた。
「ぐっ、くそっ、放せよ!!」
「くくくっ、暴れても無駄無駄」
「うっわ~ネムネム悪役っぽい」
「……本当ね。まさに悪役がはまり役というか」
「そこ、うるさいよ!」
褒めてはないでしょ。別にやりたくてやってるわけじゃないんだから、放っておいてちょうだい。
「……ねえ、なんで今無様に這いつくばっているかわかる?」
「知るかよっ! いいから放せ!」
「放すわけないんじゃん」
放したら、また性懲りもなく襲いかかって来るんでしょう?
おそらく脅威が解消されないと二人は私が良いって言っても解放はしないと思う。むしろ、命があるだけ感謝してほしい。
「あんたが這いつくばってるのはあんたが弱いからよ。戦おうともしないで、すべてから逃げて楽な道を選ぼうとする弱い奴だから這いつくばってんの。決して、ドームとレームが強いからじゃないわ」
「だったらどうしろって言うんだ!」
そう。その言葉を待っていた。
「――抗いなさい。そして、戦いなさい」
そのための力ならあげるから。
こんな理不尽な世界に負けちゃダメ。最後まで生き抜くの。それがあなたが生き残った意味。
「今から与えるのは可能性よ。それをどう扱うかはあなた次第。あなたが生きたいように生きて見せなさい」
レームたちやドームには悪いが、使わせてもらおう。
白く光る経験値をガキに与えてやった。




