023 幼女は行くよ~体力と骨の太さは無関係
「うおおおっ? い、意外と快適?」
私は骸骨とスライムによる共同作業『スライムボーント』(大鳥さん命名)の中で思ったよりも揺れが少なく快適なことに驚いていた。
「そりゃあ、こんなに快適じゃなかったら誘拐された段階で安眠なんて出来なかったと思うわよ?」
言われればそうか。
詳しく聞いてもよくわからなかったが、スライムに張り付いている骸骨たちが上手いこと関節を絡めあって衝撃を分散、弱まった衝撃はさらにスライムが吸収しているらしい。なんじゃそりゃと驚くべきファンタジー原理だ。地球では絶対に再現できない快適さか。向こうに持ち帰れたら一儲けできそう。
「どこから話そうかと思ったのだけど、まずはアンデットたちについて話していくわね。アンデットたちって言ったけど、正確には今スライムにくっ付いてたりするのは先頭のアンデットが使役している存在よ。わかり易く言うとおまけね」
「随分、ざっくりとした説明で」
道理で一体だけ雰囲気が違うと思った。
あれだけが特別であとのは適当に集めたというか、特別な個体について来ただけってことか。
「それで、先頭のアンデットなんだけど……それはスライムと同じ存在だったわ」
「スライムと同じ?」
どういうこっちゃ?
「夢宮さんがテイムした存在ってこと」
「ほほぅ。それは面白い!」
どうしてそういう結論に至ったかすんごい興味ある!
スライムみたいに白いやつを与えてもいないのに。
「それを説明するためにもここでステータスを開示しておきましょう」
ダブタチ
ジョブ:巻き込まれし者・眷属・世話役
レベル:5
スキル:【真実の口】
ハナ・オオトリ
ジョブ:巻き込まれし者・命名師
レベル:1
スキル:【名付け】
ネムネム
ジョブ:巻き込まれし者+α・???・テイマー
レベル:2
スキル:【経験値奪取】
・取得経験値:0
・所持経験値:2302
「ダブタチとネムネムのレベルが上がってる!」
ずらっと表示されたステータスを見比べた大鳥さんが叫ぶ。
たしかに私と委員長のレベルが上がってる。委員長は私が経験値を与えたからだと思うけど、私はなんでだろ?
そして、そんなことよりも気になるのはやはりこの名前。ネムネムって……慣れない。
「……大方は予想通りだったけど、夢宮さんのステータスには謎の文字が追加されてるわね」
「予想通りだったんだ……」
パねえな委員長!
「謎の文字って最後の経験値ってやつ?」
「そう言えば、前回見た時はなかったね~」
「それを言うなら前回から何もしてないのに、レベルが上がったのはなじぇ?」
「……子どもっぽく惚けても、……いいわ。わかってる範囲で教えてあげる」
おっ、上手くいくと思ってなかった作戦が上手くいったぞ?
名付けて「わたし、子どもよ、教えてよ作戦」。きっとステータスにある世話役って称号が効いてるんだね!
「まずは私のステータスから解説していくわね。あっ、大鳥さんについては前回から変わってないみたいだから最後に回させてもらってもいい?」
「いいよ~」
「じゃあ、進めようかしら。まず、私がレベルアップしている件。これは夢宮さんもわかってると思うけど、あなたが原因ね」
「いやぁ……」
照れるな~。ただ、言い方にちょっと棘があるよ? なんか私が元凶みたいな言い方になってない? あれは人助け! 人助けだから! むしろ、私のおかげっていうか……。
「夢宮さんが私を助けるためにくれた経験値。どれぐらいあったのか、それはわからないけど、少なくとも一気にレベル5になるくらいはあったってことね。これは私たちが異世界の人間だからっていう見方もあるから今後検証してみましょう」
「騎士の人たちも異世界人はレベルが上がりやすいって言ってたもんね」
「そうだっけ?」
「たしかに、初日にそんな話を聞いたわ。もしかしたら、あなたが傍にいない時だったのかもしれないわね」
委員長はそう言うけど、騎士の人がいて初日だったらたぶん一緒にいたと思う。
単純に忘れてるだけっぽいけど、それを伝えると委員長の目がつり上がっちゃいそうだから黙ってるね? 別に怖いとか面倒臭いとかじゃないから。
「あともう一つ。これもあなたが原因ね」
委員長が指さしたのは、眷属の文字。
ふと考え込むような仕草をして、真理を語る。
「……なんというか基本的に夢宮さんがすべて関わってるわね」
「そんなっ!?」
私は大袈裟に驚いて見せた。
責任転嫁だよ!と。
私のせいかと言われれば、否定はしにくいけど絶対に認めない。認めなければ裁判では負けない、はず……!
「これだけ証拠があれば間違いないね~。まさにダブタチとネムネムの愛だね~」
くっ!!
まさか第三者から物的証拠を突きつけられるとは……! 大鳥さんは傍聴人じゃなくて、警察側の人間だったの?
「大鳥さんっ、あ、愛とかじゃないから!」
「も~そんなに照れなくても大丈夫だよ~」
「照れとかじゃなくて……!」
こ、この空気は……!
「やめてっ! 私のために争わないで!」
「…………」
「…………」
や、やめて。そんな目で見ないで、あと沈黙が痛い……。
「……はぁ。なんだか途端に馬鹿馬鹿しくなったわ。――見てもらった通り、私もスライムやアンデットと同じくあなたにテイムされたような扱いになってるわけ」
「そうなの? んじゃ、命令できたりするの?」
「う~ん……たぶん無理」
「無理なのっ!?」
意味ないなぁ。
「レベル低いし」
「あ~ね。そういうことか」
将来性に期待大ということですな。
「それでも、守ろうとする気持ちとかは強くなってるみたいだから気にしなくてもいいわよ?」
慰めはいらん。
「……あれ? さっき、骸骨も私がテイムしたって言ったよね? 一体いつ?」
記憶ないんですけど。
よくわからないけど、ここまで詳しいってことは知ってるんでしょ? さくっと教えてもらえる?
「聞いた話だから確証はないけど、お墓にいて気付いたらテイムされてたそうよ? ちなみに他のアンデットたちもその墓場で作ったって言ってるわ」
「お墓!?」
つまり、墓地。
ようやく合点がいった。そうか。そういうことだったのか。それまで捨てられなかった経験値が墓地でだけ捨てられたのはそういうわけだったんだ。
「……というかなんであんな場所に?」
アンデットだから? もしかして、そのまま成仏しようとして手邪魔しちゃったパターン?
「冒険者に襲われて瀕死の状態だったんですって」
「……なるほど。委員長の時と同じようにあげた経験値で一命を取り留めたってことか」
「それで助けられた恩を返したいって言ってるわね」
「律儀だね」
「ねえ……」
骨なのに。魂は武人みたい。
「次は夢宮さんのステータスだけど、ここからは推論の部分が多くなるわ。……取得経験値これは夢宮さん自身が手に入れた経験値でしょうね」
「私自身?」
「ええ。と言っても、戦闘をしたわけではなく、例のスキルを使ったという意味よ。今は0なのは私に与えてから回収してないからでしょうね」
なるほど。
つまりはモンスターを倒したりして出てきたあの白いやつのことか。
「そして獲得経験値。これはあなた以外、私やスライムそれにアンデットの獲得した経験値だと思うわ。最初のステータス確認で見えなかったのはレベルが低かったからか、元々なかったのかあるいはそれ以降に獲得した分しかカウントされなかったからというところね」
「そこら辺はアバウトだね」
まあ、本人がわからないんだからしょうがないか。
「じゃあさ、ネムネムのレベルが上がったのもその獲得経験値っていうのが原因なのかな?」
「おそらくそうじゃないかしら? この前、砦で待ってる間にスライムがいなくなってたでしょ? あれは砦の人たちと一緒に戦闘に参加してたからだし……タイミング的にはぴったり合うのよね」
「そうなの?」
『ぴっ!』
どうやらそういうことらしい。
なんて素晴らしい。まるで家に居ながらお金が入るという夢の職業じゃないか!
「色々とわからないことは多いけど、今言えるのはそれぐらいね。ちなみに、大鳥さんのスキルはそのまま名前を付けるっていうスキルよ」
結局、わからないことはわからないか。
まあなるようになるさ。
とりあえずは次の場所に着いてから考えよう。
「……そういえば、これってどこに向かってるの?」
「さあ?」
……前途多難だ。
「……結構走ってるけど、アンデットって疲れないのかな?」
「それは大丈夫なんじゃない? モンスターのことはわからないけど、肺も心臓も脳すらないんだし。疲れる要素がないわよ」
「……それって動ける要素もないって言わない?」
「ねえねえ、それよりもさ!」
結構重要なことだと思ったけど、それ扱いですか。
大鳥さんの逞しさは異世界でも変わらないのか。
「そろそろスライムとかアンデットって呼ぶんじゃなくってちゃんとした名前を付けてあげたら?」
「……それもそうね。これだけお世話になってるのに種族名を呼ぶのはどうかと思うわ」
「私らにすれば人間って常に呼ばれるみたいなもんだしね~。でも、さすがに数が多くない?」
全部で何体いるのよ?
私と同じことを思ったのか、委員長が提案をしてくれた。これは眷属仲間としての絆がそうさせてるのかもしれない。口に出したら怒られそうだけど。
「別に全員に付ける必要はないんじゃないかしら。一体以外はテイムしているわけではなく、操っているだけみたいだし」
「そうだね。それこそ、気が向いたときとかに付ければいいと思うよ!」
「…………あれ? もしかして私が付けるの?」
私としては当然の疑問だったんだけど、二人からは当たり前でしょという表情で驚かれてしまった。
「で、でも大鳥さんの方がそういうスキルだし……」
「え~? そうは言うけど、眷属ってネムネムとの絆を深めたいと思ってると思うんだよね」
だから私が付けるのは違う――そう言われれば反論しにくい。
一緒に行動しているし、一蓮托生みたいな関係だけど今は私というかスライムと骨に頼りっきりなわけで。そこに上から名前を付けてやるとするのも違うと。
「う~ん……」
そうなると考えないわけにはいかないんだけど……ハッキリ言って面倒臭い。
名付けなんてゲームの主人公とかぐらいしかしたことないし、それだって普段はデフォルトの名前を使っているのだ。……そもそも私にネーミングセンスはあるのだろうか?
「難しく考えずに直感でいいんじゃない?」
「ネムネムの名前から取ってあげるとか?」
二人のアドバイスもあって、スライムをドーム。骸骨をレームと名付けることにした。
「ドームとレーム……由来って聞いても大丈夫?」
その大丈夫っていうのはスライムと骸骨に聞かれても大丈夫とかくだらない倫理的に名前として聞いてもいいかってことかな?
まあ、別に悪気は全くないから全然オッケーだけど。
私は軽い調子で頷いてから理由を説明してあげた。
「ドームは今とかドームみたいに広がって包み込んでるでしょ? だからだよ。んで、レームは私自身は気付いてなかったけど、委員長の話だと最初にテイムしたモンスターでしょ?」
だけど、気付かれなかったからスライムが最初だと私の中ではカウントされてる。
そう考えると一の前の零をイメージしたわけ。
「零に私の名前から夢という字を当てて、『零夢』そっから言い易くしてレーム」
ついでに最初に思いついたスライムと語感を合わせてみた。
その由来に委員長は私にしてはまともと言っていたが……どういうこっちゃ?




