019 突撃!隣の戦場~綺麗どころなのでお飾りしてます
新章開始、さくっといくよ~。
「わっ!」
「どっせぇい!!」
少年に押されたかと思ったら見知らぬ場所に放り出される私。このままじゃ転ぶと思っていたら、なんと委員長が強引に下から持ち上げ、前方に回り込んだスライムが両方ともしっかりと受け止めてくれる。大鳥さんはというと、身軽さを活かして普通に着していた。
ある意味で一番解せない。
「……ふぅ。大丈夫だった夢宮さん?」
「うん。ありがとうね、委員長」
感謝してるから掛け声については触れないでおくけど、年頃の娘があの掛け声はないと思うの。
そんな騒がしい登場だったためか、ドタバタとこちらに向かってくる足音が聞こえる。
う~む逃げるべきかどうか……。悪いことをしてなくても追いかけられそうな予感に思わず逃げ腰になる。
「あら? ここって……」
そんな私の耳に委員長の声が届く。どうやら何かに気付いたらしい。だったら、任せてもいいかな?
「――誰だっ!」
悩んでいるうちに数人のおじさんが現れた。
せめてイケメンを連れて来い。
「さあて厄介なことになったかな?」
「うわっ!? 侵入者のはずなのに何故か幼女の方が戦闘態勢だ!」
「本当だ! まるで俺達の方が押し入ったみたいになってる!?」
「ひ、怯むなっ! 相手はたかが幼女と女の子二人だぞ!」
「隊長っ! 幼女は女の子に含まないのですか?」
「当たり前だ! 幼女は国の宝、いや神だっ!!」
無駄に雰囲気出したら、一斉に乗って来た。半分は罪悪感に苛まれて動きが鈍っているようだけど、もう半分は危うい。何がってこいつらクラスメートのロリコンと同じニオイがする。
今も躊躇している面子と違って油断なく包囲網を形成している。絶対に幼女を逃がさない構えだ。
「さあ、お嬢ちゃん怖くないからこっちにおいで~。こっちに来たらアメを上げよう」
バカにするなよ?
私があめ玉ごときで釣られるとでも?
「夢宮さんっダメよ! 知らない人からお菓子を貰ってもついて行ったりなんかしたら!」
「わかってるから」
「だったらその手に持ってるアメは何!?」
「……なんと」
面妖な。
気付けば私はしっかりとアメを握っているではないか。しかも、あめ玉なんかじゃなく本に出て来るようなちゃんとした棒付きのやつを……!
「よしっ、今のうちに残りを捕まえろ!」
「おおっ! 隊長、捕まえる時にうっかり身体に触れてもOKですか? 具体的にはおっぱいとか!」
「許可する!」
「許可してんじゃないわよ!!」
おお~! 委員長すっご……。
火事場の馬鹿力というやつか、委員長は近寄ってくる男たちを巧みに躱している。まあ相手の狙いがわかりやす過ぎるからこそ出来る芸当だろうけど、それでも凄い。
大鳥さんは早々に諦めて別に触りたければどうぞと言っている。こっちもこっちで凄い。
触っていいと言われるとどうしたらいいのかわからないのか男たちは行動に移せないようで、結局こちらも捕まえられていない。
ちなみに私は隊長とか呼ばれているおっさんの膝の上に綺麗な布を敷いてからアメをペロペロしている。今のところ危機感はないが、ケツに硬い物が当たったらすぐに避難しよう。
『あー、あー聞こえる?』
委員長が逃げ疲れるか、男たちが意地を見せるか。決着はそう遠くないと思っていたが、突如聞こえてきた声によって意識が逸れる。
どうやらおっさんの胸元から声はしているようだ。
「おっさん、なんか声がする」
「んっ? ああ、ボスからか。珍しいな……もしもし?」
「ボス、ねえ……」
そのボスって私が知ってる奴じゃないかな? どうも声に聴き覚えがある気がする。
「えっ? 俺達の上司を送った? ええ、へえ、見た目は幼女……ほうほう、そんでスライムと女子が二人?」
そうしてゆっくりと見渡したおっさんは部下と戦っている委員長と大鳥さん、それに我関せずのスライム……最後に私を見てから天井を見上げる。
「了解しました……お前ら、その人たちは味方だ! 手を出すんじゃねえ!!」
一喝。
それだけで男たちは動きを止め、おっさんをじっと凝視する。
「どうやら新しく派遣されてきた上司らしい。わかったら、手を下して丁重に出迎えろ」
これで騒動も収まる。そう思っていた。
「ああっ!! 隊長、なに一人だけ幼女を膝に乗っけてんですか!!」
「そうだそうだふざけるな!」
「さっきは幼女は宝だ、神だとか言ってたくせにっ!」
「このロリコン!」
「変態!」
「う、うるせええええええ!!」
「「「うわああっ、本当のことを言われてキレた~!!」」」
「……なんか面白い人たちだね」
再度始まった捕物にこの人たちが部下かと、のん気なことを考えてしまう。
「……ただの変態集団でしょ」
一方、最初の被害者であった委員長はというと納得のいっていない様子で終始不満そうにしていた。
《前線部隊中隊長ニンドヘル》
「現状を説明させてもらいます」
『真の勇者』キョーヤ・キサラギからとある砦攻略の部隊長を任されていたニンドヘルは神に感謝を捧げたい気持ちでいっぱいなのを隠しながら、自分たちの上官になった幼女に説明を始めた。
ニンドヘルを始め、この砦にいるのはキョーヤたちに助けられたこの世界の人間だった。
『真の勇者』としての活動中に偶然助けられた者たちだったが、自分たちを救ってくれた人間に魅せられていた。現在、大国や大国に支配される属国、逆らえない小国は大国の言いなりであり、その国の人間が苦労しようともどうにかするだけの力を有していない。
そんなことは村の子どもですら理解しているが、助けてほしいと思った時に手を差し伸べられないことを許容できるかと言われると話が別だ。
「現在、我々はモンデルセン王国の属国、ティアタニア自治国の国境砦を攻略中です」
なんとか恩返しを!そう訴えるニンドヘルたちに託された任務が砦の攻略だった。
初めは見捨てられたと思った。キョーヤが開始前に説明した通り、国境砦という割には大した戦力は揃っていないがニンドヘルたちは志願した勇志のみで二十名にも及ばない。一応、部隊長を任されているニンドヘルだって規模が小さく指揮をする人間もいない状況とあっていつからかあだ名の中隊長こそが真実の身分だと錯覚していた。
「正規メンバーの皆さんの奮闘により、ティアタニア自治国の主要な施設などはいつでも掌握可能になっています。あとはこの砦を落とせばティアタニアを手に入れられる手筈です」
周りが着々と成果を挙げて行く中、自分たちだけが足を引っ張っている現状は申し訳なさで押し潰されそうだった。幸いにも根が明るい者が多く配置されていたこともあって、沈鬱とした気分は漂っていなかったが、それも時間の問題だった。
そんな時に現れたのが、指揮官となる幼女。
しかもただの幼女ではなく、ニンドヘルたちが信奉しているあの『真の勇者』の一人だという。
手柄を譲ることになると言われたが、そんなことはどうでもよかった。
「戦力は正面と、あとこことここに集中していますね」
そこまで説明したところで、興味なさそうに聞いていた幼女から「んじゃ突撃で」とさくっと命令を下された。
「喜んで!!」
ようやく指令を伝えられたニンドヘルたちは作戦も何もなく、自陣の被害なども一切顧みずに突撃しその日のうちに国境砦を落として見せた。
さすがに負傷者ゼロとはいかなかったわけだが、幸運なことに死人が出ることもなく何よりも攻略をしたニンドヘルたちは朗らかな笑顔を浮かべていた。




