020 キャッキャウフフの見学会~見ろ、砦が砂城のようだ!
「……嘘でしょ」
なんかこの砦の責任者っていう人が長々と説明してくれてたけど、よくわかんないし他の砦はとっくに仕事終わらせてますって言われたから適当に行ってみよーって言ったら本当に突撃かまして砦落しちゃったみたい。
一糸乱れぬ動きはまるで体育に力を入れている大学のパフォーマンスの如く。
私たちはというと、その様子を出発前に出されたお菓子をつまみながらボーっと眺めていたらもう終わっていた。
あの少年曰く、手柄はすぐにでも渡せる状況になっていたらしいし実力はあったのだろう。
必要だったのはきっかけ。あるいは独断専行と取られないための指示というところか。
「なんにせよ、楽勝だった」
まったく。つまらぬ仕事をしてしまったわ。
「……夢宮さんは何もしてないでしょ」
「あははは、私たちもだけどね~」
……うん。わかってる。他人に勝手に命を懸けさせてそれを誇るのは間違ってた。反省してます。
姿が子どもになっているせいか、反省する態度も幼くなった気がする。
「でも、私たちが行っても足手纏いにしかならなかったと思うよ」
戦う手段もないし、何よりも覚悟がない。
おそらく殺されそうになったとしても相手を殺す覚悟が平和すぎる日本で育ったただの高校生にあるのかと問われればないと答えるしかないはずだ。
「……そうね」
委員長もそれはわかっているのだろう。せめて自分たちがきっかけで失われる命があることから目を逸らさないために砦を真っ直ぐと見つめて呟いた。
真面目だなぁ。
私のお守りでついて来ただけなんだし、自分は関係ありませんって態度でもいいと思うけど。
「ねえねえ!」
二人して真面目な雰囲気を出していたら、大鳥さんの顔が間近に迫っていた。
「なあに?」
「あのスライムちゃんいないみたいだけど、どこに行ったの?」
「えっ!?」
「……ああ。あれね」
ようやく気付いたのかと思ったが、委員長も気付いてなかったみたい。
結構早いうちからこの場にはいなかったけど。
「た、大変じゃない! もし何かあったら、私たちだけじゃ……!」
委員長が狼狽えるのもわかる。
だけど、スライムにはスライムの仕事がある。――そうスライムはあのおっさんたちと一緒に砦に向かってもらった。
「彼らの選択だとしても自分が命令したことで命を落とされると寝覚めが悪いから」
だから護衛として、私個人が動かせる最大にして唯一の戦力を動かしたというわけだ。
自分でもバカだ大バカだと思うが、こればっかりは譲れなかった。
「おっ、おお……??」
私らしくない行動を取ったせいだろうか、身体が震える。一体何が……?」
「まさか……!」
委員長は何か心当たりがあるみたい。
「あっ、治まった」
一体何だったんだろう?
一つ言えることは震えが収まったと思ったら、なんだか力が溢れてくる。今なら何でもできそう……と思ったけど、ダメだ。さっき、お菓子食べたからお腹いっぱいで眠くなってきた。
ふわぁ~この眠気には抗えないわ。
「ちょっと、こんなところで寝たら風邪ひくわよ!」
「そうじゃないと思うなぁ……」
「むにゅむにゅ……あまり気持ちよくないわね」
「勝手に触って、勝手にがっかりしないで!!」
「んああ?」
いけないいけない。寝落ちしてたわ。
起きたらいきなり委員長に怒られるし、何なんだろう?
「……なくなった」
「なくなってないわよっ!」
「……? さっきからどうしたの委員長?」
「ふぬぬ……!」
「委員長、諦めた方がいいよ」
唸り声を上げる委員長が大鳥さんに慰められている。
委員長の様子は気にはなるけど、それよりも気になるのは寝る前に感じていたパワーアップ感がなくなったこと。なくなったというよりは身体に馴染んで溶け込んだとでも言うべきか。
なんにせよ悪い状態ではなさそうだ。
「あっ、スライムが戻ってきた」
「……目立たないのによくわかるわね」
「そりゃあね。自分のペットだったらそっくりでも見分けられるじゃん? それとおんなじだよ」
委員長たちはほぼ透明状態のスライムしか見てないだろうからわからないのかな?
私には見分けぐらいなら楽勝よ!
「っとと、何だろう?」
携帯電話が通じるわけでもないのに、ポケットから呼びかけるような声が。
考えるまでもなく、若作りから渡されたもう一つのポストカードが音の発生源だった。
「もしも~し」
『はい、もしもし。……って、電話じゃないんだから別に耳に当てなくても通じるよ』
なんだ。
まあ、可愛いお耳が見れて耳フェチにとってはラッキーでしょ。
『僕は耳フェチじゃないから……』
「およ?」
聞こえてたか。
『……まあいいや。上手いとこ、砦を落とし終えたみたいで安心したよ』
どうやってわかったんだろう。
なんか見張られているみたいで気分がよくないな。
『とりあえず、そちらの砦は破棄する予定だから侵攻している部隊が戻って来たら一緒にこっちに戻って来てよ』
「えぇ~」
せっかく楽しくなってきたのに、観光もなしで帰れって?
『そんな嫌そうな声を出さないで。君たちが向かってから砦に戻ってきた人も紹介したいし、部隊の人たちだって久しく帰って来てないんだから』
「むぅ……」
そうは言われても不満は不満。
『帰って来たらすぐ始められるように宴の準備もしてるんだよ?』
「なんですって!?」
宴! つまりはパーティーか!
いや、祝勝会か戦勝会、功績を称えるための場だったら、私が主役だな!
「ごちそうは!? ごちそうは出るの!?」
『もちろんさ。君たちは主役なんだから好きなだけ食べてくれ。こちらの世界でしか食べられない特別な食材もたくさん用意してあるよ』
「なら帰る! すぐにでも!!」
『……部隊の人たちはちゃんと連れ帰ってね?』
「わかった!! 委員長、大鳥さん、スライム帰る準備を整えておいて! おっさんたちが帰って来たらすぐに食べ放題だよ!」
早く帰ってこないなかな~!
《???》
「…………」
それはゆっくりと移動していた。
目覚めてからずっと探し求めていたモノを求めて。
求めていたモノは突如として目の前に現れ、それに気付くことなく去って行った。
動けるようになってからしばらくは存在を近くに感じながら出会った場所で待っていた。
待って。待って、待ち続けた。
だが、待っていても来るのは別のモノ。
待っていても来ないとわかると、行動を変えることにした。
もしかしたら自分が使えないから来ないのかもしれないと思い、自分の手足のように動かせる存在を増やしていった。
近くにいるのはわかっているのだ。
焦ることはない。
しかし、どれぐらいの時間が経った頃か。存在が遠く離れて行くのを感じ取ってしまった。
慌てて追いかけた。
待ってくれ!と。
だが速度が違うためかなかなか追いつくことが出来ない。加えて増やした仲間たちが敵に見つかっては数を減らすのでまた時間がかかってしまう。
それでも追い付きたい、会いたいんだともがき続け、ようやく追いついたと思ったらそれは奪われた。
奪った存在はわかっている。
待っていた場所に度々現れていた存在だ。
そいつがいるから会いたいモノは会いに来てくれなかったんだ!
追いかけたいが、この衝動を抑えきれない。
怒りを哀しみをぶつけなければ……。
ちょうどいいことに、目の前にはこれまでも薙ぎ払って来た者たちがいる。
不満をぶつけよう。
求める存在が手の届かないところにまで行ってしまった不安を忘れるように。
それが終われば再び追いかけよう。
何度でもいつまでも求める存在に追いつけるその日まで。
手に入れたら、二度と離さぬように握り緊めるまで。




