012 いざ行かん、盗賊退治~軽い勇者ホイホイ
いよいよ勇者のフルネームが明らかに・・・!
「さあ、世に蔓延る悪を退治しに行くぞ!!」
「「「…………」」」
荷台の一番前で騎士団長から借りた剣を掲げてカッコつけてる勇者(笑)。どうせカッコつけるのならあの短小でも構えていればいいのに。
ほら、後ろから恨みがましいというかバカを見る目で仲間たちが見守ってるよ?
遡ること約一時間前、騎士団長からの要請でモンスター退治に出発することになった召喚者たち。
先日仲間にしたスライムがいるから最近はこっそりと見守っていたんだけど、どうも勇者(笑)が唆されて勝手にOKしたらしい。
『……まだレベル1なのに、なんであんなに自信満々なんだろう?』
イマイチどういうシステムかはわかってないけど、レベルっていうのはこの世界ではとても大切な要素なわけでしょ? 自衛の手段すら持っていないのに、よくモンスター退治……それも遠征に行けると思ったものだと思う。
ビッグボアを倒したことが自信に繋がったらしいけど、あれ倒したのはほとんど騎士の人たちだよ?
「…………(ぶつぶつ)」
おや? 何か言っているみたい。
『ちょっとここで待っててね?』
『……?』
私が言うとスライムは器用に首?を傾げている。
馬車に便乗する時に声は出さないように言っておいたからなぁ。何にせよ伝わっていると解釈して、私はちょっと探りに行っておこう。
「(……ふふっ、キタキタ。来たよ。ついに来た)」
『怪しい顔だなぁ。それでも勇者なのかね? ああ、勇者(笑)だったか』
「(ここで活躍すれば、汚名返上の上に美人な嫁さんゲットとかやれるところを見せるしかないっしょ!)」
……うん。説明ありがとう。
どうやら出発前に騎士団長と密約を交わしていたみたい。聞こえてきた内容から考えれば、女性を紹介してやるってところかな? ここ最近、女子たちには自分イケてますオーラを放ってる連中が積極的にすり寄ってたのに、男子たちには一切女の子が近寄らなかったもんね。
まあ、委員長に近付く輩にはスライムに協力してもらって邪魔してたから未遂に終わってるけど、何人かはちょっと怪しい雰囲気になりかけてたような気がする。
『う~ん……出発のタイミングといい、騎士たちの動きといい嫌な予感がする』
何もないと良いんだけど。
とりあえず知りたいことは知れたし、仮にも勇者なんだから私みたいなモブが守るのはお門違いだと思うから自力で頑張ってもらうことにして勇者(笑)のバカさ加減にちょっと疲れたから、スライムに癒してもらおっと。
《勇者(笑)大蔵龍一》
「――騎士様っ、どうかお助けください!」
「……どうしたんだろう?」
城を出てから二日後。何事もなく進んでいた行軍が止まり、先頭の方が騒がしい。
勇者としては一刻も早くモンスターを退治して女の子とキャッキャウフフな展開を繰り広げたいのに。
「いや、待てよ……」
逆転の発想、こういう時こそポジティブに。問題が起きたのだとしたらズバッと見事に解決して株を上げておくのもいいかもしれない。そうすれば報酬として紹介してもらえる女の子のグレードが上がるかも。
騎士団長の話じゃ、貴族の女の子を紹介してくれるっていう話だったけど上手くいけばお姫様も紹介してもらえたりしない? いや、むしろお姫様自身が噂を聞いてやって来るんじゃない?
「どうかしましたか?」
都合のいい妄想を抱きながら、何気ない感じを装って騒ぎに近寄ってみるとそこでは汚い恰好をした男が騎士たちになにやら懇願している様子だった。
あまりのみすぼらしさに一瞬、ホームレスかと迷惑そうな顔を浮かべてしまう。
「オークラ殿。この者は近くに住む農民です。どうやら最近この辺りに盗賊が出没しているらしく、それで娘を攫われてしまったそうなのですよ」
「……えっ?」
騎士団長が言った『オークラ』というのは城の外での勇者の呼び方だった。世界を救うために異世界から勇者を召喚したというのを大っぴらにすると魔王側に情報が漏れる可能性があるためということらしい。
それにしても……と再度男のじっくり眺めてみる。言われてみれば、上から下まで土や泥で汚れており、農業に携わっていると思えなくもないが、あまりにも汚らしい姿に本当に農民なのか?と疑問を抱かずにはいられない。
もしかしたら、この世界ではこれぐらいの恰好が普通なのかもしれないが城では身形の整った人間しか見て来なかったので夢にまで見たファンタジーの世界で一気に現実を突き付けられたような不快な気分になってしまった。
「わかりますよ。攫われてしまった者たちのことを憂いておられるのですね?」
「えっ、ええ! もちろん。許せないなぁ、盗賊なんて!!」
本当は違うが、勘違いしてくれてラッキーと誤魔化すような演技をする。
どうも騎士団長が自分に対してかなり好意的な印象を抱いているということは城にいる時から薄々感じていた。それと同時にこういう男ばかりの職場のトップなので、本当にそっち系の人かもと若干距離を取る。
初日以降、風呂場で毎日顔を合わせるという遭遇率の高さが疑惑をより濃厚なものにしていた。
「さすがは正義の使者と評される御方だ。……安心するといい。我々の進行方向と重なることだし、盗賊を退治して娘を取り返してやろう!」
「ありがとうごぜえます! ありがとうごぜえます!」
騎士団長の発言に突然何を言い出すんだとギョッとしてしまう。勇者としては困っている人を助けようという思いよりも、早く帰りたいのに余計な仕事を増やさないでほしいという思いの方が圧倒的に強かった。
「オークラ殿、盗賊に攫われたということはこの者の娘は見目麗しい少女に違いありません。そうなると、魔族の生け贄に捧げられるか奴隷として売り出されるかしかありません。どうかご協力を!」
「そんなこと言われても……ちょっと待って。娘さんってそんなに美人なの?」
「へえ! そりゃ、もちろん! オラの娘だなんて思えねえほどの器量よしで、こう言っちゃなんですが姫様と比べても見劣りしねえと思ってますだ!」
「助けましょう!」
それを聞いて一も二もなく、即答する。
お姫様よりも美人っていうのはさすがに親としての贔屓目だとしても、それほどの美人、しかも農民の娘ならば助けた勇者に惚れるに違いない!
勇者の中ではいずれはお姫様もハーレムメンバーに加わる予定なのだから、ついでに数人の美人を囲っても問題ない。それどころかここで逃せば損をすると考えていた。
それに、どうせ戦うのは騎士の仕事であり、勇者の自分はおいしい所だけを貰えばいいんだから、楽勝楽勝――こんな考えの人間がどうして勇者に選ばれたのか。世界は雰囲気でしか勇者を選んでいない。もしも、この世界に勇者について詳しく研究する学者がいればそう結論付けたことだろう。
「そう言っていただけると思っておりました。では、オークラ殿からの許可も下りたことなので、目的を一時的に盗賊退治とする! オークラ殿、私は準備がありますので失礼します。オークラ殿もお早めに馬車にお戻りください」
「わかりました。オレはこの人ともう少し話をしてから、戻ります。少しでも希望を持ってもらわないといけませんから」
「……そうですか? では、話が終わり次第そちらの者は安全な場所へ避難させましょう」
部下に指示を出して戻って行く騎士団長を見送りながら、勇者は内心でガッツポーズを取る。
騎士団長が率先して雑用をやってくれるというのは願ってもない展開だった。行きがかり上とは言え、勇者を宣伝するにはもってこいの状況が転がり込んできたのだ。ハーレムを目指す者としてこれは見過ごせない。
この時には、城を出る前に身分がバレないようにと話し合ったことなど完璧に無視していた。
「大丈夫ですか?」
「へえ、あ、あの騎士団長様に意見できるあなた様は一体……?」
「ふっ、オレこそがこの世界を救うために異世界より召喚された者。救世主にして【光の剣】の使い手、勇者オークラ・ドラゴンファーストです!」
「ゆ、勇者様……!?」
驚く男に対してポーズを決めながら、ビシッと決まった!と歓喜の舞を踊りだしたいのを抑えるのが大変だった。馬車での移動している間ずっと考えていたこの世界での名前『オークラ・ドラゴンファースト』。異世界っぽい名前の割にはオークラっていうのはまだちょっとダサいが、そのうちミドルネームとかにすればいいと漠然と考えている。
そんなことよりもドラゴンファーストの方が重要だった。親から貰った名前だが、龍一よりも英語に変換した方が遥かにカッコいいと中二病的な自画自賛を送る。
「いずれは魔王を倒して世界を救うのです。その前にあなたの娘を救って見せましょう!」
勢いで押し切るためのオーバーリアクション、頭の中では広げた腕の中に助けた娘が抱き着いているシーンが流れていた。
「ありがとうございます! これで娘のことは心配なくなりましたっ!!」
「お、おう……任せとけ」
土だけでなく、鼻水や涙それに涎など様々な分泌物で汚れた手にガッシリと握り緊められ、不快感から振り払いたくなる。
だが、せっかく上げた好感度のためだとぐっと堪え……ようとしたが無理だったので早々に傍にいた騎士に押し付けて、その際きっちり汚れまで拭き取ってから退場を見送った。
「……ふぅ。勇者するのも楽じゃねえな」




