011 バカな子ほどアホの子は~出番ないとか端折り回だわ
今回も残念な主人公の登場はありません。
《ガンファーレ大王国 国王》
「…………」
「…………」
重苦しい沈黙が室内を支配する中、国王の前では騎士団長が室内全員の視線を一身に集め王に深々と頭を下げていた。
「……よい。面を上げよ」
「はっ……」
いつもの騎士団長らしくない弱々しい言葉は彼の責任感の重さとプライドの高さを表しているようだった。昼間、勇者たちがレベルアップをしない原因と考えられるスライムに逃げられたことを深く恥じ入っているのだ。
「逃げられたものは仕方がない」
「……申し開きのしようもございません。この咎は如何様な処分も受け入れる所存」
国王が言い訳を好まないことは家臣団の中では周知の事実。
仮に騎士団長がみっともなく言い訳を始めたならば、それこそ責任を取ってその命を捧げさせるつもりだったこともあり忠誠心が残っていることを満足気に思いつつ、今度の方針を語り始める。
「まあ、まだスライムが原因と決まったわけでもない……があまり悠長にしている場合でもない」
「陛下、まさか……」
「うむ。作戦を早める」
王の言葉にざわめきが起こる。
無理もない。現段階では勇者以外には戦闘に参加させてすらおらず、勇者のレベルが上がらない理由もわかっていない。
今、作戦を早めるというのはあまりにも時期尚早と言わざるを得ない。下手をすれば貴重な戦力になり得る者たちで失ってしまいかねない。
「……陛下、さすがにまだ早いのではありませんか? まだ勇者以外のスキルも確認しておりませんし、もしも使える者がいた場合、損失の方が大きくなる可能性がありますぞ?」
「笑止。有象無象がどれほどの価値を持っていようとも、最終的に必要になるのは勇者の力よ。ならば、勇者の覚醒のために使い捨てるぐらいの気持ちでなくてどうする?」
元より、数人は生贄に捧げる必要があったのだ。それが増える可能性が高まっただけ。今更躊躇する理由など存在しない。
「それは、そうですが……」
「――陛下、よろしいですか?」
「……よかろう。話すがよい」
「感謝いたします。作戦を早めることは承知いたしました。……ですが、その場合当初危惧していた危険が生じる可能性もあります」
作戦の要を担う騎士団長が承知したことに動揺を隠せない者たちもいたが、そこから続く言葉に勝機を疑う視線が向けられる。
心証が下がっている状態で、逆らうような発言。下手をすれば騎士団長の職を解かれるだけでなく命を奪われかねない。
事実、王は不機嫌を隠さずに真意を問いただす。
「……それは自信がないと言いたいのか? もしもそうだと言うのならば……」
「いえ、そうではございません!」
王の言葉を遮るという不敬を働き、声を張り上げてまで主張する。
「陛下が御命じになるのならば、我が命に代えましても勇者の命を守って見せましょう。私が言いたいのは、盗賊だけでは不足かと愚考いたした次第」
「……ほぅ?」
「そこで、当初の予定はモンスター討伐と偽って出発させるものでしたが……実際に近隣に潜むモンスターもけしかけたいと考えております」
「バカなっ!?」
「何を考えておる! そんなことをすればレベル1の勇者なんぞ早々に死ぬぞ!」
「己の力を過信したか!! 陛下、失態を取り戻そうと無謀な作戦を実行させるわけにはいきません! お許しになってはなりません!」
本来の作戦を早めることでさえ、反感を買っているというのにそれを上回る被害が容易に予想できる提案に驚愕した重臣たちから次々に血迷ったかと抗議の声が上がる。
しかし、王は重臣たちの抗議をを手で制した。話の続きとその結果による恩恵を聞いておく必要があると判断したためだ。
「たしかに可能性は高いですな」
まるでタイミングを見計らっていたかのように発したのは開き直ったかのような言葉。それには先程まで同情的な感情を抱いていた者たちからも怒りや殺意が向けられる。騎士団長に向けられるのはもはや信頼のおける武の一角に対するものではなく狂人を見る目だ。
「盗賊だけでなく、モンスターにも襲われる。戦闘経験がほぼない勇者にとっては絶望的な状況と言わざるを得ません。……ですが、そこを命懸けで救われればどうなると思います?」
それは王だけではなく、他の重臣たちにも問うているような――まるで悪魔の囁きのように人々の心に潜り込み、先導する声色だった。
この時、王は騎士団長を過小評価していたことを認識する。
武に優れ、また王の意思を汲んで動くこともできる優秀な人材としての評価はあったが……謀にまで頭の回る人物であることは喜ばしいことだった。
「勇者は命の恩人である私に感謝し、心酔するに違いありません」
過去の勇者召喚を記した書にも勇者というのは義理人情に厚く、受けた恩を決して忘れないと伝えられている。いや、勇者だけでなく他の召喚者も同じようになれば……。
「そして、私の忠義のすべては陛下のために……!」
「…………」
なるほど。王は騎士団長の真の目論見を把握した。結局のところ、名誉挽回こそが騎士団長の最も望んでいることだった。
そのために一見無謀な作戦を押し通してよりよい成果を挙げたいのだろう。
……ハッキリ言って、失望した。謀に向いているわけではなく保身に走った結果ということに。
「……まあ、よかろう」
王が許可したことに、重臣たちからは騎士団長に向けられるもの以上の疑いが向けられることになる。
しょうのない奴、そういう思いはある。だが、元々無茶をしようとしているので問題ない。それに今の流れならば、失敗した場合の責任はすべて騎士団長に。成功した場合は失態を許すという形で手柄と勇者たちの服従というリターンが見込めるのもいい。
王の内心としてはそんなところだが、別に家臣に理解してもらう必要性を感じない。
「して? 作戦を開始するにはどれほどの時間がかかる?」
「おおっ! 了承していただけるのですか?」
「元より、作戦を早めようとしていたのだ。多少の変更はどうとでもなる」
自分の意見が採用されたことに騎士団長が今日初めて喜色満面の笑みを向ける。犬だったら、千切れんばかりに振る尻尾が見えていたことだろう。
このまま話を続けてもよいのだが、ここで王はダメ押しとなる一言を伝える。
「――それに、余はそなたを信頼しておる。任せるぞ?」
「ハッ!! ありがたき御言葉! このホルンスト・ビルフォード、必ずや陛下の期待に応えて見せます
! ――そのための作戦ですが、モンスターを導入してもよいというのならば当初よりも早めることは十人分に可能です。元より、モンスター討伐と偽って出発する手筈でしたので弱いモンスターの集落ならいくつか見つけてあります」
騎士団長は自分の描いている青写真を語って行く。
本来の作戦では、騎士が秘密裏に盗賊団を襲撃していき小規模な集団からどんどんと大きな集団へ、最終的に周辺にいる盗賊を一つの集団として勇者を襲わせる予定だった。
だが、モンスターを使っていいのならば野生のモンスターを追い込み、暴れさせる。その上で盗賊が逃げる方向に行くように誘導してやれば、盗賊とモンスターで勇者を挟み撃ちというパターンになる。
「盗賊退治に行くにも今のままでは、怯えてついては来ないでしょう。ですので、一週間ほどいただければ自信をつけさせて見せます!」
「……兵士たちの不満が堪らんようにな。演技をさせるのはいいが、兵士たちは我が国の剣よ。錆びさせてはいかんぞ?」
「心得ております。不満が発生する可能性がある場合、勇者たちの女を利用したいのですがよろしいでしょうか?」
「なるほど。女の召喚者たちを褒美として与えるということか」
「はい。ついでにスキルを確認できればと。所詮は無知な小娘です。兵士たちの中には貴族出身で野心家も多くおりますので、夢見がちな者を誑かすことなど造作もないかと」
「……その場合、上手くいった暁にはその者たちの実家にも配慮が必要か。それぐらいならばどうとでもなる」
王が言葉を発した瞬間、一部の者たちが食いついたのを悟った。口々に自分の息子や親戚の子らの作戦参加を要請する声が上がる。おそらく騎士団や兵士として子息を持つ者たちだろう。これで反対ムードだった作戦は一気に賛成派に傾いたことになる。
「お主らの気持ちはよくわかった。それでは作戦は一週間後、勇者たちを道具にするために迅速に行動せよ!」
「「「はっ!!」」」
《男子》
「なんかさ~、最近訓練キツくね?」
男子が集まる小部屋の一つ、水森明はそんな愚痴をルームメイトに溢すの最近の日課になりつつある。
「……最近って。訓練が始まってから一週間も経ってないだろ?」
そういう時、最初にツッコミを入れるのは決まって野々村信也。クラスではクール系メガネ男子にして副委員長をしている真面目くん。水森明がチャラい感じで正反対に見える二人だが、実は幼馴染で仲が良く、水森明が問題を起こしたらひとまず野々村信也に報告せよというのが共通認識とされている。
信也は見た目通りの文系のため、肉体労働は向いておらず訓練では人よりも疲れていても役目を放置せず律儀にツッコミを入れているのだ。
「信也だって不満がないわけじゃないだろう?」
「……オレは訓練がきついだけだ」
「嘘つけよ~。そもそも、不満なのは女の子が寄ってこないことだよ!」
「……それはたしかにな」
明が言いたいこともわかる。
訓練が始まってからというもの、なぜかクラスの女子にだけちょっと顔がいい男たちが積極的に近付いているのに、男子たちには異世界の女性陣が誰一人近付いてこない。貴族の令嬢ならわかるのだが、身の回りの世話をする侍女たちでさえ逃げるように去って行く。こんな場面に明だけでなく、男子全員が何度も遭遇している。
「勝手にこんなとこに連れて来といて、サービスもなしってありえねえだろうが~~」
「……サービスって」
おっさんかよというツッコミを入れる気力もなくなる発言である。
「諦めろよ。オレたちだけってわけじゃないだろ?」
クラスの男子の中で一番悲惨な状況になっているのは、勇者として召喚された大蔵だ。
彼は連日のように異世界の筋肉ダルマ筆頭、騎士団長によって手取り足取りの密着レッスンを受けているのだから。あれに比べれば女性が寄ってこないなんていうのはマシな部類になる。
「大蔵ねえ、あいつ勇者って言うけど……本当なのか?」
「どういう意味だ?」
「いや、ほら漫画とかだと勇者って呼ばれてる実は違って、モブとかが真の勇者~ってオチが多くね?」
「……結局は自分が活躍したいってことか」
その理屈でいくと、見た目的にモブじゃない明は無理だよという言葉は喉元まで出かかったが、言わないでおいた。
「あぁ~、モテて~~!」
「やめろよ。虚しくなる」
「もういいっ、寝る!」
「……いつも勝手だな。まあいいや、オレも寝る」
そろそろこの国を出したいなぁ。次は無理でも5話以内いけるかな?




