部屋割り変更
『光の勇者』も合流します
ヒューとクロエは夫婦に?
翌朝。朝食を食べ終えてしばらくした頃。今度は、『光の勇者』のメンバー全員が、一緒にやってきた。
「レディク殿がヤリチン王で、才蔵で、魔力増強が出来るという話は、本当でしょうか。」顔を合わせたとたんに、ロジルが問いかけてきた。一応説明は受けたが、若干混乱中か。
「その通りだ。」
「俺はまた、リーダーが誰かに騙されてきたかと、思ってたが。」ザザイも困惑気味だ。
「気持ちは分からんでも無い。」
「どういう意味かしら。」レルミスが、何か不本意なことを言われたと、思ったようだ。
「君のパーティーのメンバーが、いつも君の身を案じている、という意味だな。」
「えっ?そうなの?」
「レディク殿の実力が、ただならぬものと言うことは、承知しているが、魔人を倒したという話、にわかには信じがたい。」ターボは、その点が気になるのか。
「なるほど。信じられないのは無理もないな。」
「それがしと戦って頂けないか。」ほほう、そう来るか。
「別にかまわんが。では、庭でやろうか。ルールなどに希望はあるかな?」
「実力を見せて頂ければ、いかようでもかまわん。」
「実力か。では全力の2割ほどを使ってみようか。」
「2割?拝見しよう。」ターボは一瞬、怒りの表情を見せかけたが、すぐに考えを変えたようだ。
通りからは見えにくい、庭の隅に移動する。
「レルミス。開始の合図を頼めるか?」
「え?わたくしが?そ・それでは、よういー、はじめー。」
気の抜ける合図だったが、ターボは剣を構え、突っ込んできた。そして、氷にぶつかった。約束通り、私の魔力の2割ほどを消費して作った、縦横10メートルと少し、厚さ5メートルの氷の固まりを、ターボの頭上に、やや斜めにして進路を塞ぐように出現させていた。
「なっ・・ぐわっ・・」ターボは逃げ場がないと見て、腕で落下する氷を支えようとするが、約500トンの氷を支えられるわけもない。
「まいった!・・」ターボが言い終わる前に、氷は消していた。引きつった顔で、仰向けに倒れたターボは、しばしの間、何もなくなった虚空を見つめつづけた後、ため息をついた。
「いたた。死ぬかと思った。」ターボがのろのろと起き上がる。打ち身とか捻挫とか、あるようなので、アベリアにヒールを掛けさせる。
「今のが2割でありますか。」
「私の魔力の2割ほどを使った氷だ。」
「では、全力だと・・」
「氷の厚さが25メートルになってしまう。遠くからでも丸見えだ。町中で使うわけには行かないな。」
「魔人と戦う際には、こんな大きな物は使われなかったようですが。」
「空を飛ぶ相手に、大きいだけの氷など役にたたん。重すぎて動かしづらいだけだ。スピードと正確さの方が重要だ。」
「なるほど。」
「ターボ。納得した?」レルミスがたずねる。
「レディク殿とリーダーの言を疑ったご無礼、お詫び申し上げる。」ターボが頭を下げた。
「ロジルとザザイも良いわね?」
「はい。納得しました。」
「いやー、氷でぺちゃんこにされちゃ、敵わねーからな。」ザザイは笑っているが顔がこわばっているな。
「では『光の勇者』パーティーは、今日で解散して、レディク様のパーティーに合流しますわ。新生『光の勇者』パーティーの誕生です。」レルミスが嬉しそうに、勝手なことを言い出す。
「「「えっ?!」」」一同驚きの声を上げた。
「ちょっと待て。何を言い出すんだ。」
「ダメでしょうか?良い考えだと思ったのですが。」
「レルミス自身もレルミスのパーティーも、それなりに有名で、名と顔が知られているじゃないか。他のパーティーに合流して、しかも、メンバーに特認冒険者が混じっている、なんて噂が広まったら、注目集めまくりだろう。」
「一緒に行動するのですから、一つのパーティーにしてしまった方が、都合が良いかと思ったのですが。」
「リーダー。そう言う話は、我々にも相談してから、進めてくださいね。」疲れた顔で、ロジルが言った。この男が一番苦労人のようだな。レルミスのことは、ロジルに任せておけば、問題ないだろう。
食堂に移動して、お茶を飲んだ。
『光の勇者』の予定を聞いたところ、ヤリチン王を見つけた後の予定は決めていなかった。資金的にも余裕があるので、予定は合わせられると言う。
我々の方の大まかな予定を説明した。まず、盗賊団の討伐報酬を受け取り、その後遺跡に行って、調査をする。同時に資金稼ぎと練習もする。おそらく11月初旬にシリンに向けて出発し、国王に会う。その後は、エルフの国に向かい、偉大なる予言を見る。合間に、我々が今後活動する拠点を、どこにするかも検討するつもりだ。
「国王に会う?!」『光の勇者』のメンバーは驚いたようだ。
「ああ。そういえば、この話はしていなかったな。気は進まなかったんだが、ニズロン子爵に、是非会いに行くように言われたので、仕方なくね。」
「仕方なく?!」
「目立ちたくないから、断ったのだが、目立たない場所で、ごく少人数での謁見を手配してくれるというので、会いに行くことになった。」
「パーティーの方全員で、謁見に行かれるのでしょうか?」
「いや。私と、他に3人かな。クロエとヒューは神の加護を受けているから、連れて行った方が良いかと思っている。ローズも、遺跡の謎の解明に取り組んでいる話をしておきたいから、連れて行くつもりだ。」
「あの。わたくしは?」
「ああ。そうか、レルミスも森の神の託宣を受けているから、一緒に行ってもらった方が良いか。面倒だろうけど、つきあってもらえるか?」
「面倒なんてとんでもございません。喜んでご一緒させて頂きますわ。」レルミスはにっこりと笑って答えた。喜んでいるようだ。
「ローランには、話を通して置いた方が良いだろうな。一応、マスクと衣装も用意しておくか。」
「マスクと衣装?」
「魔人と戦う者、才蔵として行動するときには、マスクを被って、普段と違う服装を着るようにしている。私と同行する者にも、マスクを被せておかないと、同行者の顔から、私の素性がばれるかも知れないし、同行者も狙われるかも知れないからね。」
「ずいぶん慎重なのですね。」ロジルが言う。
「私の感覚から言えば、むしろ君達が暢気すぎると思う。魔人は操った人間を使って、魔人にとって邪魔になる者を探し出し、次々と殺している。魔人を倒した者や、預言に関わる者、託宣に従う者が、魔人の抹殺対象リスト載ることは間違いない。今現在も、この町のどこかで、魔人に操られた者が、我々を捜しているだろうな。」
「『抹殺対象リスト』って、実際にそのような物があるのですか?」
「私の倒した魔人は、リストを持っていて、密かに多くの人を殺していた。幸い、私の名前はまだ、リストに載っていなかった。」
「あの、・・わたくしの名前は?」レルミスが質問する。
「直接リストに目を通しては居ないので知らない。君達の場合は、最近まで託宣を受けて行動していることを、人に話しているから、魔人が残したリストに載っていなくても、新しく作られるリストに、載らないとは限らない。気をつけた方が良いだろう。」
「厚かましいお願いですが、・・この家に泊めて頂くわけには、行かないでしょうか?」
「あら、レディク様のベッドで寝たいですか?」アベリアがにこやかに言う。
「え?いえ・・その・・」レルミスが顔を赤らめて狼狽する。
「心細くなったのだろう。」
「確かに、レディク様のそばなら、他の場所より安全かも知れません。私からもお願いします。」ロジルは賛成のようだ。
「かまわんがベッドはないぞ。」
「私の部屋のベッド、使ってないですー。」レスリーが手を挙げた。
「私の部屋のも。」ローズも言う。そういえば、いつも私のベッドで寝ているか。
「空き部屋にベッドを移動して、ヒューさんとクロエさんの、ご夫婦で使って頂いたら、いかがでしょう。応接室のスペースが空きますから、後4人くらいなら楽に寝られると思います。」アベリアが言う。
「夫婦?!」ヒューとクロエが驚いた様子だ。
「正式に結婚していないかも知れないが、おまえら夫婦みたいなもんだろう?確かにアベリアの言うとおりにした方が良さそうだな。」
「夫婦生活には、個室がないと、ご不便でしょうから。」アベリアがうなずく。
「いや・・僕たちは・・まだ・・」
「まだやってないのか?相思相愛なんだから、さっさとやっちゃえばいいのに。」
「いや・・愛の神の・・」
「愛の神公認の関係にゃ。何でさっさとやらないにゃ?きっと神様もいらいらしてるにゃ。」
『光の勇者』達は、急な話の展開について行けていないようだったが、部屋割りの変更が決定した。クロエもいやがっていないようだったので、問題ないだろう。
ベッドを空き部屋に移動し、ヒューとクロエの荷物と、ヒューとクロエも空き部屋に運び込んでしまった。
その後は、練習と魔力増強を行った。『光の勇者』の残り3人は、その間に宿に残した荷物を取りに行った。
レルミスと猫耳戦士には、今日はヒールの練習もさせた。魔力増強の感触はまだ固かったが、多少は慣れてきたかも知れない。やはり、昼近くにはヘロヘロだったが、昨日よりはましなようだ。
驚いたことに、アベリアが2日目にして強化魔法の発動に成功した。アベリアは治療魔法の練習ばかりしていたので、肉体に対する魔術構築式に慣れていたのだろうか。
「これで、私も今夜から使えます。」アベリアが嬉しそうに言った。




